どこまでも堕ちて
あずさは黒服のことを観察するようになっていた。
あずさが人気が出ると担当の黒服も出世する仕組みなようだった。
黒服は岡田と呼ばれていたが本名ではない。
それは岡田が黒服の面接を事務所でしていたのを偶然見かけて知った。
女の子だけでなく、黒服も源氏名のようなものを使うらしい。
あずさは昼職を辞めてから、当日欠勤などで女の子が足りないと呼ばれることが多くなり事務所に顔を出す機会も増えた。
一部の女の子しか出入り出来ない事務所に顔が出せるのは優越感があり、岡田の仕事姿を見られることも嬉しかった。
黒服と風俗嬢の恋愛は基本的に禁止である。
基本的にというのは、表向きは
ということ。
こっそり付き合ったり、担当の黒服が色恋(恋愛感情を利用して)で女の子にやる気を出させる
なんてことはそこら中で見かける。
あずさは、岡田が好きである。
岡田もあずさの気持ちに気づいている。
しかし、岡田はあずさに色恋は仕掛けてこなかった。
あずさは色恋でも良いから岡田と付き合いと思っていたが、そんな素ぶりもないことからきっと岡田には本命の女か家庭があると思っていた。
お店が暇だった日にあずさは同じ店で働くみほと仕事終わりにファミレスにいた。
ドリンクバーにいたあずさが喫煙席の方を見ると黒服達が同じ店で食事していた。
黒服の中でも幹部と呼ばれる3人
人気ナンバーワンの担当の宮野
在籍歴の長い石田
あずさの担当で黒服達の管理もしている岡田
みんな覚えやすい名字なのは偽名だからだな。と改めて考えていると岡田と目が合った。
なんだか気まずくなり、早めに店を出ることにした。
店を出るとみほはさっさとタクシーに乗って帰っていった。
あずさはコンビニに寄ってから帰ろうと、みほを見送り後ろを振り向くと岡田がコンビニの前からこちらを見ていた。
あずさがコンビニに向かって歩いている間、2人はずっと目が合ったまま、相手を見ていた。
あずさが岡田にお疲れ様です。
と挨拶すると岡田はあずさの腕を掴み
岡田「不良娘。さっさと帰れ。」
あずさ「子ども扱いしないでよ、もう二十歳になったんだから」
岡田「なんだ、もう酒飲めんのか。じゃあ付き合え」
そう言うと岡田はあずさの手をとり歩きはじめた。
あずさは、岡田の様子がいつもと違うのが気になりつつも2人で店の外でいることに浮かれていた。
あずさは、1週間前に二十歳になったばかりだった。
酒を飲んだことはあるが、居酒屋で堂々と飲めること、好きな男と一緒ということに浮かれて酔っ払っていた。
岡田もいつもよりくだけた感じで、幼く見えた。
酔った勢いでそのままラブホテルに入った。
あずさは初恋のようにドキドキしていた。
1年以上片想いしていた岡田とやっと結ばれた。
やっと黒服と風俗嬢より先の関係になれる。
そう思いながら、慣れない酒が回り寝てしまった。
あずさが起きると朝になっていて、岡田の姿はなかった。
少し虚しいけど、昨日のことを思い出すと顔がゆるむ
今日はオープンと同時に出勤のためホテルからそのまま店に向かった。
店の裏の事務所の前で宮野と石田が知らない男と真剣な表情で話している。
まだ、出勤には早い。
コンビニに行こうと通りすがりに聞こえてきた。
岡田が金を持って逃げた
あずさは頭が真っ白になった。
どういうことか確かめたいけど、岡田の連絡先は店のケータイしか知らない。
金を持ち逃げしたのなら繋がるはずがない。
本名も連絡先も何も知らない。
あぁ、そっか。
あずさ「やり逃げかー」
そう呟くと、あずさはタクシーに乗った。
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