第6話 闇の竜を探しに。

基本ルールはこうだ。


一、闇の竜の捕縛及び、怪異の報告。

一、呪いと呪詛を使うのはかまわないが己からの出力だけ。今回は呪い紙なし。グミもなし。

置いてくると面倒になるからだ。

一、途中リタイア可。


回廊の向こうはホテルで、

白い風船の諜報員も、二人来ている。

報告は彼らへ。


ホテルは二部屋があるそうだ。

キリスとメイドが、各々鍵を渡された。

連絡通路で、繋がっているとのこと。


現場は、

仮装パーティーの会場だ。

運河のある街。

人びとはきらびやかな格好で仮面をして街を歩く。

一ヶ月の祭りのうちの、

最期の二泊三日。

窓越しに外を観察しても良いし、街歩きでもいい。

キリスと二人で、熱に浮かれた街を歩く。

楽しそうだ。

夢のようなプランだ。

胸が高鳴った。



俺は予定を早めて、

昼には出立したいと伝えた。


真夜中にグミの効果が切れるし、

二十四歳のままで向こうへ行きたい、

キリスとの揃いの礼服も、

街歩きの調査にちょうどいいだろう?と。

かなり、熱っぽく伝えた。

そして承諾された。



彼らは、

俺の身元引受人なんだ。

見栄を張ったって仕方ない。


俺の長年の経緯(あれやこれや)も知ってるし、

旧身体を捨ててメタモルフォーゼの回廊をくぐり、

キリスに相応しい男になるべく、

銀髪小僧に転生したこと、

俺の身体はプラチナのように燃えていることなんて、当然知ってる。

お互いを、利用しつくしたらいい。


闇の竜捕縛の、

成功報酬ボーナスは、

年齢設定のグミだった。

ふふっ。


やるぞ!

俺の紫水晶の瞳のプラチナが燃えた。



葡萄と杏も、

予定を早めて、

同じタイミングで来てくれることになった。


俺は赤ん坊に戻ったら、

彼らの世話を受けながら、

別ルートで諜報活動するのだ。

居てくれたら、

安心して動ける時間が大幅に増える。

弾丸スケジュールで申し訳ない、ありがとうと、

お礼を伝えた。



そうして、

天文台にある関係者用のシャワーを借りて、

歯を磨いた。


そして、

昼の鐘。


持ち物は、

最低限のお泊りセットだけだ。


葡萄青年は夫役らしく、

ぶっきらぼうだが、

精悍な顔をしてキリスの手をとり、

手の甲にそっと下唇を付けた。

そして、ぷいっと目を背けた。

キリスは妻役らしく微笑んだ。


へえ。

葡萄青年は、

俺のように、

にっこりするお道化でも、

アトラスのように、

メッキまみれで歯を光らすやつでもない、のか。

けちのつけようのない男だ。

文様は、葡萄の木だ。

力強く美しく優しかった。


俺は従者らしく、

にっこりした。

今の彼女キリスは、

仕事仲間ビジネスパートナー

そして女諜報員スパイだ。

この程度で狼狽えたら身が持たない。


思いつつ、

…、

しっかり動揺はしていた。

への字口で、目を閉じたまま空を仰ぎ、

シマシマエナガンみたいな顔をしていたはずだ。

…、

…、

昔から諜報活動向きじゃないんだよ!

俺は!!


船団時代からそうだ。

知らぬ間に仲間の片棒担いでて、

知らぬ間に任務が終わっているのが、

常だった。


メイドの杏は、

かわいそうにな。

目を伏せて、

胸の前で両手をぎゅうと握った。

身体が小さく震えていた。

文様が見える。

雨に濡れた杏の木。

健気だ。


俺は彼女の肩を抱き、

顔を覗き込んで、

今すぐにっこりしてあげたかったが、

やめておいた。


後で葡萄本人か、

キリスにフォローしてもらおう。

もう三十七だ。

それくらいは出来るのだ。



そうしてトレッキングの予定が、

闇の竜の観察ドラゴンウォッチングへと変容した。 


行くぞ。

俺は気づけばキリスの手を取っていた。

そして、

四人でとことこと、

白い次元の回廊を抜けてゆく。



(続)

















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