第10話 囮の変更
そうして、
天文台へ戻ってきた俺たちは、
再開を誓って、
昼の鐘を待たずに解散したのだった。
俺の分は、
明朝までに、
魔法封書で飛ばしてくれればいいとのことだった。
ありがたかった。
もうクタクタだ。
◇
0歳の手で、
売店でものを買い、
手紙を書くのは、
本当に骨が折れたのだ。
フード付きのコートを呪いで立ち上げ、
売店とは筆談で押し通した。
ペンを持つのも大変なんだぞ。
まあこれは、元々上達していたんだけど、な。
◇
葡萄はもうとっくに、
俺の仕業だと、
気づいてるだろう。
諜報部員だからな。
矜持を損なうことなく、
折衷案を出さざるを得なかったんだろう。
いい男だからな。ふふ。
何れまた、
近いうちに俺たちは会うだろう。
あの皇国フェスでシリウスをぐるぐるまきにしてた、屈強な君だからな。
◇
さーて。
竜医院の仕事にだって、
戻らなきゃならない。
寝るぞ。
赤ん坊の特権だ。
俺はキリスの胸の中で、すやすやと眠った。
うっすらと開けた眼で、
身元引受人の格好のまま、上機嫌のシリウスが見えた。
俺の頭を撫でている。
ふっくらとした、温かい手だ。
ちび白竜にだけ見せる、
底抜けに優しい眼。
キマり過ぎてる衣装。
スーツは、ピンク色に変わっていた。
ははーん。
葡萄と杏に、
主役を持っていかれたくなかったわけだ。
まったく、
元気なお爺さんだ。
白竜は以前と同じスーツのまま、
にっこりと笑っていた。
報酬と土産を受け取る、
みんなの姿が見えた。
◇
そして、
後日の皇国新聞。
俺のオムツ姿が。
見開き一面の特大広告になっていた。
アメジストの瞳を晒して。
回廊のあっちでもこっちでも、
流したということだろう。
◇
囮を俺に変えた。
◇
フン。
まあいい。
やることは変わらない。
俺も同じ気持ちだ。
そうして、
キリスは。
再び紅玉の瞳を、封印した。
それは、
優しいシリウス爺さんからの、
はっきりとした、
『命令』だった。
彼女自身、
呪詛を引き起こすことが、
よくわかっただろう。
どんなに、
注意深く振る舞ったとしても。
次元の回廊の向こう側に行ったとしても、だ。
俺は、
胸が痛かった。
もっともっと力が欲しかった。
情けなくて、
頭を斜めに振った。
メッキが飛び散った。
◇
しかし、
シリウスからの大きな贈り物もあった。
俺は、二十四歳に戻ったのだ。
ここからリスタート、だ。
◇
俺は、
新聞を伏せて、
彼女をまっすぐ見た。
紫水晶の瞳で。
そして、
美しい彼女を抱きしめた。
そして、
にかっと笑ってみせた。
変だろうか??
でも、
メッキでもないんだ。
俺の胸は、
過去一、
猛烈に、
プラチナが燃え盛り、体から吹き出しそうなくらい、
立ち上がっているのだ。
ぷぷっ。
あははははは!!
俺達は、
服を着たまま、神殿のスパへ突っ込んだ。
二人で笑った。
◇
もし紅玉の瞳を晒したくなったら、
今は俺にだけ、
そうして欲しい。
情けなくて、
悔しくて、
誇らしくて、
あまりの身勝手さに、
俺のほうが、
白い水たまりなって、
消えてしまいそうだったが、
◆◆◆
紫水晶の瞳が、
必ず俺を、
◆◆◆
これまでと違い、
それは、
なめらかな白い雲になって、
転生のお道化は、
天性の囮、
なのかも、
しれなかった。
◇
そして彼女は、
命に従い、
ビキニアーマーに白衣の、
みんな竜医、ミルダの姿へと、
戻ったのだった。
胸元には、
白銀にルビーをあしらった、
ハイビスカスのネックレスが光っていた。
(続)
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