第10話 囮の変更

そうして、

天文台へ戻ってきた俺たちは、

再開を誓って、

昼の鐘を待たずに解散したのだった。


報告書レポートは三人の手でよく纏められており、

俺の分は、

明朝までに、

魔法封書で飛ばしてくれればいいとのことだった。


ありがたかった。

もうクタクタだ。



0歳の手で、

売店でものを買い、

手紙を書くのは、

本当に骨が折れたのだ。


フード付きのコートを呪いで立ち上げ、

売店とは筆談で押し通した。

ペンを持つのも大変なんだぞ。

まあこれは、元々上達していたんだけど、な。



葡萄はもうとっくに、

俺の仕業だと、

気づいてるだろう。


諜報部員だからな。


矜持を損なうことなく、

折衷案を出さざるを得なかったんだろう。

いい男だからな。ふふ。


何れまた、

近いうちに俺たちは会うだろう。


あの皇国フェスでシリウスをぐるぐるまきにしてた、屈強な君だからな。



さーて。

竜医院の仕事にだって、

戻らなきゃならない。

寝るぞ。

赤ん坊の特権だ。

俺はキリスの胸の中で、すやすやと眠った。


うっすらと開けた眼で、

身元引受人の格好のまま、上機嫌のシリウスが見えた。

俺の頭を撫でている。

ふっくらとした、温かい手だ。


ちび白竜にだけ見せる、

底抜けに優しい眼。


キマり過ぎてる衣装。

スーツは、ピンク色に変わっていた。

ははーん。


葡萄と杏に、

主役を持っていかれたくなかったわけだ。


まったく、

元気なお爺さんだ。


白竜は以前と同じスーツのまま、

にっこりと笑っていた。

報酬と土産を受け取る、

みんなの姿が見えた。



そして、

後日の皇国新聞。

俺のオムツ姿が。


見開き一面の特大広告になっていた。

アメジストの瞳を晒して。

回廊のあっちでもこっちでも、

流したということだろう。




シリウスあいつは、

囮を俺に変えた。





フン。

まあいい。

やることは変わらない。

俺も同じ気持ちだ。




そうして、

キリスは。





再び紅玉の瞳を、封印した。




それは、

優しいシリウス爺さんからの、

はっきりとした、



『命令』だった。




彼女自身、

呪詛を引き起こすことが、

よくわかっただろう。

どんなに、

注意深く振る舞ったとしても。

次元の回廊の向こう側に行ったとしても、だ。



俺は、

胸が痛かった。

もっともっと力が欲しかった。

情けなくて、

頭を斜めに振った。

メッキが飛び散った。




しかし、

シリウスからの大きな贈り物もあった。

俺は、二十四歳に戻ったのだ。

ここからリスタート、だ。





俺は、

新聞を伏せて、

彼女をまっすぐ見た。



紫水晶の瞳で。



そして、

美しい彼女を抱きしめた。


そして、

にかっと笑ってみせた。



変だろうか??



でも、

メッキでもないんだ。

俺の胸は、

過去一、

猛烈に、

プラチナが燃え盛り、体から吹き出しそうなくらい、

立ち上がっているのだ。



ぷぷっ。


あははははは!!



俺達は、

服を着たまま、神殿のスパへ突っ込んだ。

二人で笑った。





もし紅玉の瞳を晒したくなったら、



情けなくて、

悔しくて、

誇らしくて、


あまりの身勝手さに、

俺のほうが、

白い水たまりなって、

消えてしまいそうだったが、






◆◆◆


紫水晶の瞳が、

必ず俺を、

キリスここに繋ぎ止めてくれる。


◆◆◆






これまでと違い、

それは、

なめらかな白い雲になって、

そらへと昇る心地がした。






転生のお道化は、

天性の囮、

なのかも、

しれなかった。








そして彼女は、

命に従い、

ビキニアーマーに白衣の、

みんな竜医、ミルダの姿へと、

戻ったのだった。




胸元には、

白銀にルビーをあしらった、

ハイビスカスのネックレスが光っていた。






(続)

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