第1話 再契約
森の皇国神殿。
白いちび竜は、
またたくまに快方に向かい、
マーケット近くにある自宅へと帰っていた。
俺は、誇らしかった。
竜医院のみんなを改めて尊敬したし、
親というものを知った。
シオルに対する俺を振り返ると、
…全然違った。
生来、資質に欠けているんだろう。
アトラスは取り繕うが、
船暮らしの長短は、関係ない気がする。
あいつは俺と同じような生い立ちだが、
親になれるやつだと思うからだ。
まだ、俺のことを性格の悪い白竜だと言い張ってる。
あいつ、嘘が多いんだよな。
気を使ってるんだろう。
◇
白いちび竜は、白い風船の諜報員だった。
そりゃそうだよな。
スーパーキッズすぎる。
しかし転生したわけではなく、本当の十歳だ。
シリウスのラジオと相性がいいなら、
直感が鋭いんだ。
病気ゆえかもしれない。
◇
俺も似てるんだ。
色白のドラゴンゾンビ。
生来の血の気の少なさを、
有り余る恩寵と呪いと呪詛、
船団の尻拭いと、
親友のツケ払いで
補っていたわけだ。
…
…
と、
とにかく!
◇
アトラスは転生者だ。
中身はうっすら三十六、七だ。
ポーラだってそうだ。
俺は今、
年齢設定のグミを使って、
二泊三日の二十四歳だ。
医師免許試験を受け、彼の手術をした。
その頃には、島のローカルルールだって、
出来ていた。
残債のある絵葉書が、
皆、俺の腕を高く買ってくれているのだ。
そして、
再契約である。
キリスは、引き続き俺のもんだ。
俺の見た目が、
瑠璃色の色白、
いい子ぶりっ子のボケナス小僧から、
王子様ぶった
銀髪小僧に変わったって、
そこは同じなのだ。
みんなに示さなきゃならない。
休暇(オフ)の日の、
サンバード三兄弟みたいな格好だ。
白い手袋の王子、あるいは従者だ。
キリスは元皇国姫皇女の霊媒師の礼装だからだ。
揃いの衣装なんだ。
アトラスとポーラの目を借りて俺が縫った。
二人はセンスがいいんだ。
彼らの話せない過去にまつわるのかもしれない。
彼女の服は、
男装の令嬢に近いが、
正真正銘女性の服だ。
そこは俺のこだわりだ。
彼女の文様が、
最も輝く服を考えたら、
それがあるべき姿だからだ。
紅玉の瞳。
いつだって彼女はきれいだ。
今日だって息を呑むほど美しい。
今回は、
人通りの多い礼拝堂ではない。
―
奥の部屋に通された。
神父長や兄貴分、ふとっちょ、巫女さんの判断だった。
「お前、目がやばかったぞ。」
「やってやるぞ感が、ねえ。」
「ミルダはうちの島の宝なんだ。
手荒なのは困るよ。」
うぐ。
ちえ。
にっこり笑う、
神父長たち。
みんな瞳に、
蒼白い炎が灯っていた。
俺だって、
アメジストの瞳にプラチナを燃やした。
儀式はしめやかに行われた。
物語、だ。
俺は怖い。
一人で抱えきれない。
もちろん責任はすべて俺が負う。
でも、
縋りたいんだ。
何かをなし得ないうちに
ばらばらに綻びないように、だ。
注意深く生きているつもりだ。
しかし、俺にだって見えないものがあるのだ。
だから、
解れかけた糸口が見えたら、
彼らには口を挟み、手を貸してほしいのだ。
だから、
前回と同じ。
きらきらの純白に、
カラフルな金平糖だ。
―よろしくなっ!!
◇
俺はシリウスの手配で、
身元引受人も現れることとなった。
アトラスと同じく、天文台の博士だ。
アトラスの両親と呼ばれる人たちとは違う。
別の博士だ。
きっと、俺は成人だからだろう。
用意されたのは、父親役一名だけだった。
シュッとした朗らかな紳士。
まだ会ってない。写真だけを見た。
それで俺は、
晴れてキリスとの釣り合いが取れるってわけだ。
ビジネスパートナー、
かつ、公認の恋仲。
友だちじゃない。恋人だ。
そうだよな?
アトラスや、
ポーラが言うような、
片思いや失恋じゃない、はず。
今は。
わからない。
俺は、そっちの帳尻合わせに疎いんだ。
み、見えない…。
再び、
【名の扉】の
そうして、俺は彼女の鍵束に刺さる。
それだけのことだ。
なぜ身元引受け人が、
天文台の博士であるべきなんだ??
よくわからない。
モーブくんのうちわで大暴れするやつが、
説得力ないけどな。
いい子ぶりっこのボケナス小僧。
改め、
王子様ぶりっこの
銀髪小僧の
文様巡りのド変態。
最初期どころか、
連盟も、メタモルフォーゼ後の文様も知ってしまった。
俺は、全て美しいと思う。
あの輝きには、何をどうしたって抗えない。
魅了されているのだ。
今の矜持は、
一、いんちきしない。
一、風呂に入れ、歯を磨け。
一、ポーラにケチるな。
一、キリスを幸せにする。
こうだ。
◇
グミの効いてる二泊三日のうちに、
森の皇国神殿の地下を整えて、
南十字星の工房のほとんどを移した。
もう、
こそこそ隠れなくていいらしい。
でもいい。
しばらく、
彼女以外、
誰も呼ぶ気はない。
俺も彼女も、貴重な休暇(オフ)なんだ。
俺は、ベッドの上にどさっと転がって、
礼装をぽいぽいと脱ぎちらした。
しかしキリスが、
無言で宝飾品を外し、
服を脱ぎ、畳み、
クローゼットにきれいに収めてる姿を見て、
ぎくーーーっ!!とした。
そして、同じように行儀よく振る舞った。
彼女はノーリアクションだ。
ベッドサイドには、分厚い本が山積していた。
以前より増えている気がする。
ま、
まさか、
俺に張り合ってるのか?
キリスは凝り性だし、
負けず嫌いだからな…。
彼女の仕事に口を挟んで、
手技で打ち負かしてしまったのもマズかったのかもしれない…。
わからない。
それでも、
キリスは、
綿菓子のように、
ふわふわとすべらかで、
翼が生えたように、
ぽかぽかと暖かかった。
胸を指す花や果実の香り。
マイ枕も持ってきていた。
頭がくるくるした。
俺は、顎まで汗びっしょりになるけど、
構わない。
休暇だ!
◇
明日は、
天文台のオリオリポンポス山で、
トレッキングだそうだ。
もちろん、二人で俺の父親に会うためだった。
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