第1話 再契約

森の皇国神殿。


白いちび竜は、

またたくまに快方に向かい、

マーケット近くにある自宅へと帰っていた。


俺は、誇らしかった。

竜医院のみんなを改めて尊敬したし、

親というものを知った。

シオルに対する俺を振り返ると、

…全然違った。


生来、資質に欠けているんだろう。

アトラスは取り繕うが、

船暮らしの長短は、関係ない気がする。

あいつは俺と同じような生い立ちだが、

親になれるやつだと思うからだ。

まだ、俺のことを性格の悪い白竜だと言い張ってる。

あいつ、嘘が多いんだよな。

気を使ってるんだろう。



白いちび竜は、白い風船の諜報員だった。


そりゃそうだよな。

スーパーキッズすぎる。

しかし転生したわけではなく、本当の十歳だ。

シリウスのラジオと相性がいいなら、

直感が鋭いんだ。

病気ゆえかもしれない。



俺も似てるんだ。

色白のドラゴンゾンビ。


生来の血の気の少なさを、

有り余る恩寵と呪いと呪詛、

船団の尻拭いと、

親友のツケ払いで

補っていたわけだ。


と、

とにかく!



アトラスは転生者だ。

中身はうっすら三十六、七だ。

ポーラだってそうだ。 


俺は今、

年齢設定のグミを使って、

二泊三日の二十四歳だ。

医師免許試験を受け、彼の手術をした。

その頃には、島のローカルルールだって、

出来ていた。

残債のある絵葉書が、

おきもちなんやかんやで届いたのと同じだ。

皆、俺の腕を高く買ってくれているのだ。


そして、

再契約である。


キリスは、引き続き俺のもんだ。


俺の見た目が、

瑠璃色の色白、

いい子ぶりっ子のボケナス小僧から、


王子様ぶった紫水晶アメジストの、

銀髪小僧に変わったって、 


そこは同じなのだ。

みんなに示さなきゃならない。


休暇(オフ)の日の、

サンバード三兄弟みたいな格好だ。


白い手袋の王子、あるいは従者だ。

キリスは元皇国姫皇女の霊媒師の礼装だからだ。

揃いの衣装なんだ。

アトラスとポーラの目を借りて俺が縫った。


二人はセンスがいいんだ。

彼らの話せない過去にまつわるのかもしれない。


彼女の服は、

男装の令嬢に近いが、

正真正銘女性の服だ。

そこは俺のこだわりだ。

彼女の文様が、

最も輝く服を考えたら、

それがあるべき姿だからだ。


紅玉の瞳。

いつだって彼女はきれいだ。

今日だって息を呑むほど美しい。


今回は、

人通りの多い礼拝堂ではない。

奥の部屋に通された。

神父長や兄貴分、ふとっちょ、巫女さんの判断だった。

「お前、目がやばかったぞ。」

「やってやるぞ感が、ねえ。」

「ミルダはうちの島の宝なんだ。

手荒なのは困るよ。」


うぐ。

ちえ。


にっこり笑う、

神父長たち。


みんな瞳に、

蒼白い炎が灯っていた。

俺だって、

アメジストの瞳にプラチナを燃やした。

儀式はしめやかに行われた。


物語、だ。 

俺は怖い。

一人で抱えきれない。

もちろん責任はすべて俺が負う。

でも、

縋りたいんだ。

何かをなし得ないうちに

ばらばらに綻びないように、だ。

注意深く生きているつもりだ。

しかし、俺にだって見えないものがあるのだ。

だから、

解れかけた糸口が見えたら、

彼らには口を挟み、手を貸してほしいのだ。


だから、

連盟おれたち魔法封緘シーリングの文様は、

前回と同じ。

きらきらの純白に、

カラフルな金平糖だ。 


―よろしくなっ!!



俺はシリウスの手配で、

身元引受人も現れることとなった。

アトラスと同じく、天文台の博士だ。

アトラスの両親と呼ばれる人たちとは違う。

別の博士だ。

きっと、俺は成人だからだろう。

用意されたのは、父親役一名だけだった。

シュッとした朗らかな紳士。

まだ会ってない。写真だけを見た。


それで俺は、

晴れてキリスとの釣り合いが取れるってわけだ。


ビジネスパートナー、

かつ、公認の恋仲。


友だちじゃない。恋人だ。

そうだよな?


アトラスや、

ポーラが言うような、

片思いや失恋じゃない、はず。

今は。


わからない。

俺は、そっちの帳尻合わせに疎いんだ。

み、見えない…。


再び、

【名の扉】のアクセスキーを交換するんだ。

そうして、俺は彼女の鍵束に刺さる。

それだけのことだ。

なぜ身元引受け人が、

天文台の博士であるべきなんだ??

よくわからない。


モーブくんのうちわで大暴れするやつが、

説得力ないけどな。


いい子ぶりっこのボケナス小僧。

改め、

王子様ぶりっこの紫水晶宝玉眼アメジスト

銀髪小僧の感想文ざれごとだ。


文様巡りのド変態。

最初期どころか、

連盟も、メタモルフォーゼ後の文様も知ってしまった。



俺は、全て美しいと思う。

あの輝きには、何をどうしたって抗えない。



魅了されているのだ。 



今の矜持は、

一、いんちきしない。

一、風呂に入れ、歯を磨け。

一、ポーラにケチるな。

一、キリスを幸せにする。


こうだ。



グミの効いてる二泊三日のうちに、

森の皇国神殿の地下を整えて、

南十字星の工房のほとんどを移した。


もう、

こそこそ隠れなくていいらしい。


でもいい。

しばらく、

彼女以外、

誰も呼ぶ気はない。

俺も彼女も、貴重な休暇(オフ)なんだ。


俺は、ベッドの上にどさっと転がって、

礼装をぽいぽいと脱ぎちらした。


しかしキリスが、

無言で宝飾品を外し、

服を脱ぎ、畳み、

クローゼットにきれいに収めてる姿を見て、

ぎくーーーっ!!とした。

そして、同じように行儀よく振る舞った。

彼女はノーリアクションだ。

ベッドサイドには、分厚い本が山積していた。

以前より増えている気がする。


ま、

まさか、

俺に張り合ってるのか?


キリスは凝り性だし、

負けず嫌いだからな…。

彼女の仕事に口を挟んで、

手技で打ち負かしてしまったのもマズかったのかもしれない…。

わからない。


それでも、

キリスは、

綿菓子のように、

ふわふわとすべらかで、

翼が生えたように、

ぽかぽかと暖かかった。

胸を指す花や果実の香り。

マイ枕も持ってきていた。


頭がくるくるした。

俺は、顎まで汗びっしょりになるけど、

構わない。

休暇だ!



明日は、

天文台のオリオリポンポス山で、

トレッキングだそうだ。

もちろん、二人で俺の父親に会うためだった。

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