●◯ ホークの贈り物


まだシオンが、

南十字星のホークと名乗っていた頃。



ビジネスパートナーとなったミルダに、

渡したものがある。



鳶のネックレスだ。



彼は、

本当にごくごくまれに、宝飾品も作るのである。



ある日、

瑠璃色の髪の青年は、

小さな包みを、こともなげに彼女に渡したのだ。


魔法封緘は濃紫に金の箔。

文様は、南十字星。

それだけだった。


呪いのかかった美しい箱には、

光沢のある白地に、金の刺繍があしらわれていた。




ホークは、

シオンだ。


銀髪になったって、

彼は彼だ。


わかっている。


でも、

ホークと、

つい口をついて、出そうになる。


瑠璃色の、

あの輪郭線がよぎる。


くしゃくしゃの髪や、

シャツや、

だらしない袖が。


…。



赤い満月。

瑠璃色の髪。

青白い肌。

濃紫の瞳にブラックホールが宿って、

金の箔、銀の箔と、メッキの箔が、

ぐるぐると渦巻いて、

黒いローブを着て、

牙に血が滲んで、

白銀のように身体が燃えて、

顎まで汗びっしょりの、

泣き虫。



彼は、

消えてしまった。




あんなに貸してくれた、

黒いローブすら残してくれなかった。





宝玉の縫われた、

リフォーム済みのローブも、すごく気に入ってる。





私のせいだ。


 






鳶色のネックレスは、

抽斗にしまってある。

大切すぎて、もう付けられなくなってしまった。



代わりに付けているのは、

マーケットで買った白銀の指輪。


内側に瑠璃色の石ラピスラズリが、

あしらわれたものだ。



南十字星のホーク。



竜医院には、

たくさんの魔法封書。

そして拙い文字。


そして、

オリオリポンポスの旅行で撮った、

四人の集合写真。

ホーク、ミルダ、シオル、アトラス。



あーあ。

もっと、写真を取ればよかった。

でも、



マイ枕には、

まだあなたの香りがする。

シオルの羽と一緒に、

ホークに貰った魔法封書の束も、

こっそり入れてるからだ。




白衣の釦は、

上から二番目の一つだけ縫い糸が違う。

ほつれたときに、

あなたが留めてくれた。




そして、

初めてのお手紙。




はるうらら ぼたんとれたら おれにまかせろ



これは、

たくさんの、

患者さんや、

家族や、

友だちの写真と一緒に、

今でも、

竜医院に飾ってあるよ。






ホークきみのことを、

今でも、忘れたことはない。





(終わり)

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