第8話 呪詛の魔法封緘
◇
まあでも、
そんなときのための仲間、
なんだよな。
キリス、杏、葡萄の三名は、
全員ミラーボールのように、
半裸でお道化の奇行に走る、
俺の後衛に回っていた。
俺は街で見た、
様々な文様を、
美しい幻想に変えて、広場の宙空いっぱいに放っていたらしい。
脱ぎ散らかしを拾い、
仮面がはずれないよう度々フォローし、
淡々と任務をこなしていた、
らしい。
俺に、
一切の記憶はなかった。
次元の回廊をこえた、
この世界の閃光に、瞳を灼かれ撃ち抜かれたんだろう。
そして彼らは、
粛々とペンを走らせ、
真夜中になる前。
調査報告書を、ぱたんと閉じた。
そして、
葡萄に、
それはそれは鮮やかな、
ローリングソバットキックをくらい、
俺は、
ホテルに運ばれたのだった。
◇
そして、
グミの効果は切れて、
俺は、
0歳の
翌朝は早くから、
シリウスの言う、
おむつのCM撮影、というやつだった。
俺は、既に書類審査を抜けていた。
スーツ姿のキリスが俺を抱えて、
従者二人と会場に入ると、
わっと、歓声があがった。
サングラスの男も、
尖った眼鏡の女も、
荷物を持った男女も、
みんなこちらを見た。
まあ、そりゃそうだよな。
回廊の向こうでは、
彼女は元皇国姫巫女。
国中の乙女の中の、
よりすぐりの五十一人。
さらにその中の、
伝説のスターだったのだ。
◇
俺は、
お道化をぞんぶんに活かして、
ハイテンションを引きずったまま、
撮影班たちへ、
にこりにこり、とポーズを決めてみせた。
転がったり、
振り返ったり、
目をくりんとさせたり、
体中のいろんなパーツを強調してみせた。
きゃあっ、
わあっ、と歓声が上がった。
キリスにはすごく褒められた。
抱っこされて、
俺はご満悦だった。
そして、
奥で。
赤ん坊に、
魔法封緘を施そうとしている他の母親を見た。
呪いはいいんだ、
別に。
好きにしたらいい。
しかし。
◆◆◆
それは、
呪詛だった。
◆◆◆
背筋が凍った。
◇
瞬間。
下腹に力を入れて。
ぷうーっ!!
それから
…
ね?
仕方ないだろ!
解呪を、
急がなきゃならなかったんだ!!
ガワは0歳だ!!許せ!!
会場が、
涙目でふるふるして泣く俺に、
どっと大爆笑してる間に、
葡萄は、
フッと素早く呪いを飛ばし施してくれた。
そうして、
赤ん坊につけられた魔法封緘の仮面は、
寸前で、
ぐじぐじした呪詛をバチンと外し、
きらきらした
母親もハッとしたよ。
よほど疲れてたんだろう。
同じく、
笑ったあとにハッとした仲間や、
スタッフや、
同席の人たち大勢に抱えられて、
会場をあとにしたよ。
キリスの、
ドレスはもう…、
後で、
ジャンピング土下座ち、
特大ビンタののち、
俺の数々のお宝を売って、
帳尻を合わせるつもりだ…。
うう。
◇
と、思っていたら。
すごいよな。
杏がもう手を売っていたんだ。
輪郭線を消した大きなエプロン。
あらかじめ呪いをかけてあったんだ。
だから汚れたそれを、
ぱっとはずしくるくるとまとめて、
あっという間に燃やし消した。
潮風と炎の交じった呪いが、
あっというまに場を浄化した。
俺の尻をぐいんっと拭って再び燃やし消した。
キリスも素早く拭った。
花と果実酒の香り。
葡萄も側に来た。
そして、
俺のかつての集大成ともいえる、
宝玉の数々を糸に変え、
刺繍を施した美しい赤いローブを、
ふわりとかけた。
そして頭を下げ、
かまわないと、
キリスに手で制させて、にっこり微笑ませたうえで、
退場させたんだ。
美しい従者たちを従え、
聖母は去りぬ。
ぱたん。
すげえ。
レンやサヤナ、ナギサやチワが、
すぐによぎった。
そして、びっくりした。
だって、ナギサがそこにいたからだ!!
杏の後ろから、にこっとして控えめに手を降った。
そうか。
君は、この出身だったのか。
十歳くらいだろうか。
前に見かけたときより、幼いが間違いない。
運河の国。
ログイン名は物語。
年齢も上限の十四歳に設定したんだろう。
100%彼女の任意なんだ。
彼女は、大家族育ちの5女だそうだ。
◇
それにひきかえ。
竜騎士団第七船団。
気のいい竜騎士のおっさんたちに、
ちびの頃からぬくぬくと甘やかされた、
元竜の俺は、
天才竜騎士かつ、
お道化の天才だが、
本当に、
本当に、
本当ーーーーに!!
世間知らずなのだ。
いや??
アトラスは違う。
あいつはなー。
俺が、
魔法封緘を覚える以前。
ボケナス小僧ではなく、
ただのぶりっ子だったころ。
お道化の俺はケラケラ笑って、
あいつの喜ぶ
俺は、残忍で暴虐になればなるほど、
噛みつけば噛みつくほど、
あいつはピューピュー血を流して大喜びだ。
俺の尻拭いは、
あいつの生きがいだったんだよ。
それはそれは、
奇妙な竜騎士と相棒竜。
タイプは違えど、
各々、
ボケナス小僧の片鱗を大いに見せていたわけだ。
(続)
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