第8話 呪詛の魔法封緘

◇ 


まあでも、

そんなときのための仲間、

なんだよな。


キリス、杏、葡萄の三名は、

全員ミラーボールのように、

半裸でお道化の奇行に走る、

俺の後衛に回っていた。


俺は街で見た、

様々な文様を、

美しい幻想に変えて、広場の宙空いっぱいに放っていたらしい。

脱ぎ散らかしを拾い、

仮面がはずれないよう度々フォローし、

淡々と任務をこなしていた、

らしい。


俺に、

一切の記憶はなかった。

次元の回廊をこえた、

この世界の閃光に、瞳を灼かれ撃ち抜かれたんだろう。


そして彼らは、

粛々とペンを走らせ、

真夜中になる前。

調査報告書を、ぱたんと閉じた。


そして、

葡萄に、

それはそれは鮮やかな、

ローリングソバットキックをくらい、

俺は、

ホテルに運ばれたのだった。



そして、

グミの効果は切れて、

俺は、

0歳の銀髪紫水晶眼ぎんぱつアメジスト赤ちゃんに戻った。


翌朝は早くから、

シリウスの言う、

おむつのCM撮影、というやつだった。


俺は、既に書類審査を抜けていた。

スーツ姿のキリスが俺を抱えて、

従者二人と会場に入ると、


わっと、歓声があがった。


サングラスの男も、

尖った眼鏡の女も、

荷物を持った男女も、

みんなこちらを見た。


まあ、そりゃそうだよな。

回廊の向こうでは、

彼女は元皇国姫巫女。

国中の乙女の中の、

よりすぐりの五十一人。


さらにその中の、

伝説のスターだったのだ。



俺は、

お道化をぞんぶんに活かして、

ハイテンションを引きずったまま、

撮影班たちへ、

にこりにこり、とポーズを決めてみせた。

転がったり、

振り返ったり、

目をくりんとさせたり、

体中のいろんなパーツを強調してみせた。

きゃあっ、

わあっ、と歓声が上がった。


キリスにはすごく褒められた。

抱っこされて、

俺はご満悦だった。


そして、

奥で。



赤ん坊に、

魔法封緘を施そうとしている他の母親を見た。

呪いはいいんだ、

別に。

好きにしたらいい。

しかし。


◆◆◆


それは、

呪詛だった。


◆◆◆



背筋が凍った。




瞬間。


下腹に力を入れて。

ぷうーっ!!

それから


ね?

自主規制さっしてくれ



仕方ないだろ!

解呪を、

急がなきゃならなかったんだ!!

ガワは0歳だ!!許せ!!


会場が、

涙目でふるふるして泣く俺に、

どっと大爆笑してる間に、


葡萄は、

フッと素早く呪いを飛ばし施してくれた。


そうして、

赤ん坊につけられた魔法封緘の仮面は、

寸前で、

ぐじぐじした呪詛をバチンと外し、

きらきらした呪いパーティの仮面に戻った。


母親もハッとしたよ。

よほど疲れてたんだろう。

同じく、

笑ったあとにハッとした仲間や、

スタッフや、

同席の人たち大勢に抱えられて、

会場をあとにしたよ。



キリスの、

ドレスはもう…、

自主規制さっしてくれ



後で、

ジャンピング土下座ち、

特大ビンタののち、

俺の数々のお宝を売って、

帳尻を合わせるつもりだ…。


うう。



と、思っていたら。


すごいよな。

杏がもう手を売っていたんだ。

輪郭線を消した大きなエプロン。

あらかじめ呪いをかけてあったんだ。


だから汚れたそれを、

ぱっとはずしくるくるとまとめて、

あっという間に燃やし消した。

潮風と炎の交じった呪いが、

あっというまに場を浄化した。

俺の尻をぐいんっと拭って再び燃やし消した。

キリスも素早く拭った。

花と果実酒の香り。

葡萄も側に来た。


そして、

俺のかつての集大成ともいえる、

宝玉の数々を糸に変え、

刺繍を施した美しい赤いローブを、

ふわりとかけた。

そして頭を下げ、

赤ん坊おれを抱くと手を差し伸べると、

かまわないと、

キリスに手で制させて、にっこり微笑ませたうえで、

退場させたんだ。

美しい従者たちを従え、

聖母は去りぬ。

ぱたん。



すげえ。


レンやサヤナ、ナギサやチワが、

すぐによぎった。



そして、びっくりした。

だって、ナギサがそこにいたからだ!!


杏の後ろから、にこっとして控えめに手を降った。


そうか。

君は、この出身だったのか。

十歳くらいだろうか。

前に見かけたときより、幼いが間違いない。

運河の国。


ログイン名は物語。

年齢も上限の十四歳に設定したんだろう。

100%彼女の任意なんだ。


彼女は、大家族育ちの5女だそうだ。



それにひきかえ。


竜騎士団第七船団。

気のいい竜騎士のおっさんたちに、

ちびの頃からぬくぬくと甘やかされた、

元竜の俺は、

天才竜騎士かつ、

お道化の天才だが、


本当に、

本当に、

本当ーーーーに!!


世間知らずなのだ。


いや??

アトラスは違う。

あいつはなー。


俺が、

魔法封緘を覚える以前。

ボケナス小僧ではなく、

ただのぶりっ子だったころ。


お道化の俺はケラケラ笑って、

あいつの喜ぶ理想の女トロフィーワイフをやってたんだよな。


俺は、残忍で暴虐になればなるほど、

噛みつけば噛みつくほど、

あいつはピューピュー血を流して大喜びだ。

俺の尻拭いは、

あいつの生きがいだったんだよ。


それはそれは、

奇妙な竜騎士と相棒竜。

タイプは違えど、

各々、

ボケナス小僧の片鱗を大いに見せていたわけだ。


(続)








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