第7話 特大の魔法封緘

回廊を抜けて、

ホテルに出た。


部屋割りは、

…男女別になった。

白い風船の諜報員二人にそうされたのだ。

なんでだよ!!


やってやるぞ感を出しすぎたか?

うう。



キリスや杏と別れて、

葡萄と部屋に入った。

広さはなく、

年季は入っている。

だが、あちこちに意匠が彫られた、

美しい部屋だった。

小さなバルコニーもあった。


荷物をまとめ、

身なりを整えつつ、

小窓から街を眺めた。


石や煉瓦たっぷりの街は、雨上がりのようだった。

空は薄曇だった。

しっとりと濡れた通りからは、

人々の熱気がむわっと立ち上がっていた。


たっぷりと膨らんだ、

きらびやかな衣装。

そして、きらびやかな仮面をしていた。

そんな人達が、一斉に街中を歩いているのだ。

凄い迫力だ!!


そして、

こっちの人は、

大きな魔法封緘を使うんだな。

だからベースはひらひらした軽い服なのか。

たくさんの魔法封緘を幾重にも塗り重ねるのが、

ここの国のスタイルのようだった。


葡萄は、

慣れた手つきで呪いを施した。

あちこちに紫のリボンタイがあしらわれた、

何とも個性的なスーツの青年になった。


そして、部屋の外でキリスや、

杏と落ち合った。


杏も、

フリルたっぷりの淡いピンクの服に、

フリルたっぷりの白いエプロン、

頭のフリルにも、

淡いピンクのリボンがくるくるとあしらわれ、

顎の下でするりと留めてある、

個性的な女の子になった。

メガネはそのままだった。

かなり大人っぽい真っ直ぐな髪の長い、

美人なのだが、

もじもじと恥ずかしそうに目を逸らした。


葡萄は、

目尻がツンと上がり、

さっきとは別人のように、

むっとした口だが、杏をまっすぐ見据え、

あろうことか、

手も大胆に添えだした。


そ、

そうか。

キミたちは、


そういう感じなのか…。


対抗心だろうか?

俺は、キリスとぎゅっとした。

キリスだって俺とぎゅっとした。


二人の肩や臍の、

チラチラ見える肌は、

十代のように透き通っていた。


白い風船の諜報員二人は、俺達全員に、

つるんとした白い仮面をくれた。

なので、

各々で呪いを施し、

衣装に合わせた綺羅びやかな仮面に変えて、 

俺達は、街へ繰り出した。



軽やかでいいなと思った。

これならば費用も手間も、

大幅に削減できるだろう。


しかも彼らの意匠というものを、

ふんだんに盛り合わせられる。

祭り限定なのか?日常的なのだろうか?


しかし、

…。

さぞ寒いだろうなあ、と思った。

ものによっては、

整合性や安定性に欠けるものが、

散見された。


案の定、

二人とも、

くしゅん!!と、

でっかいくしゃみをした。

ははは。

まあ、若いってそういうことだよな。


顔にも衣装にも、 

物語をぺたぺたと貼っていた。

呪いもあれば、呪詛もあった。

たくさんの、仮面を持ち歩いていた。

中には、呪詛の仮面もあった。

あーあ。下は、傷だらけだろう。

痛いだろうな、あれは。


しかし、みんな美しかった。

【名の扉】の文様は、閃光のように輝いた。

島のそれとは、明らかに異質だった。


一応、怪異のひとつとして、

報告書へ載せることにしよう。


◉幾重にも貼られる特大の魔法封緘。

◉閃光のような文様たち。



あちこちに見える七色の閃光の軌跡から、

目が離せない。

―面白い!!


◆◆◆


いつのまにか、

キリスのことをほったらかして、

浮かされて、

頭が一杯になっていた。


◆◆◆


彼女のことは大切だ。

でも駄目なんだ。


いつのまにやら、

手袋を失くし、

上着を失くして、

髪型をぐしゃぐしゃにしてしまう。


あんなに大切だったはずの、

矜持もするすると忘れかけてしまうのだ。


(続)







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る