第7話 特大の魔法封緘
回廊を抜けて、
ホテルに出た。
部屋割りは、
…男女別になった。
白い風船の諜報員二人にそうされたのだ。
なんでだよ!!
やってやるぞ感を出しすぎたか?
うう。
◇
キリスや杏と別れて、
葡萄と部屋に入った。
広さはなく、
年季は入っている。
だが、あちこちに意匠が彫られた、
美しい部屋だった。
小さなバルコニーもあった。
荷物をまとめ、
身なりを整えつつ、
小窓から街を眺めた。
石や煉瓦たっぷりの街は、雨上がりのようだった。
空は薄曇だった。
しっとりと濡れた通りからは、
人々の熱気がむわっと立ち上がっていた。
たっぷりと膨らんだ、
きらびやかな衣装。
そして、きらびやかな仮面をしていた。
そんな人達が、一斉に街中を歩いているのだ。
凄い迫力だ!!
そして、
こっちの人は、
大きな魔法封緘を使うんだな。
だからベースはひらひらした軽い服なのか。
たくさんの魔法封緘を幾重にも塗り重ねるのが、
ここの国のスタイルのようだった。
葡萄は、
慣れた手つきで呪いを施した。
あちこちに紫のリボンタイがあしらわれた、
何とも個性的なスーツの青年になった。
そして、部屋の外でキリスや、
杏と落ち合った。
杏も、
フリルたっぷりの淡いピンクの服に、
フリルたっぷりの白いエプロン、
頭のフリルにも、
淡いピンクのリボンがくるくるとあしらわれ、
顎の下でするりと留めてある、
個性的な女の子になった。
メガネはそのままだった。
かなり大人っぽい真っ直ぐな髪の長い、
美人なのだが、
もじもじと恥ずかしそうに目を逸らした。
葡萄は、
目尻がツンと上がり、
さっきとは別人のように、
むっとした口だが、杏をまっすぐ見据え、
あろうことか、
手も大胆に添えだした。
…
そ、
そうか。
キミたちは、
そういう感じなのか…。
対抗心だろうか?
俺は、キリスとぎゅっとした。
キリスだって俺とぎゅっとした。
二人の肩や臍の、
チラチラ見える肌は、
十代のように透き通っていた。
白い風船の諜報員二人は、俺達全員に、
つるんとした白い仮面をくれた。
なので、
各々で呪いを施し、
衣装に合わせた綺羅びやかな仮面に変えて、
俺達は、街へ繰り出した。
◇
軽やかでいいなと思った。
これならば費用も手間も、
大幅に削減できるだろう。
しかも彼らの意匠というものを、
ふんだんに盛り合わせられる。
祭り限定なのか?日常的なのだろうか?
しかし、
…。
さぞ寒いだろうなあ、と思った。
ものによっては、
整合性や安定性に欠けるものが、
散見された。
案の定、
二人とも、
くしゅん!!と、
でっかいくしゃみをした。
ははは。
まあ、若いってそういうことだよな。
顔にも衣装にも、
物語をぺたぺたと貼っていた。
呪いもあれば、呪詛もあった。
たくさんの、仮面を持ち歩いていた。
中には、呪詛の仮面もあった。
あーあ。下は、傷だらけだろう。
痛いだろうな、あれは。
しかし、みんな美しかった。
【名の扉】の文様は、閃光のように輝いた。
島のそれとは、明らかに異質だった。
一応、怪異のひとつとして、
報告書へ載せることにしよう。
◉幾重にも貼られる特大の魔法封緘。
◉閃光のような文様たち。
あちこちに見える七色の閃光の軌跡から、
目が離せない。
―面白い!!
◆◆◆
いつのまにか、
キリスのことをほったらかして、
浮かされて、
頭が一杯になっていた。
◆◆◆
彼女のことは大切だ。
でも駄目なんだ。
いつのまにやら、
手袋を失くし、
上着を失くして、
髪型をぐしゃぐしゃにしてしまう。
あんなに大切だったはずの、
矜持もするすると忘れかけてしまうのだ。
(続)
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