第5話 葡萄と杏、回廊の向こうへ
◇
そんなわけで。
俺たちは挨拶を終えて、
たいそう和やかに本題に入った。
人型になった白竜は、
でかいが、美しかった。
白いスーツも、
よく見ると細かな模様がキラキラしている。
彼女のまつげの一本一本、
爪の一枚一枚に、幾重にも手が加わっていた。
そして、
豆茶と栗まんじゅうをくれた。
うんまっ!!
しっとりつややか、甘みが複雑。煌めきと奥行き。
豆茶も華やかな香り。雑味がない。
いやあ。
世の中は広いものだ。
こいつはドーラに、
土産に持っていきたいなと思った。
吝嗇家の俺は…
緊張した。
◆
両手の指を組むシリウス。
彼ですら、
話せること、
話せないことがある。
美しい睫毛を伏せて、
斜めに首を振った。
メッキが飛び散った。
何から話したものか、といった風情だ。
俺は、
それはわかっているが、
ヒントが欲しいと伝えた。
キリスが狙われるのは、想定内なんだ。
彼女が、
そして俺もだ。
転生した今は、
おそらくだが、
俺たちのコイツは、
おぞましい、何かの。
ヨダレ垂らして狙ってる奴らが、
居るんだろう?と。
否定しない。
まあそうなんだろう。
それから。
俺の願いは、
キリスと二人で、
ゆったりもふもふ南の島のスローライフ!
だから、
邪魔するやつは迎撃しなきゃならない!
しかし、
次の手を測りかねてるのだと、
伝えた。
◇
シリウスの回答は、意外なものだった。
「魔法封書は見たか?」
「回廊の向こうのおむつのCMのこと?」
キリスが訪ねた。
そうだと言った。
あの黒い封書のことか。
◇
なんでも。
回廊の向こうと、
此方は、
相互補完の関係性なのだそうだ。
こちらの皇国大陸でいま、
そしてとうとう、
カーアイまでおびやかし始めた。
俺たちカーアイ島民なら、
みーんな知ってる。
スーパーアイドル、モーブくんの白鳥大事件だ。
右を向けといえば、右を向く。
ファンを白鳥と呼べば、ファンは白鳥を名乗る。
呼ぶのは別にいいんだ。物語だ。
問題は、
ファンの乙女と ⇔ 白鳥の特大ぬいぐるみ
いかれた
あれは、
島のみんなで、
闇の竜(人さらい、帳尻合わせ)をボコボコにして、
皇国神殿の、
魔法穴埋(パッチ)でなんとかしたが、
このままでは、
再び同じことが、
起きるだろうとのことだった。
よって、
回廊の向こうの、
調査依頼だそうだ。
「何でも良い。
見て気がついたことを、
報告して欲しい。」
なるほどな。
二十代の俺たちと、
シリウス爺さんじゃ、
見られる景色が違うものな。
俺たちの、
目を借りたいってわけか。
二泊三日。
丘の邸宅とは、
すでに話をつけてあるそうだ。
ミルダ父のことだろう。
◇
報酬はまあ、ものすごくたくさんだ。
キリスの目がぴかんと光った。
そして、サインをして連盟で魔法封緘をした。
きらきらの白とカラフルな金平糖。
シリウスは、きょっとーーーんとしたあと、
ぷりぷり怒って、
俺の頭をべっしんっ!!と、かなり強めに叩いた。
首の痛みよりも、
恥ずかしさで、顔を覆った。
いやいや!!
想定しなかったんだ!!!
お
耳まで真っ赤になってしまった。
二人の連名の魔法封緘が、
契約全般に必要だということを、
すっかり忘れていたのだ。
他のも用意しなきゃ。
◇
内容は、
よくある話だ。
俺たちは、
用意された家で過ごすのだ。
おっ?!と思った。
キリスと夫婦ごっこができて、
金が入る。
ラッキー過ぎないか?!
しかし!!
俺は、赤ん坊役でいいと言う。
ナンダト。
なぜなら、
夫役があらわれたのだ。
しかも
はあ?!?!だ。
キリスの旦那役、俺じゃないの?!
い、
い、
嫌だあーーー!!!!!
契約書を、
ビリビリにやぶこうとして、
キリスと、そいつらに羽交い締めで止められた。
◇
夫役になるのは、
白い風船の青年だった。
年齢は二十そこそこだろう。
俺とはタイプが違う、
アトラスに似てた。
少し長い紫の髪を一つに縛っている。
細身のアトラスって感じだ。
まあ精悍な青年だ。
あいつよりも、もう少し擦れてない感じがある。
たしかにキリスとこの青年から、
俺が産まれそうな雰囲気はある…。
「よろしくな。」
「よろしくね。」
あれ?
夫婦なのか?
金色の髪、ひらひらした桃色の服の眼鏡の女性と、
紫髪の青年はすごく親しげに見えた。
距離が近い。
青年は腕を組んでるが、横目で彼女ばかり見てる。
メイドだってもじもじしながら、横目で彼ばかり見てる。
自分たちで言うのもなんだが、
かなり目立つんだ。
初対面で興味を持たれないのは、珍しいのだ。
過ごしやすくていいなと思った。
二人は、
回廊の向こうの服なんだろう。
スーツも、メイド服も、
島では見慣れない、
色合いや風合いの服だった。
率直にモノ申せば、
シリウスや白竜と比べたら、
ちゃちに見えた。
…、
まあ、
シオルも、そういうのが好きだったからな。
七色に光る輪っか。
そういう、
パーティグッズの類の衣装なんだろう。
青年は
メイドは
モーブくんの時と違って、
キリスが、彼にさして興味がないのも見て取れた。
これなら、
向こうについたら、
なし崩し的に、
部屋を入れ替わってしまえばいいだろう。
直感の回廊が、
明るく光った。
俺は牙を舐めた。
ふふっ。
そして、
おとなしく従い、
彼らの拘束を解いてもらい、
回廊の向こう側へ訪問するにあたって、
諸々の注意事項の説明を、
受けることとなった。
(続)
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