第5話 葡萄と杏、回廊の向こうへ


そんなわけで。


俺たちは挨拶を終えて、

たいそう和やかに本題に入った。


人型になった白竜は、

でかいが、美しかった。

白いスーツも、

よく見ると細かな模様がキラキラしている。

彼女のまつげの一本一本、

爪の一枚一枚に、幾重にも手が加わっていた。


そして、

豆茶と栗まんじゅうをくれた。


うんまっ!!

しっとりつややか、甘みが複雑。煌めきと奥行き。

豆茶も華やかな香り。雑味がない。

いやあ。

世の中は広いものだ。

こいつはドーラに、

土産に持っていきたいなと思った。

吝嗇家の俺は…

緊張した。


饅頭おねだん怖いっ。



両手の指を組むシリウス。


彼ですら、

話せること、

話せないことがある。


美しい睫毛を伏せて、

斜めに首を振った。

メッキが飛び散った。

何から話したものか、といった風情だ。


俺は、

それはわかっているが、

ヒントが欲しいと伝えた。


キリスが狙われるのは、想定内なんだ。

彼女が、紅玉ルビーの宝石眼持ちだからだ。


そして俺もだ。


転生した今は、

紫水晶アメジストの宝玉眼持ちになった。


おそらくだが、

俺たちのコイツは、

交換トレードに使えるんだ。 

おぞましい、何かの。

ヨダレ垂らして狙ってる奴らが、 

居るんだろう?と。


否定しない。

まあそうなんだろう。


それから。

俺の願いは、

キリスと二人で、

ゆったりもふもふ南の島のスローライフ!


だから、

邪魔するやつは迎撃しなきゃならない!


しかし、

次の手を測りかねてるのだと、

伝えた。



シリウスの回答は、意外なものだった。

「魔法封書は見たか?」


「回廊の向こうのおむつのCMのこと?」

キリスが訪ねた。

そうだと言った。

あの黒い封書のことか。



なんでも。


回廊の向こうと、

此方は、

相互補完の関係性なのだそうだ。


こちらの皇国大陸でいま、

市場マーケットがぼろぼろに崩れ始めている。

そしてとうとう、

カーアイまでおびやかし始めた。

俺たちカーアイ島民なら、

みーんな知ってる。

スーパーアイドル、モーブくんの白鳥大事件だ。

右を向けといえば、右を向く。

ファンを白鳥と呼べば、ファンは白鳥を名乗る。

呼ぶのは別にいいんだ。物語だ。

問題は、

交換トレードなんだ。


ファンの乙女と ⇔ 白鳥の特大ぬいぐるみ

いかれた交換トレード



あれは、

島のみんなで、

闇の竜(人さらい、帳尻合わせ)をボコボコにして、

皇国神殿の、

魔法穴埋(パッチ)でなんとかしたが、

このままでは、

再び同じことが、

起きるだろうとのことだった。


よって、

回廊の向こうの、

調査依頼だそうだ。


「何でも良い。

見て気がついたことを、

報告して欲しい。」 


なるほどな。

二十代の俺たちと、

シリウス爺さんじゃ、

見られる景色が違うものな。

俺たちの、

目を借りたいってわけか。


二泊三日。


丘の邸宅とは、

すでに話をつけてあるそうだ。

ミルダ父のことだろう。


◇  


報酬はまあ、ものすごくたくさんだ。


キリスの目がぴかんと光った。

そして、サインをして連盟で魔法封緘をした。


きらきらの白とカラフルな金平糖。


  



シリウスは、きょっとーーーんとしたあと、




ぷりぷり怒って、

俺の頭をべっしんっ!!と、かなり強めに叩いた。



首の痛みよりも、

恥ずかしさで、顔を覆った。

いやいや!!

想定しなかったんだ!!!

巫山戯ふざけじゃない。

耳まで真っ赤になってしまった。


二人の連名の魔法封緘が、

契約全般に必要だということを、

すっかり忘れていたのだ。

他のも用意しなきゃ。



内容は、

よくある話だ。


俺たちは、

調査員スパイとして、

用意された家で過ごすのだ。


おっ?!と思った。


キリスと夫婦ごっこができて、

金が入る。

ラッキー過ぎないか?!





しかし!!




俺は、赤ん坊役でいいと言う。

ナンダト。




なぜなら、

夫役があらわれたのだ。

しかも家政婦メイドさんもだ。



はあ?!?!だ。

キリスの旦那役、俺じゃないの?!




い、

い、

嫌だあーーー!!!!!



契約書を、

ビリビリにやぶこうとして、

キリスと、そいつらに羽交い締めで止められた。



夫役になるのは、

白い風船の青年だった。


年齢は二十そこそこだろう。

俺とはタイプが違う、

アトラスに似てた。

少し長い紫の髪を一つに縛っている。

細身のアトラスって感じだ。

まあ精悍な青年だ。

あいつよりも、もう少し擦れてない感じがある。

たしかにキリスとこの青年から、

俺が産まれそうな雰囲気はある…。

 

「よろしくな。」

「よろしくね。」


あれ?

夫婦なのか?


家政婦メイド役の、

金色の髪、ひらひらした桃色の服の眼鏡の女性と、

紫髪の青年はすごく親しげに見えた。

距離が近い。

青年は腕を組んでるが、横目で彼女ばかり見てる。

メイドだってもじもじしながら、横目で彼ばかり見てる。


自分たちで言うのもなんだが、

キリスや紫恩おれたちは、

かなり目立つんだ。

初対面で興味を持たれないのは、珍しいのだ。


過ごしやすくていいなと思った。


二人は、

回廊の向こうの服なんだろう。

スーツも、メイド服も、

島では見慣れない、

色合いや風合いの服だった。

率直にモノ申せば、

シリウスや白竜と比べたら、

ちゃちに見えた。


…、

まあ、

シオルも、そういうのが好きだったからな。

七色に光る輪っか。

そういう、

パーティグッズの類の衣装なんだろう。


青年は葡萄ブドウ

メイドはアンズと名乗った。


モーブくんの時と違って、

キリスが、彼にさして興味がないのも見て取れた。


これなら、

向こうについたら、

なし崩し的に、

部屋を入れ替わってしまえばいいだろう。

直感の回廊が、

明るく光った。


俺は牙を舐めた。

ふふっ。


そして、

おとなしく従い、

彼らの拘束を解いてもらい、

回廊の向こう側へ訪問するにあたって、

諸々の注意事項の説明を、

受けることとなった。



(続)














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