第11話 訪問者
木下優子は学生寮の小さな一部屋で、目張りを始めた。換気口をしっかり塞ぐ。
両親の反対を押し切り、地方から東京に進学。かろうじて学生寮の賃料だけは払ってもらえたが、仕送りもない中バイトでなんとか稼いできた。大学3年から就活を始め、4年になってもどこからも内定をもらえなかった。挙句の果てに、OB訪問では、泥酔して気付いたら犯されていた。写真を撮られ、口外したらばら撒くと言われた。気を失うほど泥酔した自分が悪い。そう思った。
「同意の上だった」そいつはそう言った。
そんなはずはないと自分では思ったが、何も覚えていないのだ。
ああ、部屋が汚いかもしれない。誰かが入って来た時に恥ずかしい。
これから死ぬというのにまだそんなことを考えているのが滑稽だと自分でも思った。
その時
カサリ
と音がした。気付くと窓が開いていた。
目の前に落ちていたのは自分が犯されている写真だった。
突然電気が消えて真っ暗になる。
「何!?」彼女は恐怖で動転した。
「どうしたい?」若い女性の声だった。
「誰?」声が女性だったことに少し安堵するものの恐怖は消えず震えが止まらない。
「そいつのこと、どうしたい?」女性は続ける。
恐る恐る振り向こうとする優子。
「振り向かずそのまま答えろ」と言われる。
「写真を、消して欲しい…」震えながらも彼女は懇願するような思いで後ろの女性に言った。誰なのかわからない。あいつが送り込んだ誰かだろうか。
「写真だけ?そいつのことは…殺す?」
何を言っているのかと優子は驚く。この人は自分のために仕返しをしてくれるというのだろうか。
「殺すってそんな!私は写真だけ消してくれれば…あとは少し思い知ればいいとは思う…」
「了解、死ぬのはまだ早い」優子はそばに女性がきたのを感じた。彼女は優しく肩に手を置いた。優子が振り返ろうとするとそこにはもう誰もいなかった。
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