第10話 悪徳藪医者


マイカのお詫びは、その次の週の土曜となった。マイカが指定した場所は老舗のデパートなどが立ち並ぶ五区のロシア料理レストランだった。


「今日は来てくれてありがとう」とマイカ。

(何でもう1人いるの?)と目が言っている。


「初めまして、では無いですね、苽生さん。わたくし西園寺百合と申します」


只者じゃなさそうだなと思うマイカ。この前とは打って変わってすごくお嬢様感が溢れている。ユリの花の香りは彼女のものだったのだなと思う。


「わざわざロシア料理を選んでくれた気遣いはありがたく受け取るよ」

と、ヴィッキー。ストンと落ちるサテンのスーツがオールバックの赤髪によく似合う。そして今日はメイクをしていた。


「今日の君はまた雰囲気が違うね…」

と、マイカが言う。やっぱりすごく綺麗な人だと思う。しかし…


「レズビアンじゃないからな」

とヴィッキー。


「君は俺の考えていることが読めるの?」

と、マイカは苦笑いする。メンズライクな服装にオールバックの髪、そして下瞼にものせられたアイシャドウ。すごくかっこよくてうつくしいが、百合とセットだとどうしてもレズビアン感が出てしまう。


「顔に出過ぎ」

ヴィッキーは、最初に女の状態で出会って、次に男装、そして男装がバレた状況で今更男のフリをするのも小っ恥ずかしく、中間を取ったのである。


「人生の大部分を男として生きてきたんだから今更女装はかえってやりにくいんだよ」

と、不貞腐れるヴィッキー。

不貞腐れた顔も美しいなと思うマイカ。


「まあみなさん座りましょう」

と百合。


百合のおかげなのか、美形が揃ったからなのか、マイカは、スタッフの対応がいつもより特別丁重だったような気がした。


「料理はどう?」


「美味しいよ、ありがとう」

と、ヴィッキー。久しぶりのボルシチだった。子どもの頃に食べたものはもっと素朴だった気がしたが、嬉しかった。


「先日ヴィッキーが帰ってきた時血だらけで驚いて倒れそうになりましたわ」

と、百合。


いきなり核心に触れてくる容赦のなさだった。


「その節は申し訳なかった」


「百合、綺麗な顔に騙されるなよ、こいつ僕のこと喰ったんだからな」


「ほんと、許せませんわ」

と百合。


「てことは、もう言ったんだな」

と、マイカ。


「君に主導権があると思った?」

とヴィッキー。


「本当に申し訳なかった。そして助けてくれてありがとう。あらためてお詫びとお礼を申し上げる」


「だって!百合!どうしようね?」


「うーん、どうしよう!でもすっごく痛かったよねヴィッキー」


「うん、死んじゃうかと思った」


「この通りだ!今日は遠慮せず、好きなだけ食べて、飲んでくれ!」

と頭を下げるマイカ。


「私のお肉100グラムあたりいくらだろうね?」とヴィッキー。


「本当ごめんなさい!なんでもするから許してください!」


「なんでもしてくれるって、百合」


「本当?じゃあこれからなんでも言うこと聞いてね」と、百合


「う、うん…」と、何だか怖くなるマイカ。


「とりあえず、何か飲み物の追加頼みたければどうぞ…」と、マイカは飲み物のメニューを差し出した。


「ところでマイカのこの前の話の続きを聞こうじゃないか」


「ありがとう、聞いてくれて」


「単なる興味だよ、聞くだけ聞いて、僕たちには関係ないから」


「そんなことは言わず、まず僕の学生時代の友人の話からさせてくれ」


「面白く話してよ」


「そんな無茶な…」

なんて意地が悪いお嬢さんたちだと思う。


「つづけて」


マイカはマサの話の一連と、警察官になった経緯を話した。


「なるほどね、それは不条理だね」

と、ヴィッキー。


「”不条理”!そうだろう?君が許せないやつだ」

とマイカは共感を求める。


「それはみんな許せないよねえ」と百合。


「VはヴィッキーのVかい?」とマイカ。


「何のことやら」とヴィッキー。


「告発に協力するよ、君の正体も絶対に言わない。多少の情報提供もしよう」


ヴィッキーと百合は顔を見合わせる。


「約束を破ったらどうする?」

とヴィッキー。


「職質中にナンパでも夜道で女を襲ったでもなんでも通報して構わない」


「そうだね、被害者はしっかりいるし、もう特定してある」

うぐ…と声を上げそうになるマイカ。


「そうか…でも約束はちゃんと守る」


「わかったわ」と百合。


「VはVigilante のVで、ヴィッキーのVじゃない、そして僕たち2人でV」とヴィッキー。


机を見つめていた目を上げるマイカ。


「ありがとう!」とマイカ。


「尻尾振ってんなよ」とヴィッキー。


「え?尻尾!?」と焦って腰の辺りを触るマイカ。


「出てねーよ」とヴィッキー。


「なんだ、びっくりするじゃないか」


「本当に出るんだ」と百合。


「出したり引っ込めたりできるの?」とヴィッキー。


「できるよ、うっかりしてると眼の色が変わっちゃうことがある。あと、肉を食べずに迎えた満月以外では変身は自由にできるよ」


マイカは眼の色だけ変えてみせた。


「わあ!」と百合。


オレンジ、黄色、金、緑が混ざったような綺麗な野生的な眼だった。


「綺麗だね」

とヴィッキー。


「ありがとう」

割と思ったことは言うタイプなんだなと意外に思う。


「ところでマイカっていくつ?」


「29だよ」


「おっさんじゃん」


「私たちとあんまり変わらなく見えました」

と、百合。


「君らは大学2年だから20くらい?」


「私は20です」と、百合


「僕は24ってことになってるけど」


「ことになってる…」


「ことになってるんだよ」

本当はよくわからない。何十年か前の戦争でロシアに捕まった兵隊だった自分の祖父のふりをしていた祖母が、女であることに気付いて親切にしてくれたロシア兵と結ばれてできたのが母だった。しかし母は施設に引き取られて、何かしらの実験台になったらしい。物心ついた時から自分は番号で呼ばれていた。24年以上は数えても生きているのがわかる。30年以上は生きている。

見た目は24くらいだが。


「君は謎が多いね」


「謎が多い女は魅力的って言うでしょう」

と、おどけて妖艶な表情を見せるヴィッキー。


「ああ、そうだね」とマイカ。


「あらあら」と百合。


デザートが来る頃にはすっかり3人は打ち解けて話していた。


「早速なんだけど、巷で話題になっている藪医者がいて何度か通報を受けているんだけど、やたらと権力者に支持者が多くて警察もなかなか踏み込めないんだ」

とマイカが切り出した。


「面白そうだ」とヴィッキー。


「東洋医学とか言って、漢方とか売ってる薬局を13区の貧民街でやってるらしくて貧民街では医者として扱われてるみたいなんだが、どうにも処方された薬がラムネだったとか、根拠のない民間療法をやってるとかで」


「ラムネって…」と、百合が苦笑いする。


「名前がアーサー劉っていうらしいんだけど、政治家や芸能人からは霊能者とか占い師とかそういった扱いも受けてるらしい」


「胡散臭いな」とヴィッキー。


「医者のいない貧民街では重宝されているみたいで警察が動けないから、君たち行ける?」

と、提案するマイカ。


「いいね、なんか面白そうじゃん」と、ヴィッキー。


「私も会ってみたいわ」と百合。


そこで、百合とヴィッキーは、次の週に大学が終わると、貧民街へと足を運んだ。


ヴィッキーはいつも通りのパンクな男装だったが、百合はジーンズにフード付きパーカーとに黒いマスクと危険な目にできるだけ会わないように変装をしていた。


「持とうか?」

百合は何やら大きなビニール袋を2つ持っていた。


「ううん、大丈夫」

袋の中に入っているのはおにぎりとペットボトルだった。


ゴミゴミとした道に、商売をしているのか寝ているのか住んでいるのかわからない人々や、小屋とも言い難いような建物の外に小さな椅子を出して座っている人などがいる。子どもちらほらと遊んでいる。大抵が日本人のようだった。


「良かったらどうぞ」

その人々に、おにぎりとお茶、そして銭湯の券を渡していく百合。不衛生な匂いも気にしない。


一昔前なら生活保護の案内でもしたところだったが、今は生活保護も機能していない。物価が上がったのに保護費は上がらず、家だって低所得者向けの住まいは抽選でどこも、一杯だった。


外国人嫌悪は低所得者には多いが、ヴィッキーのような西欧系の顔立ちだと、嫌な顔はあまりされない。お金を持っていて喜捨をしてくれる者が多いからだ。


「もっと買ってくれば良かった」

と、百合。


「全員には配れないよ」

と、ヴィッキー。


「そうなんだけどね」

と、辛そうな顔をする百合。


「炊き出しも頻繁にあるから大丈夫だよ。さあ、店はここらへんのはずだ」


ヴィッキーはスマホのマップを見ながら辺りを見渡す。


「あ、ここじゃん」

と、ヴィッキーが言ったのは左手前の古びたビルだった。


「本屋さんかと思った」

と百合。


古い書店のように見えるが小さな木の看板が立てかけてあった。


“アーサー・劉治療院”

と縦書きで書いてある。


戸は空いているので入ってみる。ラジオがついているみたいだ。


入り口に高麗人参のような黒い何か、そして干し椎茸、干し大根、干し柿、花火の玉の残骸なども吊るされていた。

何だか漢方っぽく見せるパフォーマンスにしか見えなかった。


「本屋さんだったみたい」と百合。


古書が置いてあったり、埃を被った絆創膏の箱や、軟膏、市販の風邪薬などが置いてある。


「本屋さんとドラッグストアが混ざってるみたいだね」

ヴィッキーは埃臭いなと思いながら中を見渡すと、微動だにしないお爺さんがカウンターに座っているのを見つけた。禿頭にはシミが多数、雑に剃られた白っぽい髭。



「お爺ちゃん、アーサー劉さん?」と、ヴィッキー。


目が開いているのか閉じているのかわからない、ままこちらを向くお爺さん。


「ぁぁ゛?」

今日初めて出した声みたいな声で聞き返すお爺さん。


「お爺さんはアーサー劉先生ですか?」

と、百合がお年寄りに話すように聞いた。


「ぃぅなぃょ」


「え?」と聞き返す百合。


「ンなぁょ」


「え?」とヴィッキー。


「エ゛エ゛ン」とガラガラの喉を鳴らすお爺ちゃん。


「い゛なぁよ」


「ああ、いないってことね」とヴィッキー。


「いつお帰りになりますか?」と百合がゆっくりはっきり聞く。


「ンガぁあぅよだら」


「え?」と百合。


「んガンがんガン」

カプっ…と入れ歯が落ちた。


「百合、だめだ、出直そう」

とヴィッキーが言う。


「そ、そうね…」


2人はそろそろと帰ろうとする。


チーンチーンチーン!!!

お爺さんがカウンターのベルを鳴らした。


「?」と思い2人が振り向く。


パタパタと足音が聞こえた。


「何?爺さん?ああお客さん?」


と奥の暖簾をめくって出てきたのは、


長髪をハーフアップにした少し憂いを帯びた眼の女性のような繊細な顔立ちの美しい男性だった。


百合は場所に不似合いな美しい男性に驚いて口が半開きになっていた。


服装はいかにも漢方を売っていそうな麻の服で、きめ細やかな肌の上、年齢不詳であった。


「怪我?病気?風邪?」


「アーサー・劉先生を探しに来たんですが」

と、百合


「私ですが」

と、美青年。声まで美しい。


「爺さん居ねえって言わなかったか」

と、ヴィッキー。


あのチーンチーンチーンは、お客さんが使うやつじゃないのか、アーサーを呼ぶためのものだったのか、入れ歯が落ちたことを知らせるためのものだったのかわからなかった。


「風邪かも」と、ヴィッキーが言ってみる。


「ああそこに風邪薬置いてるよ」

と、アーサー。


(どこが東洋医学だよ、思いっきり西洋医学じゃないか)と、ヴィッキーも百合も思う。


「最近オオカミに噛まれた」

と、次は言ってみる。


「精神は治せないよ」

とアーサー。日本に狼はいない。


「チッ」とヴィッキーが舌打ちする。


「ちょっとヴィッキー!」と言う百合。


「ヴィッキー?」とアーサー。

カウンターの奥から、ヴィッキーの顔をじっと見つめて歩いてくる。


顔をどんどん近づけてきて、両手でヴィッキーの顔を挟む。キスしそうな勢いだった。


ヴィッキーは眉間に皺を寄せてアーサーを睨みつけている。


“Что!? Ты!!! Разве это не Вики!?”

何やらロシア語で驚いた顔でアーサーが叫んだ。


“Ты случайно не Соловей?”

ヴィッキーは眼を見開く。


なんやら互いに名前を確認したようだ。


アーサーの眼から大粒の涙が溢れる。


ロシア語で何か叫びながら何やら美しい顔がぐしゃぐしゃになる程鼻水を出しながらヴィッキーを抱きしめる。


ヴィッキーを顔をぐしゃぐしゃにして泣きながらロシア語で、アーサーを抱きしめた。


互いにロシア語で何か言いながら抱き合ってワンワン泣いている。百合はロシア語がわかったとしても何を言っているかわからないだろうと思った。


恐らく、


「お前!?もしかしてヴィッキーじゃないか?」


「お前もしかして○○か?」


「お前死んだと思ってたよ!」


「生きていたのか!」


って感じの感動な再会なのだが、美しい女性みたいな顔の男性と、同じく美しい男性みたいな女性が、涙と鼻水だらけで台無しにしてよくわからない言葉を叫びながら抱き合って泣いている様子が、どうしてもコミカルに見えてしまって、百合は口元を手で隠して、笑いそうになるのを堪えて自分も感動しているふりをした。


それなのにカウンターのお爺ちゃんは、ウヘウヘと肩をひくひくさせながら笑っているではないか。


自分がこんなに笑ってはいけないと我慢しているのにと百合は恨めしく思う。


しばらく感動の再会を味わった後、やっと百合に説明してくれた。


「百合ごめん、こいつはナイチンゲール、僕の旧友というか、家族みたいに一緒に育った人だよ」


「百合さん、はじめましてアーサー劉です」


「ナイチンゲールだ」とヴィッキー。


「ナイチンゲールって言うなよ」


「なんでナイチンゲールなんですか?」と百合。


「こいつは顔が綺麗だから女だと思われて軍の看護婦兼慰安婦として連れて行かれたんだけど、タマがついてたんで、軍人がおったまげて少年兵として訓練受けるようになったんだけど、手先ばっかり器用で兵として使えなくてひたすら看護師やってたからナイチンゲール」


「ヴィッキー、もっと言い方ないの」

と呆れる百合。


「本当だよ、とりあえず立ち話も難だから奥においでよ」


そして奥に通されると診療所みたいな雰囲気としてそれ風に作られた空間があり、


さらに進むと階段があり、靴を脱いで上がってと言われた。


古びたビルに見える割に階段はやたらと綺麗だった。


「なんだよここ」

と、ヴィッキー。百合も目を丸くする。


皮のソファに、見るからに高そうな調度品、テーブルも装飾が華美で、すごく成金みたいな部屋だった。


「まあまあ座って、今お茶を淹れるから」


そうして淹れてくれた紅茶は何千円もする高級ブランドのものの香りだった。


「中国茶とかじゃないんだね」

と呟く百合。


「粗茶ですが」と、ニンマリするアーサー。

先ほどの憂いを帯びた美青年はどこに行ったのだろう。


「まず、2人の生い立ちをもう一度ちゃんと聞かせてくれる?」と、百合。

ヴィッキーからは男装して兵隊をしていた祖母か曽祖母が、ロシア人と結ばれて、いろいろあってヴィッキーは遺伝子組み換えされた人間になったというざっくりした説明しか聞いていなかった。


「まず、僕らがいた弾薬庫に隕石が落ちた時…」

とヴィッキー。


「ンンん、ヴィッキー、もう一回言ってもらえる?」

気を取り直してもう一度百合が聞く。


「うん、ええと、僕らがいた弾薬庫に隕石が落ちた時…」


「ごめんヴィッキー、もう一回」


「ええと、僕らがいた弾薬庫に隕石が落ちた時、」


「ごめんヴィッキー、聞き間違いじゃなければ、ヴィッキーは弾薬庫にいてそこに隕石が落ちたと言いたいの?」


「そう言ってるよね?」とヴィッキー。


「いやいや理解できないわ!そんな状況何万分の1の確率なの!?」

と、百合は白目を剥いて倒れそうになった。



「百合、落ち着いて」


「ごめん、続けて」


「僕らがいた弾薬庫に隕石が落ちた時、」


「百合さん、お気を確かに」とアーサー。


「ええ、大丈夫よ」

百合は踏ん張る。


「僕らがいた弾薬庫に隕石が落ちた時、他の特殊部隊は訓練中で森の中にいて、僕とアーサーは爆発した弾薬庫で2人とも死んだと思った」


「あなたたちは特殊部隊の訓練を受けていたのね」


「そうだよ」と、アーサー。


「僕は目覚めると色々な破片と共に地面に横たわっていて、身体には傷一つついていなかったんだ」


「僕も同じだ」と、アーサー。


「2人はきっと離れたところに飛ばされたのね」と百合。


「たぶんそうだ。どれくらい時間が経っていたのかも正直わからない。ただ部隊を見つけることもできずに、サバイバルしながら森を彷徨って、結果傭兵団に拾われてそこで仕事をするようになったのが僕だ」


「ざっくりわかったわ」と百合。


「僕の方は、売られてナイチンゲールになったわけだけど」


そこはもう認めるんだ、百合は思う。


「顔がこんななので色々困難があって、その度にヴィッキーが守ってくれたんだ。ヴィッキーは5番って言われてたけど、ローマ数字のⅤから頭文字を取って強かったからヴィクトリア、ヴィッキーと僕が呼ぶようになったんだ」


「ヴィッキーの名付け親はアーサーさんだったんだね」


「そうだよ」とヴィッキー。


「僕の方は爆発の後、優しい老夫婦に拾われて暮らすようになったんだけど、ある日お爺さんの方が病気になって死にそうになってね、お世話になった人だったから悲しくて、そんで治れ治れ〜っベッドでやってたらね、治っちゃったのよ」


「は?」と百合とヴィッキー


「スーパーパワーみたいな?」


「隕石のせい?」と百合。


「あの隕石のあと、身体にいろんな変化があって、傷は治るし、なんか歳取るのゆっくりだし、傷も治せるようになった」


「ヴィッキーも傷治るよね?それ隕石の後からだったの?」


「もともと治りは早かったけど前はここまでスーパーナチュラルに治りはしなかった。それになんか赤くなった」

ヴィッキーは自分の髪を触る。


「え、それ目も髪もナチュラルに赤いの?」とアーサー。


「うん」とヴィッキー。どうやら前はブラウンだったらしい。


「ヴィッキーも傷治せるの?」とアーサーが聞く。


「いや、治せないよ。ただ…」


「ただ…?」と百合とアーサー


「ナイフある?」とヴィッキーがアーサーに聞く。


アーサーが懐からナイフを取り出す。


ヴィッキーがナイフを持ち、指を刃の側面に添える。するとヴィッキーの指が赤くマグマのように光出す。指を添えられたナイフの金属部分刃赤く染まりぐにゃりと曲がった。


2人は目を丸くする。


「は?」

「ヴィッキー!何で私に今まで秘密にしてたの?」と目をうるうるさせる百合。


「いやぁ、何にも使えない能力すぎて…なんかめっちゃ熱くなるだけって」とヴィッキー。


「あ!」とアーサー。

そして水の入ったポットを持ってきて指を入れさせた。


ブクブクブクブク…


「沸騰したね…」と百合。


微妙な顔をするヴィッキー。


「それ温度調節したら火とかにならないの?」


アーサーが薄い紙に細かい草のようなものをくるくると巻いて、タバコを作ると、ヴィッキーが少し指を離して指を添える。


煙が出てきた。


「炎は見えないけど、煙草はついたね」と、百合。


「便利じゃん、ヴィッキー燃やしたがりだったもんな」とアーサー。


「燃やしたがりって、確かに火を起こしたりするのは好きだったけど」


「ヴィッキー、サバイバルしてたんだよね?」と百合。


ヴィッキーの眼が死んでいる。


脳内には辛かった日々の映像が次々と浮かぶ。


なかなか火が通らないウサギ…


雨の中湿ってなかなかつかない焚き火…


川で洗った後なかなか乾かない衣服…


「ヴィッキー…熱くなるのいつ気付いたの?」と、百合。


「傭兵やってる時、ちょっと危険な目に遭って、テンパってたら持ってた銃が溶けたんだ」


「ヴィッキー、その時に初めて能力が目覚めたのかもしれないわ!落ち込まないで!」

と、百合が励ました。



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