第2話 クズの所業


飲料水メーカーに勤める久須芳樹は、営業成績がトップで、そこそこ整った顔に爽やかで健康的な雰囲気で女性社員からも人気があった。


しかし、久須はその日出勤すると、社内の雰囲気がいつもと違うことに違和感を覚えた。いつもすれ違いざまに挨拶をしてくる社員達は、蔑んだ目を向けてくる。


背後で自分を笑うような声も聞こえる。


「久須、ちょっと来なさい」

部長に呼び出されると、その部屋には部長と人事部の職員が座っていた。


「これはどういうことだ?」

部長は電子パッドで、何やらスポーツ新聞の記事のような物を見せた。


「なっなんだこれっ!こんなの悪戯です!」

久須は言う。


それは、"営業成績トップ社員!OB訪問で女子学生を強姦⁉︎"という見出しでスポーツ新聞風のレイアウトで久須の愚行の詳細が書かれていた。半裸の自分の写真まで付いている。


「そう、これ今日の朝送られて来たんだけど、どうやら相当数の社員に送られているみたいだ」


「君のことをやっかんだ誰かの仕業かね」


「そうですよ!僕がこんなことをするはずがない!」そう主張する久須。


そこに、コンコンとノックがある。


「はい」と部長が答える。



「すいません、警察の方が来ていて久須さんを呼びだすように言われているのですが」

女性職員の目にはいくら隠そうとしても好奇心が滲み出ていた。


「久須」部長が行けと命じる。


「わかりました」久須は平静を装って席を立つ。


女性職員と歩く途中、久須はトイレによってもいいかと聞いた。

女性は不審に思ったが外で待つと伝える。


久須は焦った。警察が来たと言うことは、通報されたのだ。もう人生が終わった。そう思い、トイレの窓を開ける。ビルの16階、ここから落ちれば間違いなく死ぬ。


ガチャ

ガチャ

ガチャガチャ


「あれっクソ!」

最近のビルは転落防止に窓が大きく開かないようになっているのだ。


「クソ!」ガチャガチャ


「アハハハハハハ!」

外で女性職員が高笑いしている。


「クソーー!!!クソーーー!」

こうなったら写真をばら撒いてやる!そう思って携帯を取り出すと、いつもと画面が違う。あれ?なんだよこれ!おもちゃじゃないか!


「これをお探しかな?」

トイレのドアが開く。そこにいた警察官は妙に整った顔をしていた。その手にはビニール袋に入った久須の携帯。


「匿名の情報提供があった。証拠も揃っている」そういうとその男は、久須に手錠をかけた。


久須には余罪があり、OB訪問の女子大生を飲酒に誘い、飲み物に睡眠薬を混ぜて不同意性交を行っていたと判明した。


木下優子は報道を見て、自分の不注意で泥酔したのでないこともわかり、久須が捕まったことで、勇気を出して警察に被害届を出すことができた。


あの日、自分に声をかけた人物が誰だったのかわからないが、この出来事の裏に彼女がいることがわかり、その思いに報いるためにもまた前を向いて歩き出そうと優子は決心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る