第3話 V



警視庁捜査一課長権田原幸仁は頭を悩ませた。

「またVか…」


最近警視庁に届く謎の手紙。中には犯罪の告発と証拠がいつも入っている。


被疑者の逮捕に踏み切るのは充分な証拠が出揃った後、早朝に行われる。


しかし、Vからの指示は被疑者の勤める飲料メーカーの受付で朝、決定的な証拠となるスマートフォンを受け取るようにとのことだった。


Vの指示に従うかどうか、それは課内で意見が割れた。しかし、スマートフォンを押収できなかった場合、重要な証拠品が失われることになる。


幸い被疑者は完全に油断しており、自分が警察にマークされているとは思いもしない様子であった。


そこで、Vの指示に従い部下を向かわせると、受付に警察が向かうと、受付の女性がビニールに入ったスマートフォンを渡してきたという。誰に言われたか聞くと、総務部の佐藤という女性だと言われたが、佐藤は何人かおり、その誰も心当たりがないと言うことだった。


被疑者の久須の元に案内するように頼むと、久須が暴れているから来てくれと地味な女性が走ってきた。急いで向かうと男子トイレで動転している久須を見つけたということだった。


「いやぁ今回もしてやられましたね!」

そう言って課長にヘラヘラと笑いかけるのは、捜査一課のエース苽生真偉雅(ウリュウ マイカ)だ。女みたいな名前だが男性で、ハーフだそうで、銀髪とやたらと整った顔立ちで凄く目立つ。身長も190くらいあり、頭脳明晰、さらに運動神経まで抜群に良い。しかし、気取ったところがなく明るく気さくな性格で周囲との人間関係も良好だ。


「全くだ。逮捕のタイミングをずらさせたのは、社会的に抹殺して本人を追い詰めるためだった」権田原は渋い顔をした。


「まるで演出された展開でしたね、俺たちは俳優か何かですかね」と笑う苽生。


お前が言うと、洒落にならんと横目で苽生の顔を見る。


「メールの送り主の特定はできないのか」


「それが社内から送られていたみたいで、ログアウトし忘れた社員の端末からだったようです」


「では、内部の悪戯の可能性もあるのか?」


「その社員はメールが送信された時間帯には会社を出ていますし、被疑者とは全く面識がなく、メールの送信は否認しています」


「防犯カメラは?」


「受付にしかついておらず、まだ解析中ですが今のところ社員と身元がわかる来客しか映っていません」と肩をすくめる苽生


「Vの特定には繋がらないか」


「ただ、俺のことを案内した女性社員、良い匂いがしましたね〜」


「この、女タラシが!」権田原が呆れる。


「その社員、そのあといなくなってしまって、社員名簿チェックしたのですが、同じ顔の人が見当たらないんですよね、すごくどこにでもいそうな顔だったんで、名簿の顔とメイクが違っていたって可能性もありますけど」


「その社員がVと関係があると言いたいのか?」


「そうですね〜一応防犯カメラでその日の通勤と退勤の映像見ましたが、映ってないんですよね」


「ほう」


「まあ、死角だらけでしたけど」


「はーあ、なんだよ!わかってから報告しろよ!」


「はは!すみませーん!」

そう笑う苽生。しかし苽生の目の付け所はいつも解決につながるポイントのことが多いのだ。


苽生真偉雅は、良い匂いを思い出していた。Vの手紙に残っていたものと同じ、ほのかな百合の匂いだった。普通の人は気付かないレベルの匂いだ。

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