第4話 退屈
「ふぁーあ」
(ちょっと!ヴィッキー!)
西園寺百合は、隣で大きなあくびをする赤髪の美しい青年を小突く。
教授がイライラしながらこちらを見ている。
青年は、西園寺百合のボディーガードだ。
西園寺家は元々財閥であったが、海外のITベンチャーを買収し、画期的なAIのアルゴリズムを発明し、急成長したグローバル企業”ザイオニア “の社長令嬢であった。
百合が海外で誘拐された際に、救出にあたった民間軍事会社の傭兵だったのがヴィッキーだった。
「だってクソつまんないんだもん、あのおっさんの言ってることが本当だったらこの国の経済とっくに回復してるよ」
ヴィッキーと言われる青年は囁く。
ノートはまっさら、教科書は持ってきてさえいない。一度読んだら覚えてしまうそうだ。
ここは、インターナショナルポリシーアンドサイエンス大学。数年前に日本の有名私立大学が米の有名私立大学に買収されて、一躍世界トップクラスの大学に成長した。しかし、従来の学閥は残っており、日本トップと言われていた東都大学出身の教授は海外の教授陣の議論を受け付けないところがあった。
2人が今受講している財政論を担当している教授もその1人であった。
授業が終わると2人は大学のカフェテリアに向かった。
「はぁ、ヴィッキー、あなたただでさえ目立つんだから、静かにしててよ。私の評価まで悪くなるじゃない」と、百合が咎める。
「ごめんごめん、そんな怒らないでよ、プリン一口あげる、あーん」
パクりと食べる百合。
「食べ物でご機嫌とれると思わないでよ」
「美味しい?」
「美味しいけど、もう!」
簡単に釣られている百合。側から見たらカップルがいちゃついているようにしか見えないだろう。
綺麗な黒髪を縦巻きロールにしてハーフアップにしている百合。二重瞼はくっきりとしていて、小さめの唇と少し上に沿った鼻がとても可愛らしいまさに令嬢という言葉がぴったりな美少女である。
一方、その隣は耳にピアスだらけ、唇と鼻にもピアス、オールバックの赤髪に赤い目、そのパンクで派手な印象があまりにも強すぎて気付かれないが、鋭いが美しい眼と、綺麗な鼻筋、唇の形もとても綺麗で、よく見ると女性的である、エキゾチックな見た目であるヴィッキー。
2人の出会いは百合が中学から高校に移行する春休みであったが、ヴィッキーのおかげか、百合に一切の男が近づかない。
「また、勘違いされちゃうじゃない」
「いいじゃない、僕は百合の初恋だもんね」
"初恋"の部分をおどけた感じで言う。
「もう!からかわないでよ!男の子にしか見えなかったんだもん!」
そう、ヴィッキーは正真正銘女である。
「へっへっへっ」と笑うヴィッキー。
笑うとやはりどことなく可愛らしい。
「あーあ、私も彼氏欲しいなぁ〜」
「それを心配して社長が僕をこのまま置いてるんじゃない」
「全く、過保護なんだから」
「自分の身分わきまえることだね」と、遠くを見ながら言うヴィッキー。海外の犯罪組織に誘拐されるような娘のために、傭兵の少年1人ヘッドハンティングするのは過保護すぎるとも言えない。それに、お金目当てで近づいて来る悪い奴らは山ほどいる。それをヴィッキーが裏で追い払っているのを百合は知らない。
「ヴィッキーだって恋人ができないじゃない!」
「僕はかわいいお嬢様がいるから良いの」と、ほっぺにちゅっとしてくるヴィッキー。
「あーん!もう!」と、鬱陶しそうに避ける百合。
「ヴィッキー本当はすっごい美人なのに…」
と、ボソボソと言う百合だった。
ヴィッキーと百合は親友だった。
百合が誘拐され、監禁された時、食事を運んできていたのがヴィッキーだった。食事の世話をする短い時間で、泣いている百合を励ましたり、わざと大袈裟に転んでおどけたりして、笑わせたりしていた。実はヴィッキーはその組織に潜入していたのだった。百合は自分のボディーガードとして日本に来てほしいとヴィッキーに頼んだ。ヴィッキーも百合との時間が楽しく、ついてきてしまった。百合の兄に「初恋か」とからかわれて真っ赤になった百合だったが、「あ、女です」と言ったヴィッキーに真っ青になった百合だった。少女が傭兵として働いていたことに驚いたのはもちろんだったが、社長は男に見えるヴィッキーは娘のそばに置くのに一番最適だと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます