第6話 宮内伸ニ郎
宮内は東都第二区の進学塾でアルバイトをしていた。
外車で有名私立の澁澤大の大学院に通学、塾に通勤していた。
秋吉の高校は第四区の中堅公立高校でヴィッキーが調査すると確かに4ヶ月前から通学していなかった。しかしそれ以前も休みがちであった。
秋吉の家は母親が3度の離婚をしており、現在は結婚していない彼氏と2人の前夫の子どもと生活していた。紗智は1人目の夫の子どもで長女で他の2人は未就学児と小学生であった。家に居づらかったことは想像がつく。
貧しいわけではなかったがいつ崩壊してもよさそうな家庭だった。
当然家周辺に張り込んでも紗智は帰ってこない。
ヴィッキーは、高校を訪ねて秋吉について聞いてみた。
女子生徒たちは突然訪ねてきた派手な美青年に黄色い声を上げていた。しかし、秋吉はあまり友達がいなかったようで、少し派手めで不登校気味だったとしかわからなかった。学校では静かで服装の他あまり目立たないタイプだったそうだ。SNSのプロフィール写真を見せてもらったが、茶髪で少し化粧をしている、そこそこの美人であった。
宮内を尾行すると第六区の高層マンションに住んでいることがわかった。セキュリティが厳しそうだ。張り込んでいても秋吉は見つからなかった。
「ヴィッキー、どうしようか?」
「アイツが遊びに行ってるクラブでちょっと接触してみようか」
「私が行こうか?」と百合が目をキラキラさせる。
「百合はだめ、僕が行く」
「えー宮内はロリコンだからヴィッキーみたいな美人系はタイプじゃないかもよ」
ヴィッキーは百合の言っていることが最もで返す言葉がない。
しかし、
「変装するから大丈夫」
「だめ〜ピアス外すんでしょ?また開けるの痛い痛いなんだから!」
「こんなの慣れてるからいいんだよ」
「とったらすぐ穴塞がっちゃうんだからもう付けさせないよ!」
「え〜、じゃあ百合も変装して一緒に行くならまだ良いよ」
「そうしよう!」百合は目をキラキラさせる。
ヴィッキーは特殊な体質で傷がすぐ治る。ピアスをしばらく外したら、ピアスホールが1日もすると塞がってしまうのだ。
2人は宮内がクラブに行く金曜の夜に、変装をして出かけた。ヴィッキーは、金髪ロングヘアのカツラにグレーのカラーコンタクト。ハリウッド女優みたいだった。百合は茶髪のカツラに童顔のメイクをした。高校生のようなプリーツスカートにフーディ。ヴィッキーはパーティドレススタイルだ。
百合の両親にバレないように、ヴィッキーのハーレーで出掛ける。電車は百合には治安が悪すぎて乗せられない。
クラブの入り口で百合が年齢確認で止められるかと思ったが、難なく入れた。用心棒の外国人がヴィッキーを舐め回すように見ていた。
「はぁ〜女の子ヴィッキー久しぶりに見た。やっぱりスーパー美人だね」
「恥ずかしいからやめてよね、男に慣れちゃってスカートはお股がスカスカする」
「そういうこと言わないの!」
ヴィッキーが欧米人からナンパを片っ端から無視しながら怠そうに言っている。
百合は日本人男性からチラチラ見られているが隣のヴィッキーの圧倒的存在感から怖気付いて話しかけられないでいる。
「ほらほら宮内がいたよ」
ヴィッキーが指を差した方には宮内がボックス席で数人の仲間と酒を飲んでいた。
「いくぜ」とヴィッキー
「えええいきなり!?」と百合
「お兄さんたち〜アタシたちも混ぜてくれない?」ヴィッキーが雑に声をかけるが、宮内の大学の友達たちであろうか、鼻の下を伸ばして目をギラギラとさせている。
「もちろんさ!奢るから好きなの頼みなよ!」と宮内が言う。いかにも金持ちの雰囲気が出ている。顔はそこそこに整っているが大事に育った御坊ちゃま感があり、肌は艶々で白い。
ヴィッキーたちはソファに座る。
「君たち大学生?」
「はい〜東都女子大です〜」
と言う百合。
「俺たち澁澤大なんだけど〜」
出た大学ブランド自慢。澁澤大はどこでも自分の大学名を聞いてもいないのに言うことで有名だった。
「え〜澁澤大!すご〜い!」
と、ヴィッキー。昔は私大のトップは澁澤大だったが、今やヴィッキーたちの大学が一人勝ちの状況で格下である。
ヴィッキーが誉めそやし、気分を良くさせてとにかく飲ませる。
百合はやはり宮内から目を付けられて、口説かれている。恥ずかしそうにうぶな感じで答える百合は宮内のど真ん中のタイプだった。
百合には酒をできるだけ飲むなと伝えてあった。飲んでトイレに行った隙に飲み物に薬を入れられる可能性があった。控えめに振る舞いながらもいつのまにか宮内に沢山飲ませている。
ヴィッキーは豪快に盛り上がっているように見えた。そのうちヴィッキーの両隣が潰れた。度数の高い酒を飲ませていたのだ。
そのうち宮内がトイレに行く。
帰ってきて飲み物を飲むと潰れた。
まさか自分が盛られるとは思わなかっただろう。
しかし百合が盛ったのはただの睡眠薬なので眠っているだけだ。
宮内の親指で彼のスマホのロックを解除するとバックドアアプリを仕込む。写真のアルバムを除くが彼女の写真はない。ロックされたアルバムがあり、指紋認証が使えなかった。念のため他の2人にもバックドアを入れた。
あとは、ゆっくりバックドアを使って確認すれば良いので怪しまれないためにもヴィッキーたちはその場所を去った。
「さてさて、五月蝿いので出ましょうか」とヴィッキー。
時刻は23時、静かなバーに2人は入ると、アルコールは頼まずにコーヒーを飲んで、軽い食事をした。
「宮内のスマホ見ようぜ!」とヴィッキー。
2人はスマホを確認すると、家の中を移すペット用のカメラのアプリを見つけた。
「あ!これ!」
と百合が指を差す。
そこには虚な顔でテレビを見る紗智の姿が写っていた。
「うわぁ、監禁してんじゃん」とヴィッキー。
「どうする?警察に言う?」
「いや、バックドアで読んだ画像は証拠品として警察が使えないから逮捕に踏み切れないだろうし、本人が同意してそこにいたって言われる可能性がある」
「じゃあどうする?」
「本人に同意のもとでそこにいるのかまず確認しないといけない」
「どうやって?」
と聞く百合にヴィッキーが指を差したのは出前配達アプリであった。
2人は1時間半くらい時間を潰すと、外に出る。
ハーレーに跨ろうとするヴィッキー。
「アルコールちゃんと抜けた?」
と聞く百合。
「大丈夫!そんなに飲んでなかったし、もう分解した」
「おい!そこの君たち!」
後ろで声が聞こえたので振り返るとやけに整った顔の背の高い男性が美しいフォームで走ってきた。
「やだお巡りさんじゃない」と百合。
パトカーが路肩に停められている。
「君たちクラブ帰りだろ?飲酒運転はだめだよ」
と、言うお巡りさん。制服でないところを見ると刑事だろうか。
「この子は飲酒してるけど、私はだいぶ前に少しだけ飲んだだけでもう分解してるから大丈夫よ」
とヴィッキー。
そんなわけないだろうと苽生は思う。クラブは夜からしか開かない。どう考えてもクラブで飲酒しているのにこの時間にアルコールが分解できているはずがない。
「そっちは未成年じゃないだろうな?ちょっと2人とも身分証確認させてもらえる?」
と、百合を見ながら言う苽生。
ああ、これは面倒なことになったなと2人は思う。お互いにお互いの個人情報をこの警官にできれば与えたくないと思った。
「お兄さん刑事さん?ナイスガイだね」
とヴィッキーがちょっと色っぽく近付く。
「あれれ、お兄さんもちょっとお酒の匂いしない?」とヴィッキーは、苽生の肩に手をかけて近付く。普通の男性なら鼻の下を伸ばしてしまうだろう。
「大人を揶揄うんじゃないぞ」
と苽生。確かに捜査の帰りに少しバーで酒を飲んだが、苽生は分解が早いのですでにアルコールは分解している。
ヴィッキーが両腕を苽生に回す。
「イケメン刑事、職質のフリをしてクラブ帰りの女性をナンパ、とか書かれちゃったりして…」と耳元で囁くヴィッキー。
通行人がチラチラと2人を見ている。
「離れろ」
と低い声で、言い放つ苽生。
「きゃー!怖い!逃げよっ!」
と百合にヘルメットを被せてハーレーに跨る。
百合をひょいと抱き上げて後ろに乗せるヴィッキー。
「おい!待て!」
と言う苽生、通行人がニヤニヤ笑いながら見ている。ただのスーツの自分は確かにナンパに見えるかもしれない。無理に引き留めて写真でもネットに載せられたら最悪だ。
そして彼女の服や髪からはアルコールの匂いがしたが、呼吸からはアルコールの匂いがしなかった。
それより苽生が気になったのは2人から百合の匂いがしたことだった。百合の匂いの香水なんてどこにでもあるからただの偶然かもしれないが。
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