コント『バイトアプリ』二人用

設定:A=ボケ・バイト志望者 B=ツッコミ・職長

舞台:土木工事現場

――――


B:(大声)よーし、みんな。順調に作業、進んでるな。重機は既設管きせつかんに気をつけて作業しろよー!(大声ここまで) ……それにしても遅えな。工事部長がスキマバイトアプリで人頼んだって言ってたけど、全然来ねえ。


A:すみませーん!


B:お、あいつか? はーい、聞こえてますよー。


A:(少し溜めて、大きく息を吸う)すみませえええぇぇぇぇえええん! ぼくの話をきいてくださああぁぁああい(狂ったような大声)


B:いや、聞いてる聞いてる。うるせえな。君があれか、スキマバイトの『ハタラク』で来た人?


A:はい! 『ハタラク』から来ました、角川です!


B:角川さん、ね。今日の作業内容は伝わってるよね?


A:バッチリです! 土木作業と運搬作業って聞いています!


B:オッケー、オッケー。……でもさ、その作業内容を知ってて全身タイツに目出し帽とグラサンで来たやつ、初めてだよ。


A:いや、他にまともな服なかったんっすよ。


B:お前、普段、何を着て生活してんだよ。それ愛用してんの、特殊なスポーツの選手か、キャラが狂ったように迷走した芸人くれえだぞ。


A:こう見えても、結構動きやすくて便利なんっすよ、これ。


B:君がアプリで来たバイトじゃなかったら確実に通報していたよ。――まあいいや、今日、お願いしたいのはアソコのダンプの土がいっぱいになったら、「書読カクヨムサンドサービス」まで運んで行って欲しいんだ。向こうに着いたら、土の降ろし場所とかは、受付のおばちゃんに訊けばいいから。


A:分かりました! 受付のおばちゃんを埋めればいいんっすね。


B:耳の穴詰まってんのか!? ――とりあえず、ダンプに土が貯まるまでは、ゆっくりしてていいからさ。よろしく頼むよ、角川さん。


A:あのー、すみません。


B:どうしたの?


A:今日やる作業って、それだけで良いんっすか?


B:何? 他にも仕事やってみたいの?


A:はい、自分、いろいろな仕事を経験してみたくて、この『ハタラク』に応募したんです!


B:いいねいいね、仕事に対する姿勢は完璧だよ。服装以外は。


A:いつか自分も、でっけえ仕事をできるようになりてえんっすよ。


B:いやあ、スキマバイトじゃなくて本格的に雇ってみたくなるねえ。君いいよ!


A:自分、闇バイトに憧れてるんっす!(めっちゃ嬉しそうに言う)


B:え?


A:やべえ薬を運んだり、山に人を埋めたり、高級車を片っ端から盗んだりしてえんっすよ!


B:そのテンションで語る夢じゃねえぞお前。うちの仕事を何だと思って応募してきたんだ。


A:いや、不要物を運搬するだけの簡単な仕事ですって書いてあったんで。


B:まあ、その通りだからね。


A:この場合、「不要物」って使えなくなった人間のことを指すって思ったんっすよ。


B:とんでもねえサイコが来たもんだ。うちは そこそこブラックだけど、そこまで染まりきってねえよ。土木業界なめんな。……もしそうだとして、時給二千円でよくそれやろうと思ったな。


A:……自分、どうしても金が必要なんすよ。


B:おう、どうしたんだ。急に。まあ、聞いてやるから言ってみろよ。


A:自分には病気の母が居て、介護と治療のために、もっともっとお金を稼がなきゃいけないんです。


B:なるほどね。


A:……それに、あんまり人には言えねえんっすけど、近所にある児童養護施設に、毎月、寄付をしてるんっす。


B:へえ、偉いね。


A:あと、戦争や貧困で恵まれない環境にある、海外の子どもたちに少しでも支援をしたくって……。


B:……闇バイトしたがる人間が語る動機じゃねえなそれ! 「遊ぶ金が欲しかった」とか、「借金が払えないから」とか、もっとそれっぽい動機で来いよ! 危うく納得しかけたじゃねえかよ!


A:というわけで、自分、死体でも薬でも何でも運びますんで、任してください。


B:お前は土を運ぶために、ここに来てんだよ。


A:最悪、人の腕とかでも大丈夫なんで!


B:それ運ぶ状況がもう最悪なんだよ。業界にとって。


A:いざとなったら、強盗でもなんでもやりますから!


B:見た目だけはバッチリ強盗できてるんだよ! うちを何だと思ってるんだ。


A:(急に怒る)さっきから、滅茶苦茶 言ってますけどね! この業界って、反社がやってるってネットに結構書いてあるじゃないっすか。紛らわしいから、真っ当な商売をしないでくださいよ!


B:滅茶苦茶なこと言ってるのは お前ぇだよ! 早くその偏見にまみれた色眼鏡と目出し帽を脱いで、さっさとダンプに乗れ! 土が貯まって来てるからよ。


A:分かりました。この仕事が終わったら、自分、昇格できるっすかね。


B:出来ねえよ。今日の作業が全部終わったら金輪際こんりんざい、お前を呼ぶことがないからな。


A:それじゃあ、自分、行ってきます。故郷ににしきを飾って来るっすよ。


B:錦でも泥でも何でも勝手に飾ってろ。


B:……やっと行ったか。とりあえず工事部長に報告だな。ピッピッピっと。(スマホをいじる動作)


B:ああ部長。今日のバイト、とんでもねえ奴が来たんですよ。なんか闇バイトがしたくて応募した、みてえな危ねえやつで。――え? 今日のバイト、事情があって、あと一時間くらい遅れるって……? いやいや、さっきダンプ乗って行きましたよ?


(B、呆然と立ち尽くす)


B:じゃあ、あいつって……誰?

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(フリー台本)ゆる劇 あああああ @agoa5aaaaa

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