漫才『食レポを極めたい』二人用

A:いやあ、最近、めっきり寒くなったよね。


B:そうだね。鍋とか食べたくなるよね。


A:わかる! 白菜切ってさ、大根入れてさ、肉団子やキノコもいれて……。


B:そうそう! ダシもしっかりと効かせてね。


A:具材をたっぷり仕込んだら蓋をして。


B:あとは。


A:レンジに。


B:ああ無理無理無理無理。入らない、入らない。カセットコンロかクッキングヒーター買おう?


A:売れっ子になったらいつか買うって。


B:売れるまでレンジでなんとかしようとすな。


A:まあ、そんなことはどうでも良いんだよ。問題は「鍋を作ったあと」よ。


B:鍋を作ったあと? 何の問題があるの。


A:ほら、俺達 芸人じゃん? 売れたら食レポの仕事とか来るわけじゃない。


B:まあ、来たら嬉しいけどね。


A:もし来てもさ、食レポ下手だったら二度と呼ばれないじゃん?


B:そうね。


A:だから、今のうちに食レポ技術を鍛えておきたいってワケよ。


B:いい心がけじゃん! 何かトレーニングとかしてるの?


A:もちろん! なにか食べた時の感想をいっぱいメモして、表現力を鍛えてるよ。今日も楽屋の弁当とか、感想をメモしてるから聞いてよ。


B:あのエビフライ弁当か。あれ美味かったな。じゃあ、言ってみてよ。


A:まず見た目! 鮮やかなきつね色! まるでリスの食べたガリガリの松ぼっくりみたい!


B:もうすこし綺麗なものに例えろや。身が詰まってて風船みたいに大きく膨らんでいますね、とかあるだろ!


A:そして香り! 皮を剥いた瞬間、甲殻類特有の濃厚な香りが…


B:エビフライ剥いて食うやつ居ねえんだよ。ひと思いにかじってやれよ!


A:一口食べると……甘酸っぱい肉汁が口の中にジュワッと広がる!


B:お、いいねいいね。食レポ感出てるよ!


A:これはまさに……エビのフライやー!


B:そのまんまじゃねえか! なんかひねれよ! 彦摩呂さんに怒られるぞ!


A:いやあ、難しいね。なんかオシャレな言い回しをしたいんだけど、なかなか出てこないんだよ。


B:そんな無い知恵絞って考えなくても、オーバーな言い回しやリアクションでどうにかすればいいじゃん。「柔らかすぎて、噛まなくても飲めちゃいますね」とかさ。


A:ああ、餅の話?


B:良く噛まねえとアレ毎年ぽっくり逝ってんだよ。違う違う、肉ね。あと、「トロトロ」とか「プリプリ」とか擬音を使って表現を盛っておけば、それっぽくなるじゃん?


A:「ギットギト」とか「ネッチョネチョ」とか?


B:さっきからずっと例えが食欲湧かねえんだよ。いいか? 俺が見本みせるから。まずエビフライを見ます。「え! こんなに大っきいエビフライが弁当に入ってていいんですか!?」って感じで、見た目を褒めるんだよ。


A:なるほど!


B:で、早速「いただきま~す」とか言って、思いっきりかじるわけよ。食べた瞬間に「ん~~~~!」とか言いながら嬉しそうな顔するのも忘れずにな?


A:やっぱそういうの大事なんだよな。


B:で、味を伝えるわけよ。「エビの弾力が凄くて、ずっと口の中で跳ねてるみたい! それに、この肉汁! めちゃくちゃジューシーでご飯が進む進む! うわ~旨い!」ってな感じに、これでもかってくらい褒めておけばいいんよ!


A:ああ、だんだん分かってきた! よし、ちょっとやってみるわ。まず、エビフライの見た目ね。「こんなに大っきなエビフライが、弁当に入ってていいんですか!? 軽自動車くらいありますよ!?」


B:良くねえよ! そんなエビフライ弁当が楽屋にあってたまるか。


A:で、「いただきま~す」って言って齧る。


B:そうそう、そこでいい笑顔してオーバーにリアクションしろ?


A:ファアアアアアアアアアアアアアアア!?


B:どういう情操教育を受けたら、そう喜べるんだよ。お前の母ちゃんゴルフでもやってんのか? 


A:ん?(ひょっとこみたいな顔をする。声は高めの変声で)


B:いやだから、キャディさんみたいにファアアアって言ってんのかって話よ。


A:ん?


B:分かんねえならいいよ、あと、その顔と声やめろ。……もういいから次、味を伝えて!


A:で、味を伝える!「エビの弾力が凄くて、ずっと口の中で跳ねてるみたいです!」


B:よし、良いよ良いよ!


A:「それにこの肉汁の弾力!」


B:ん?


A:「めちゃくちゃジューシーで、ご飯が口の中で跳ねてるみたいです!」


B:駄目駄目ダメダメ! 全部跳ねてんじゃねえか! 覚えたての言葉を何度も使うな。小学生じゃねえんだからよ。――あれだ、お前はまだインプットが足りてねえんだ。もっと色々な料理を食べて、色々な本を見て勉強しろ、勉強。


A:うーん……いや、それは無理だよ。


B:何でだよ。


A:うちのレンジ、昨日、鍋入れて壊しちゃったから。


B:もういいよ。


AB:どうも、ありがとうございました!

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