12本目:邪神の変化と混沌の覚悟

えげつないお話で今年を締めくくるのもアレだったので、もう一話投稿!

2024年、お疲れさまでした!


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(あつい、体があついっ!)


 汗がでる、おなかの下の方がぎゅーってする。


「あついよ、おなかいたいよ、お姉ちゃんっ! ポテ子お姉ちゃんっ!」


 何でこんなにあついんだろう。

 あれがたべたい。たべないとっ、さがさないとっ。

 おなかをおさえても、ぎゅってしても、ごろごろしても、おなかがいたい。

 きもちわるい、あつい、いたい、あれがたべたい。


(あれって何だっけ・・・ぼーっとして、思いだせない)


 なんだっけ、なんでたべたいんだっけ?

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・あっ、あっ、あっ!」


 たべたい。


 何を?


 たべたい。


 何で?


 いいにおいがする。

 おいしそうな、においがする。

 そうだ、おいしそうなにおいがするんだ。


 おなかが、泣くんだ。

 きゅーって、さびしく泣くんだ。


(だからかな? 今も、おなかの下のほうがぎゅーってする。いたい)


 おなかはすいてない、でもたべたい。


(そういえば、ポテ子お姉ちゃんからも、いいにおいがした・・・)


 ポテ子お姉ちゃんは、すぐくるって言ってた。

 すぐっていつだろう、もう何日もおやすみしてるよ。


 たべないと、たべないと、たべないと。

 ずっとおなかが泣いてるから。


 さがさないと、さがさないと、さがさないと。

 何を? だれを?


 いいにおいがする、あれをさがさないと。


 あれのにおいがしたときだけ、おなかが泣かなくなるから。


 ポテ子お姉ちゃんからも、いいにおいがしたから。


 じゃあ、僕はポテ子お姉ちゃんをさがしてるの?


 ううんちがう。


 僕がさがしてるのは、護お姉ちゃんとお母さん。


 護るお姉ちゃんからもいいにおいがするの?


 わからない、でも会いたい。


 あいたい、たべたい、あいたい、たべたい、あいたいたべたい、あいたいたべたい、あいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたいあいたいたべたい。


 どうして?


 だって、あいたいから。






 だって、『お約束』したから。






(・・・お約束? そうだ、僕はお約束したんだ。)


 だれと、お約束したんだっけ?


 だれと?



 だれと?






「・・・おとーさん」


 思いだした、おとーさんだ。


 おとーさんと、お約束した。


 だから、お姉ちゃんとあれをさがさないと、たべないと。






「あはっ♡」


 いっぱい、たくさん思いだした僕の手は、血で真っ赤だった。


 ◆


 蓮田さんの力を借りて調査の体でダンジョンに潜った私は、どうやって最下層に向かうか悩んでいた。


「よく考えたら、二人で調査って言ってるんすから、二人共映ってないとダメじゃないっすか!」

「今更かね、私は君に何か考えがあるのだと思っていたよ」

「まぁ、無くもないっすけど・・・」


 あのスキルを使うと、力が半減する。

 未知のモンスターが居るこのタイミングでは、あまり良い選択肢とは言えない。


「それにしても、まさか調査中断の上に封鎖されるだなんて予想もしてなかったですよ」

「私としても寝耳に水といった所だね。ポテ子君、君は件の触手の正体が流々君だと思うかね?」

「ぜってぇ違います、私は信じねぇっす。そもそもその触手だってはっきりと映ってねぇです、触手らしきものと吸盤の跡があったってだけでしょ? それがたまたま流々ちゃんのダンジョンに現れたってだけで・・・それなら別のモンスターの可能性も・・・」

「あると思うかね?」

「・・・あるっす、絶対流々ちゃんじゃねぇです・・・たぶん・・・」


 ダンジョンが新しいモンスターを生んだのだろうか。

 確かにダンジョンは魔力を糧に新たなモンスターを生むことはある。ここ最近の人の流入は凄まじい、例えその殆どが下級のダイバーだとしてもその可能性もなくはない。

 だが先日バロンという新種が見つかったばかりだ、そのうえで更に出現したというのだろうか。


(仮に出現したとして、出たのが流々ちゃんと同じ軟体生物系。まぁ、ここ迄は可能性として無くもないです。ただ軟体生物系のモンスターといえば、クラーケンですか? あんなデカいのが出て来れるわけがないうえに、ここは海洋系のダンジョンじゃないです。じゃあ何が・・・)


 軟体生物系は、モンスターの中でも特に目撃例が少ない。

 その為、そうひょいひょいと現れるとは思えないのだ。


「仮に正体が流々ちゃんだとしても、私は流々ちゃんの味方です。人間と流々ちゃん、どちらの味方をするかなんて言うまでも無いです」

「その場合、私は敵対する事になるがね。君は私に勝てると思うのかね?」

「混沌如きが王に勝てるだなんて・・・思ってないですよ」

「ふむ、ならば賢い判断を願う事にするかね」


 彼は王、私達の仲間の中で最強の一角です。

 勝てるとしたら、それこそあの人かおじ様か・・・。


「して、どうやって視聴者の目を欺くのかね?」

「こうしましょう。『ドッペルゲンガー』」


 その言葉を呟くと、目の前には私と瓜二つの人間が出現する。

 これは私の影を使って、同じ実力を持った分身を作り出すスキル。ただし全てを半分に分ける為、魔力も身体能力も半分になってしまう。

 本来、このような場所で使うのは自殺行為だが、今回のような潜入の際には重宝するスキルである。


「見事なものだね、私の目から見ても見分けがつかない」

「これで何とかなるでしょう、戦闘はお任せしますね」

「うむ、賜った。行ってくると良い、彼女によろしくと言っといて貰えるかね」

「了解っす。あっ、いくら私が可愛いからって、分身にエッチな事しちゃだめですよ?」

「試しにどちらか細切れにしてみようかね」

「ごめんなさいっ⁉」


 ちょっとしたじゃれ合いを済まし、私は影の中を跳びながら最下層へ向かいました。


 ◆


「流々ちゃん、流々ちゃーーんっ! どこっすかぁ~~?」


 最下層に到着した私は、あの愛らしい姿を探した。

 今はとにかく安心したい、あの子が犯人じゃないという確証が欲しかった。


「流々ちゃーーん?」

『ポテ子お姉ちゃん?』


 何処か離れた所から、流々ちゃんと僅かな水の音が聞こえた。

 どうやら神殿近くの水辺に居るようだ。


「あー、いたっすね! 流々ちゃー・・・ぶほぉっ⁉」

「ポテ子お姉ちゃんっ⁉」


 水辺で見つけた流々ちゃんは、生まれたままの姿でした。というか水浴びをしている最中の様でした。

 あまりの衝撃に鼻血を噴いて倒れる私、しかしその女神が如き裸体はしっかりと目に焼き付けました。


 一切くすみの無い白い肌、プニプニの肌でありつつも年齢に見合わない均整の取れたスタイル、少しばかり膨らんだお胸、気のせいか私よりも大きい気がします。

 全てが素晴らしい、これは私の脳内フォルダに永久保存です。


「マ、マーベラス・・・がくッ」

「お姉ちゃん、何言ってるのっ⁉」


 暫くして意識を取り戻した私は、流々ちゃんを抱き締めながらお話を始めました。

 水で冷えた体を温めてあげるつもりでしたが、その頃には既に体は暖かくなっていました。

 というより、気のせいか体温が高く感じます。下手すると40℃くらいありそうです。


「流々ちゃん、風邪ひいてませんか? 何で川に居たんです? あと、何でそんなに暖かいんです?」

「んー、分かんない! ちょっとね、、キレイにしてたの。あったかいのは・・・なんでだろうね?♡」


 首をこてっと傾ける流々ちゃん、相変わらず凄く可愛い。

 ただ気のせいか、いや本当に気のせいかも知れませんが、前に会った時より色っぽい?

 怪訝な表情をしていると、流々ちゃんは腕の中でくるっと向きを変え、私と向き合う形で話しかけてきました。


「ねぇ、ポテ子お姉ちゃん・・・僕ね、早くお姉ちゃんにあいたかったの♡」

「る、流々ちゃん?」

「はぁ・・・はぁ・・・ポテ子お姉ちゃんに、会いたくて・・・会いたくて・・・会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくてあいたくてあいたくてあいたくてぇ・・・おなかがぎゅーっとしてむずむずしてたのぉ♡」

「るるる流々ちゃんっ⁉ 何か可怪しくないすかっ⁉」


 迫る顔が、掛かる息が、熱い。

 よく見るとタコ足が若干赤みを増しています、そして何より──。


「覚醒が進行している?」


 模様のようなものが、人の肌にも表れていました。

 紫色の炎のような模様がタコ足全体と頬と手足に、この模様どこかで見たことがあるような・・・。


「お姉ちゃ~~ん・・・、うふっ、すりすり・・・ぺろっ」

「うひょぉぉぉぉっ⁉ ヤバいっ!! 何がヤバいって、何も言えないくらいヤバいっすっ!! ・・・って、あれ? 体がう、うごか・・・」

「おねぇ・・・ちゃ・・・・・・ん、・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ♡」


(こ、これは、毒ッ⁉ 麻痺毒っすかっ、何で⁉)


「おねえちゃん・・・あーん・・・」


 突然の出来事に混乱する私の目の前に、ちっちゃな八重歯の生えた流々ちゃんの口が迫っていた。

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