15本目:邪神再浮上

「ふんふん、なるほどぉ~。こうやって計算するんだね」


 僕の毒のせいで倒れちゃったポテ子お姉ちゃんは、あれから少しして元気になりました。

 ちょっとだけまだフラフラしてたけど、「イエローボーイの所に戻らないといけないんす」って言って帰ってしまいました。とっても寂しいです。


 ポテ子お姉ちゃんは帰る前にいっぱい、色んなものを置いて行ってくれました。

 沢山のご飯や調味料、お洋服と下着、石鹸とかタオル。その中にあったのが『お勉強道具』です。


 メモには『人の世界で生きるには勉強しようね』って書いてありました。

 前にお姉ちゃんにも教えて貰ったけど、僕くらいの年の子供は学校っていう場所でお勉強するらしいです。

 ポテ子お姉ちゃんは、僕がちょっとでも困らないようにと教科書を入れてくれていたみたいです。


 ポテ子お姉ちゃんが帰ってから5日、僕はその教科書を全部読み終えてしまいました。

 お陰でちょっとは難しい言葉が使えるようになりました、すごく嬉しいです!


「よしっ、これで中学生の教科書も終わりっ! それにしても・・・うふふ、ちょっとズルしてる気がするな!」


 流石の僕でも教科書の内容を教えて貰わずに、何日かで覚えるなんて変だってことぐらい分かります。でも、これには理由があります。


 僕がこの体になった時、この体はどんなことが出来るのかが自然と分かりました。

 タコさんの手足の動かし方、吸盤でくっ付く方法、千切れた触手の治し方、墨の吐き方、本当に色々ですが、その中にあったのが『この体の構造』です。


 何とビックリな事に、この体には頭が9個もあります!

 頭と言っても顔があるワケじゃなく、脳っていう考える所に似たものが9個あるみたいです。だからか分からないけど、何回か見たり読んだりしただけで教科書の内容が分かりました。

 4桁6個の掛け算も暗算でちょちょいのちょいですっ、むふー!

 ただ、ちょっと困ったことが・・・。



 ぐぅぅ~~・・・



 お勉強すると、いつも以上にお腹が空きます。


 ポテ子お姉ちゃんがくれたご飯も2日でなくなっちゃいました、お約束だったので出来るだけ出ないようにして、ご飯もあまり登らずに採れる物だけで済ましました。

 でもやっぱり美味しくないし、量もあんまり採れなくて・・・。



 ぐぅぅ~~・・・



 お腹から悲しそうな声が聞こえます、もう我慢できません。

 ポテ子お姉ちゃんとのお約束は破らないようにしたいけど、お腹が空きました。僕は上に行くことにします。


 ◆


 教科書によると、ここは《邪神の呼び声》という名前のダンジョンで地上15階地下50階の全65階層のすごく古いダンジョンなんだそうです。

 ちなみに僕が住んでいるのは55なので、教科書は間違っています。


 まぁとにかく、すごく大きなダンジョンなのですが、それを毎回ご飯を採りに行く度に階段で登ると時間がかかります。

 でも実はこれをピュンと移動できる方法があります、それは『落とし穴』です!


 この落とし穴は普通の落とし穴と違って、一回落ちると5階移動します。

 なので逆に下から入ると5階上に上がれるんです、とっても助かります! これを作った人もきっと僕と同じで、ご飯採りが大変なので作ったんだと思います!

 もし会えたら、いっぱいありがとうって言わないといけません。


 落とし穴のある場所も覚えているので、30分もすれば地下20階層まで来れます。

 今までこのダンジョンに来る人が少なかったし、そもそも地下15階より下に来る人が居ませんでした。でも最近地下20~25階まで人がいっぱい来ます。

 出来るだけ会わないようにっていうポテ子お姉ちゃんとのお約束、なのでこの辺りまで来たら頭に付いているヒレをパタパタさせて人が来ないか注意しながら歩きます。

 お約束をちゃんと守ったらポテ子お姉ちゃんが頭を撫ででくれるので、僕は絶対に破りません!


 地下20階は、僕の大好物の牛さんのお肉が採れる場所です。

 牛さんは一人ぼっちが好きみたいで、見つけた時はいつも一人で居ます。集まってるのを見かけたのは一回だけです。

 牛さんが居ない日があっても、他のお肉さんが絶対見つかるのですが・・・今日はどうも様子が違いました。


「あれぇ・・・お肉さんが誰も居ない。牛さんが居なくても、お馬さんか蛇さんは絶対居るのにぃ。変だなぁ」


 本当に誰も居ません。耳を澄ましても、お肉さん達の声は聞こえません。

 それに最近いっぱい居た、人の気配もありません。


「みんな、お腹が空いてお家に帰ったのかな?」


 僕もお腹が空いています、早くお肉さん見つけないと。


 それから暫く、何も見つからないままぺたぺたズルズル歩いていると──。





 ──ズルルッ・・・





 何か聞こえた。

 それはヘビさんの足音にそっくりな足音、しかも一つじゃないです。



 ──ズルッ・・・

 ──ズルズル・・・

 ──ズルルルッ



 「いち、にー、さん・・・ろく? もっと居るかもっ!」


 これは大変です、急がないとっ!


 急がないと──お肉が逃げちゃいます!


「お肉! お肉! お肉がいっぱい♪ ──とうちゃくっ!」


 全力で走ってきた甲斐もあって、お肉さんの足音に追いつくことが出来ました。

 しかし、そこにはやっぱり何もありません。


 そこは洞窟を大きくくり抜いた感じのお部屋で、隅っこのほうにお水が流れている場所でした。

 たぶん僕が流れてきた川が、あんな感じでダンジョンに繋がってたんだろうなって思います。


「お肉さん居ない・・・じゃあ、今日はお魚さんで良いかな」


 お肉食べたいけど居ないから仕方ない、食べる量は少ないけどお魚で我慢します。


(おかしいなぁ、まだ音がするのに何処にも居ないなんて・・・透明なお肉なのかな?)


 そんなお肉なんてないよね、そんな事を思いながら僕は川を覗き込みました。


 お水の中にはちょっとだけですがお魚さんの姿が見えます、でもお魚さんを捕まえるのはすごく難しくて追いかけて捕まえるのは絶対無理です。

 タコさんの手で刺して捕まえることなら出来るんですけど、あまり遠くまで届かないし、逆にお魚さんが襲い掛かってくることもあります。


 お魚さんは僕が手を広げたぐらいの大きさで、ギザギザの歯を持っていて、お目目がいっぱいあって、空も飛びます。しかも水鉄砲を撃ってきて、それで前にすり傷が出来て泣いちゃったこともあります。

 とにかく怖いお魚さんなんです!


 そこで僕は考えました、じゃあワザと噛まれて引っ張り出しちゃったら良いじゃないかって!


 ちょっと離れた所からタコさんの足を延ばして先っぽだけお水に入れます。

 するとお魚さんは足に噛みついてくるので一気に引っ張ります、するとお魚さんが僕の方へ飛んで切るので──。


「よわーい、パンチッ!」

「ギュワアァァアアアッッッ⁉⁉⁉」


 流々ぼくはお魚を手に入れた!

 これを何回か繰り返したらお家に帰ろう、頭の中はお魚をどうやって食べるかでいっぱいでした。




 ズル・・・




 いつもは焼いて食べています。

 お塩をかけて、すっぱい果物をかけて食べると美味しいんです。




 ズル・・・ズル・・・




 お家の周りの水はキレイなので、貰った調味料を使って煮るのも良いです。

 まぁお魚だけなので、ちょっと寂しいですけれど。




 ズル・・・ズル・・・

 ズルル・・・

 ズルズル・・・




 よしっ、これで10匹目! これだけあれば、ひとまず大丈夫そうです。

 ちなみに足はちょっとチクッとするだけで、特に問題は無いです。


「よしっ、お家に帰ろ~! 半分は焼いてぇ、半分は煮てぇ。うふふ、ゼイタクしちゃお──もごっ⁉」




 僕は突然何かに巻き取られてしまいました。

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