2本目:邪神創世記
「はむっ、モグモグ・・・」
お家に着いた僕は、早速手に入れたお肉を食べている。
牛さんを捕まえた所から、下に下に歩いていった一番下にある石の家が僕のお家。
お家は、何だっけ。昔お姉ちゃんに教えて貰った「神殿」っていうのに似ている気がする。
僕にはお姉ちゃんが居る。
やさしくてキレイで、僕の大好きなお姉ちゃん。でも今は・・・まだ会えない。
「お姉ちゃん・・・会いたいよぉ・・・ぐすん、もぐ・・・ぐすっ・・・もぐ・・・」
お姉ちゃんの事を考えたら涙が出てきた。
泣きながらご飯を食べたら、おぎょうぎが悪いってお姉ちゃんに叱られるかも。
でも涙が止まらない。叱られても良い、もう一度お姉ちゃんに会いたい。
悲しくてもお腹は空くし、喉は渇きます。
僕は手作りのコップに手を伸ばす。覗き込んだコップのお水には、昔と違う今の僕の顔──女の子の顔が映った。
信じて貰えないかもしれないけど、僕は本当は人間で、12歳の男の子でした。
どうして僕がこんなお姉ちゃんと会えないような所に居て、女の子になっちゃって、人間ですらなくなったのかというと、そこには深い事情があります。
◆
「うぇっ! がぶっ、ごぼごぼ・・・ぷはっ! ごほごほっ、はぁはぁ・・・」
僕は怖い人たちから逃げている途中で川に落ちて、このお家に流されてきました。
それまで僕は、産まれてから一度も外に出たことがありません。実は自分の歳も知りませんでした。
近くにはお母さんしか居なくて、昔どうして出ちゃいけないのか聞いたら「うるさい」って言って、いっぱい叩かれました。
だからもう聞かないようにしました。
その頃僕はあんまり部屋からも出して貰えなくて、ご飯もお風呂もお部屋でしていて、おトイレに行ける数も決まっていました。
おトイレをガマンするのは、大変でした。
それからいっぱい時間が経って僕もちょっと体が大きくなった頃、お母さんが「コイビト」という名前の男の人を連れてきました。
その時に一緒にやってきたのがお姉ちゃんです。
お姉ちゃんは僕より年上で、その頃すごく怖い目をしていました。
ただ初めて会った気がしなくて、怖い目をしてほしくなくて、出来るだけ笑って近くに居るようにしました。
そしたらお姉ちゃんは少しづつ笑ってくれる様になって、その内「いい子だね」「かわいいね」って撫でてくれる様にもなりました。
お姉ちゃんは沢山のことを教えてくれました。
ここが日本の関西って場所だということ、物の使い方や名前。この時に自分の名前も歳も初めて知りました。
僕くらいの歳の子は「ガッコウ」っていう所へ行かなきゃいけないらしいです。
ガッコウに行きたいかお姉ちゃんに聞かれたことがありますが、お姉ちゃんが居てくれれば良いので「分からない」とお返事しました。
お姉ちゃんは悲しそうに撫でてくれました。
それから「ナツ」とか「フユ」とかが何回か来た頃、お姉ちゃんがあまり来てくれなくなりました。
それからお母さんとコイビトさんが僕をあまり叩かなくなって、代わりにご飯を作ったり、お掃除をするように言われました。
あったかいご飯も毎日食べられるようになりました。
痛いのが無いのは嬉しいし、ご飯はおいしい。でも、それよりも、お姉ちゃんに毎日会いたかったです。
・・・これが「サビシイ」って事なのかもしれません。お胸がギュッとなります。
たまにしか会えなくなったお姉ちゃんに、どうして毎日会えないのか聞いてみたら「流々の為にお金を貯めてる」って言っていました。
よく分からないけど、お姉ちゃんみたいにキレイで若い女の子の方がオカネのもらえるお仕事があるみたいです。
お仕事っていうのは、頑張って「オカネ」を貰うことだって教えてもらいました。
僕も大きくなったらお姉ちゃんの為に同じお仕事をしたいって言ったら、お姉ちゃんが撫でてくれました。
でも、「オカネ」ってなんだろう?
お姉ちゃんに会えない日が続いて、お胸がギュッとするなって思っていたある日。
──ドンッ!! ガシャンッ!!
いつも通りお部屋でお風呂をしていたら、別のお部屋から大きな音がしました。
ビクッとしながら壁に耳を当てると、いっぱいの人の声が聞こえます。
『おい、約束の金はどうしたっ!!』
『すみませんっ、すみませんっ!!』
『すみません、じゃねーんだよっ!!』
『ぎゃあぁああああっ!?』
コイビトさんの痛そうな声と、知らない人の声が聞こえます。すごく怖いです。
『ちっ、おい金目のモン集めてこい。』
『へいっ!』
こっちに歩いてくる音がします。
「怖い・・・怖い、怖い。怖いよぉ、お姉ちゃん・・・助けて・・・」
お姉ちゃんは来てくれませんでした、そしてお部屋のドアが大きな音を立てて開きました。
──バンッ!!
「ひぅっ!?」
「あぁん、何だ? 女のガキ・・・いや、男か。おいガキ、ここで何してる? なんで裸なんだ?」
「ぼ、僕は流々・・・です。お風呂してて・・・」
怖い人が僕と、僕の足元にあるお風呂──お水の入ったバケツを見ます。
「けっ、胸糞わりぃ! 兄貴っ、ガキが一人居やしたっ。それ以外、何もねぇーっす!」
「ガキだぁ? おい、お前らガキなんて居たのか」
怖い人の後ろから、もっと怖い人と血だらけのコイビトさんが出てきました。
「そ、そうだっ! コイツだっ、コイツを売りますっ!! だから支払いは・・・」
「お前屑だな・・・だが確かに面は悪くねぇ、高く売れるだろうよ」
・・・何を言ってるの? 何も分からない、怖いっ。
お胸からうるさいくらい音がしています、僕はどうなるんだろう?
分からない、何も分からない、分からない、分からない、分からない分からない分からない分からない分からないっ!!
──怖い。
何も分からない。でも、ただ、二度とお姉ちゃんに会えなくなる気がした。
──それだけは、絶対にイヤだっ!!
僕は近くにあったお姉ちゃんの服を握って
「何だっ、今の動きはっ!? 本当に人間かっ!?」
「くっ、速いっ!? 追いつけねぇっ!!」
後ろから怖い人たちの声がします。
何処に逃げたら怖い人達が居なくなるんだろう、僕はお外の事が全然わかりません。
とりあえず走って走って、葉っぱがいっぱいある所に隠れて、汚いものが沢山ある所に入って、とにかく走りました。
まだ怖い人達が近くに居る気がします。逃げている途中、いっぱいの人が僕を見てきます。
初めて見る人たちばかりで、誰が怖くない人なのか分かりません。
僕は皆怖いです。
何日か逃げて、隠れて、疲れて、痛くて、怖くて、お腹が空いて、何より・・・・・・お姉ちゃん。
お姉ちゃんに会いたいです。
会いたい、でも何処に居るか分からないし、会いに行ったらお姉ちゃんのほうに怖い人が行くかもしれない。
会いに行けません。そして──。
ドボンッ!!
何も分からなくて、疲れてふらふら歩いていたら、コケて水に落ちました。
『子供が川に落ちたぞっ⁉ ダンジョンに流れちまうっ!!』
近くて声が聞こえました、ダンジョンというのはお姉ちゃんのお仕事している所だという事だけ知っています。
行かないようにしてたのに、お姉ちゃんの所に行っちゃうみたい。
怖い人達がお姉ちゃんの所へ行くかもしれない怖さと、お姉ちゃんに会えるかもしれない嬉しさ、息が出来ない苦しさで頭がゴチャゴチャしたまま僕は水に流されていきました。
◆
「・・・・・・ごほっ! ごほごほっひゅー・・・ここ、どこ? 真っ暗で何も見えないよっ!? 痛っ、痛い痛いっ、お姉ちゃんっお姉ちゃんっうええぇぇぇぇんっ!!!!!!」
見えないっ、真っ暗で何も見えないっ!!
あと身体中も痛いっ、お母さん達にいっぱい蹴られた時よりも痛い、顔が目が一番痛い。
痛くて、触った顔からはぬるっとした感触と錆びた鉄の臭いがした。
ここはどこ? 見えなくて何も分からない。
手で触った床がジャリジャリしてる、すごく寒い。
反対の手が動かない、目と手と足が熱い。
よく分からないけど、僕は死んじゃうのかもしれない。
死んじゃうのは怖いけど、怖い人たちはもっと怖いし、痛いのも怖い。
死んじゃった方がラクかも知れない、でも・・・お姉ちゃんに会えなくなるのがサビシイ? カナシイ? ギュッとする。
「お姉ちゃんに会えなくなる・・・ヤダッ、やっぱり死にたくないよぉ・・・お姉ちゃん・・・ゴポッ・・・ァ・・・」
お口からドロっとした何かが出てきました、それから力が入らなくなって、倒れて、寒くなって・・・・・・。
『ホ─、死──ぃカ』
最後に何かが聞こえた気がした。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・んっ。
「あれ? 僕はどうしたんだろう?」
目が覚めて、じっと上を
「あっ! 目が見えるっ、それにどこも痛くないっ!」
どうなってるんだろう? 不思議だなと思いながら自分の身体を見た時に、僕は気付きました。
ハダカだったのですぐに分かりました、これが
「うえぇぇぇぇぇぇっ!? お◯んちん、なくなっちゃったぁぁぁぁぁぁっ!?」
模様の入ったミドリ色の髪、真ん中が四角い目、少し小さくなった手と足、聞き覚えのない声、何もないお股、手よりちょっと大きなお胸、そして何より──。
「何か生えてるぅぅうううううっっっっ!?!?!?!?!?!?」
頭や背中には太くてニョロニョロした何か。
昔本で見た、タコに似ている手がいっぱい生えていました。
ビックリしすぎて、頭がぐるぐるします。
でも、それよりも、そんなことよりも──この見た目、お姉ちゃんに嫌われたらどうしようっ!?
どうすることも出来なくて、とりあえず僕は持ってきたお姉ちゃんの服を着ました。
その日からずっとこの場所にいます。
・・・おトイレって、どうやったら良いんだろう。ぐすん。
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