1本目:邪神の呼び声より出づる少女

☆近況報告にて、イラストを載せています。

 上手くはないですが、作品の参考程度に宜しければご覧ください。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 『ダンジョン』──それは22世紀の中頃に初めてその存在を確認された異空間である。

 外見は空中に出来た虫食いの穴の様だが、その内部は迷宮型、森林型、城塞型など様々で、また広さも色々だ。


 そんなダンジョンの、日本にいくつか存在する一つ。

 関西最古の洞窟型ダンジョン『邪神の呼び声』、その人類未到達エリアに“それ“は居た。


 体高はおよそ140センチ前後。ズルズルと体高を超える長さの尻尾、もしくは触手を何本も引き摺り、その先端では中層最強の代名詞であるミノタウロスが藻掻いている。


 四角い瞳孔をした丸い目はしきりに周囲を確認しており、その姿はまるで新たな獲物を探している様にも見える。

 そんな、正しく邪神に呼び出されたかのようなシルエットの“それ“が、ヒカリゴケに照らされ僅かに姿を現す。


 照らし出されたその姿は──大きすぎるぶかぶかのTシャツ一枚だけを身に纏った、緑色の髪と触手を持つ愛らしい少女だった。


 ◆


「〜〜♪ 〜〜♪」


 薄暗い道を僕──九冬くとう 流々るるはぺたぺたと鼻歌混じりで歩いている。

 今日はお肉がいっぱい獲れて、すごく気分が良いです!


 ──ズルズル・・・。


「ヴモオオォォォォッ!!」

「ヴオオォォォッ、ヴォオオォォォ!!」

「あっ、急いでて忘れてた! 痛かったよね、ゴメンね。すぐ済ますから!」


 僕は牛さん達に一度謝り、近付く。そして──。


 ──パァンッ!! ボキッ!


 ほっぺに手をペチンッとします、そうしたら牛さんは痛そうな声を出さなくなります。

 痛いままだと可哀想なので、これで良しです!


《ミノォオオオッ⁉》

《なぁ、さっきミノがビンタで死ななかったか⁉》

《死んだ、ビンタで首の骨が折れたらしい》

《どんな力だよ・・・》

《俺等の未来》

《狩られた獲物の心境な俺等》


 静かになった牛さんは光になって、お肉だけ残して消えていきます。僕にもよく分からないけど、ここ、ダンジョンはそういう風にできているみたいです。

 僕は残った大きな5つのお肉を触手うでで持ってお家に帰ります。


 実は今日、食後にお楽しみがあります。それはこの「板チョコ」! さっき空をフワフワ浮いているのを捕まえました!

 板チョコというものを食べたことはないです。ですが昔本で見て以来、ずっと食べてみたいと思っていました。まさかダンジョンにあって、しかも飛んでいる食べ物だったなんて思いもしませんでした!


「えへへへぇぇ~、板チョコ~~♪」


 早くお家に帰って食べよう。

 僕は触手で持っていた板チョコを大事に手に持ち替えました。


「~♪ ~♪ ~~♪」


 お肉を獲った所から下に進むと、宝石みたいな石が増えていきます。

 鼻歌混じりで歩き続けると、その石に緑色の髪と自分の顔が映る。


 可愛いんじゃないかな? 可愛いと思う、よく分からない。家族以外の人間の顔なんてほとんど見たことが無いからよく分らない。

 でもこれが、この顔になってからそれなりに時間が経ったけどまだ慣れないや。


 あと、お股がすーすーする。この体にもまだ慣れない。


《振り回すのは止めてくれたけど、画面がゆらゆら・・・うぷっ》

《ダンジョンの中って、こんなに綺麗なんだな》

《こう綺麗だと込み上げてくるものがある》

《俺も胃の中から込み上げてくるものが・・・》

《それ酔っただけ》

《でも確かに、画面がゆらゆらで俺も酔いそう》

《俺達にいつ気付いてくれることやら・・・》

「ん~~??」


 あれ? チョコはすごく甘いって聞いたことがあるんだけど、何の匂いもしない。

 すんすん・・・うん、匂いがしない。


《俺等匂い嗅がれてる?》

《女の子に臭いを嗅がれているかもと思うと・・・》

《興奮する》

《おいwwww》

《声が聞こえるし、女の子だよな? 顔見たい》

《触手モンスターが美少女らしい件》

《それ何てエロゲ?》


「板チョコなのに何の匂いもしない、変なの・・・」


《探索フォンを、板チョコだと思ってたのかっ!?》

《あ、ネネコちゃん最近お菓子とコラボしてるから・・・》

《あぁ、カバーが板チョコデザインなのかっ!》

《この子(?)もしかして探索フォンを知らない?》

《ロリボがいい、守りたくなる・・・人間ならっ!》

《というか、ここまで来たら人間で良いんじゃない?》

《声が可愛い、美少女とみた!》


 僕はさっき捕まえた板チョコを少しかじってみようと思い、顔の前に持ってきた。その時──。


《えっ?》

《えっ?》

《えっ??》

《かわっ!?!?》

《えっ、かわよっ!?》

《えっ⁉》

《えっ、嘘やん!?》

《マジで美少女だっ⁉》

《超美少女っ、しかもMK5(マジでキスする5秒前)!!》

《待ち受けにしました》

《ここダンジョンだよな? なんで子供が??》

《睫毛なっが⁉》

「にゃああぁぁぁっっ!!!!!! 光ったっ⁉!?!?」


 ──ヒュンッ、ガンっ!!





 ドキドキ・・・





 ・・・・・・あっ! びっくりして投げちゃった。






 ・・・ツンツン


 つついても、板チョコは光りませんでした。しかも鉄っぽい何かが見えます。

 ということは、やっぱり食べ物じゃなかった? なんだぁ・・・。


 僕はすごくすごくガッカリしながらお家へ帰りました。


 ◆


 探索者ダイバーネネコが保護された同日、探索者協会では緊急会議が開かれてた。


「日本語を話すモンスターだと?」

「はい。ネネコダイバーが使用していた探索ダイバーフォンが件のモンスターに持ち去られたようで、肉声と、僅かな時間ですが姿を納めた映像が残っています」

「これがその映像か・・・人間のようにも見えるが?」


 会議室プロジェクターには、ミノタウロスが捕らわれる瞬間から至近距離で顔が映ったところまでの映像と写真が映し出されていた。

 最後に映し出された至近距離からの映像を見るに、10歳前後の女の子にしか見えない。


「確かに時折映る触手のようなものが何であるかは不明な為、現状人間に見えなくもないです。ですが此方をご覧下さい」


 切り替わった画面には、流々がミノタウロスにビンタをしている瞬間が映っていた。


「よく見ると、ミノタウロスに攻撃を加えたのは人間の手であることが分かります。この事から、対象は人並外れた力を持っている、もしくは人間の姿をしたモンスターであることが推測されます」

「モンスターは確か・・・」

「はい、通常兵器では例えライフル銃であっても




 ・・・・・・・・・・・・。




 ・・・・・・。




 会議室に流れる長い沈黙。

 ダンジョンが発生して半世紀、初めて確認された知性を持つモンスターの出現。それは敵か味方か。


 特に問題が無ければ対応はゆっくりで構わない、だがそう遠くない内に外国もこの情報を掴み捕獲に乗り出すだろう。人間であれ、モンスターであれ、みすみす渡してやる義理は無い。


 人類初の知性を持ったモンスターの情報、それは今の日本にとって貴重な交渉カードだ。


 日本という小さな島国はこの半世紀で国力が大きく下がった。

『日本は武力を持たない』という精神はダンジョンが出現した今日でも健在であり、その為に日本は少なくない

 モンスターはダンジョンの外に出ることがあり、探索者はそれを駆除するのも仕事だ。だが日本は探索者に対する規制が厳しく、優秀な人材は海外に奪われていった。

 その結果、対応が間に合わずダンジョン周辺に人が住めなくなってしまったのだ。


 もし、この子が人ならば・・・それは国を取り戻す鍵になる。


「・・・まずは接触、可能ならば交渉だ」


 そう決断し、探索者協会は調査隊を編成するのであった。

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