第1章 第4話:俺達がサポート
せっかく他がいなくなったからこの部屋で打ち合わせしましょう。
監督官を務める黒瞳黒髪の青年はそう言うと、エルレアを残してわずかに中座し、小柄な女性を別室から連れて戻ってきた。彼のチーム『
「ずいぶんお堅いのね。そんなに立ててくれなくても、面倒は見るわよ」
女性の方が苦笑した。
故郷のマナーはこの街でもおかしなものではなかったようだが、この場では監督官に
紫色のショートカットが特徴的なこちらの美女は『ヴェガ』と名乗った。トキもヴェガも、外見上はエルレアとそう違わない年齢、つまり
「トキさん、ヴェガさん。エルレアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
人の名前に関する記憶力に自信がなかったエルレアは、きちんと覚えておけるよう、復唱しながら自身も名乗り直した。
トキは、ふたりに着席を促した。自分も椅子を引き、三人で向かい合うように形作る。エルレアはふたりが腰を下ろすのを見届けてから、先程の説明会と同じように、大きな背嚢を膝の前に置いて座った。
それを確認して、トキが話し出す。
「さっきも軽く説明がありましたが、エルレアさんには、これからギルド発注のクエストを受けていただきます。俺達がサポートします。言ってみれば即席の混成パーティーとして一緒に行動するってことですね。その中で適性を見させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
「今期の志望者は少なかったのね。以前は一組で5人とか持たされたりもしたけど」
「春の兵士募集の方に流れたんじゃないかな、大々的にやってたから」
トキとヴェガの会話を聞きながら、自分ひとりに対して経験者ふたりが付いてもらうことに、何か申し訳ないようにも感じたエルレアだった。
そういうことになったのは、自分が他の志望者から見放されて複数名でチームを組むことができなかったからなのだが、それは審査される適性に含まれるのだろうか。付き合うに足る有能さを短時間で示せなかった表れと取られて減点されたかもしれない。即座に失格にはならない、とは言われたが心配ではある。
そんな思惑を知ってか知らずか、トキは言葉をつないだ。
「候補クエストはいくつか用意されています。どれにするかを決めるにあたって、エルレアさんがどんな方なのかを伺えますかね」
話をしっかりと聞いてもらえる今度こそ、自分に何ができるか、きちんと説明しなければ。
◇◇◇
「対魔物の戦闘経験はほぼなし、故郷の森で鹿や野鳥を獲物に狩りをされてきたので弓が引ける、二級相当の医療魔法が一部使える。ありがとうございます、よくわかりました」
まず監督官チームのふたりが、軽く自分たちについて語った。トキが前衛を務める魔法戦士で、ヴェガが補助と攻撃を担う魔導士なのだという。いずれも中級の認定を受け、主に迷宮攻略に取り組んでいる、相当の経験者たちだ。
説明の要領を示してもらえたのは非常に助かった。その後でエルレアも、いくつかの質問に答えながら、彼等を真似て自身の特徴を伝えたのだった。
「カタログスペックは抜群じゃないの。ろくに話も聞かないなんて、他の志望者はずいぶん勿体ないことしたわね。節穴揃いだわ」
ヴェガの呟きに、トキも反応する。
「
「その、火傷痕のせいで疑わしく思われてしまいまして……」
エルレアは左目に指をやった。
彼等はすんなりと信じてくれたのだろうか。
「ああ、古傷は治んないですからね。医療術師はまがい物も結構いるから警戒したのかな。俺達も、自己申告をそのまま真に受けるほどお人好しじゃあないんで、実力は一緒に活動しながら見せてもらいましょう」
「は、はい、がんばります」
あっさりとしたものであった。まずは丁寧に判断しようとしてくれているようだ。
目元の引き攣れた皮膚にふたりが眉を顰める様子などもなく、あからさまに
「この先の目標も、あるなら聞かせていただけます?」
「えっ、目標、ですか……?」
トキからの、やや抽象度を増した問いかけに、エルレアは戸惑った。
一応冒険者の道を志した理由はいくつかあるが、正直なところ大それた目標があるわけではない。何かしらの野心などがなければ、危険の伴う冒険者は務まりえない、などと取られてしまうものなのだろうか。
「あ、あのう……大したものはないのですが……それも適性のひとつなのでしょうか?」
「あー、いえ、将来像を持ってないなら不適格、とかそういう意図ではなくて、今から選ぶクエストも、可能なら方向性を寄せようと思いまして。たとえば希少素材を採りたいとか、狩りたい魔物がいるとか、迷宮を進んで行きたいとか、みたいな話です」
「あっ、なるほど……」
邪推しすぎた……。
クエスト選定において志向に配慮してもらえる、ということか。
「その、あまり具体的な目標はないんですが……金銭収入を得ること、魔物対策の経験を積むこと、このふたつが目的で冒険者になろうと思ったんです」
エルレアの故郷は、物々交換が基本となる、太古から時が止まったかのような森の奥の僻地だったが、それでも近年は行商人や軍隊が訪れるなど世の中の激動と無縁ではいられなくなりつつある。貨幣経済の波は確実に寄せてきていたし、また
つまるところ、時代の流れにふるさとが完全に取り残されてしまわぬように、というのが志望動機である。
「わかりやすくていいじゃない」
話を聞いたヴェガが肯定的な反応を見せる。トキも頷いた。
「じゃあそのへんも参考にしながら、こっちで受注対象を決めさせてもらいます。なにぶん俺達の手に負えるものじゃないといけないんでね。つってもまあ、候補クエストの難易度はどれも大差なくて、成功報酬もドングリな金銭です」
「えっ、
エルレアは驚いた。都会では珍しいのだろうか。故郷の森では沢山転がっている。だったら
「おっと、失礼。ドングリの背比べ、つまりどのクエストも大差ないという意味です。報酬は貨幣で支払われますよ」
「あっ、あっ、あっ、そうでしたか……」
「クドい割に妙に雑に話すとこあるのよね、この人」
言葉を足したトキを見ながら、横でヴェガがクスクスと笑っている。
山奥の田舎者の
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