第1章 第2話:実施事項のご案内
建物一階後方の一室に通されたのは、エルレアを入れて十一名だった。
事務方の男性の誘導に従い、横に数列ならんだ簡素な椅子に腰掛ける一同。奥の端に位置することになったエルレアの隣には、何事かを話しながら二人組の男性が座った。会釈したエルレアだったが、彼等は一瞥をくれたのみで自分たちの会話に戻った。
ただ、気まずさを感じる間もなく、前に立った事務職員が口を開いた。
「本ギルドへの新規冒険者登録にお申し込みいただき、ありがとうございます。要綱にも案内しておりますとおり、これから皆様には『監督官』チームの同行のもと、ギルド発注のクエストを受けていただきます」
◇◇◇
冒険者ギルドには様々な依頼、すなわちクエストが集まってくる。素材集め、魔物退治、配達、探索、その他諸々。街の市民からの依頼もあれば、権力者からのものもある。迷宮に潜る場合もあれば、郊外に足を伸ばすこともある。いずれにもおおよそ共通しているのは、なんらかの危険か苦難を伴うものだというところである。そうでなければもっと安価で手軽に身近で片付くからだ。
ベテランであろうとも、冒険者は容易に危地に晒される。いわんや適性を欠く者をや。しかしながら、受注した冒険者に容易に死んだりされては、依頼を出す者も尻込みしてしまうのだ。寝覚めが悪いという類の問題ではなくて、せっかく手数料を払って仕事を頼んだのに受注後一向に報告のひとつもない、というようなケースが常態化してしまうと、発注するだけ損だと思われてしまうのである。
そういうわけで、冒険者ギルドからすると、自分たちのところに集まってくる依頼を個々の冒険者に任せるには、一定の
蛇の道は蛇と言う。
その習いに従って、ここザバンでは、ギルドの委託を受けた経験者チームが同行するクエストを通じて、各志望者の冒険者としての適性を審査していた。またこれは同時に志望者の安全を最低限担保する意味合いもある。右も左もわからないまま危険地帯に踏み込んで命を落としたり、クエストの成功条件や必要な手続きが理解できずに報酬をもらいそこねる、というような事態を避けやすくなるため、入門者にとってもメリットのある仕組みになっているのだった。
男性事務官はこのような内容を、もう少しオブラートに包みながら案内した。
エルレアは真面目に聞いていたが、貧乏揺すりを見せる者もいたし、退屈そうに欠伸を噛み締めている者も伺えた。冒険者のごときやくざな稼業を志す者には、この手の堅い説明が苦手な性向が強いのかもしれない。
「まだるっこしい話はともかくよお。要するに、監督官サンと一緒に、決められたクエストをクリアすりゃあいいってことだろ?」
ひとりの志望者が辛抱しきれない様子で声をあげた。
それはあらためて要約しなくても冒頭でそのまま言っていたように思うけれど……。エルレアは内心首をかしげた。
「審査結果はまた別ですが、これからやっていただくことはそのとおりです」
男性事務官の方は慣れた様子である。
――審査結果はまた別
むむむ、クエストが成功しても、それが即座に冒険者としての適格性証明にはならないということなんだ。
理解したと感じた前提についても、質問する価値がある場合があるのだとエルレアは学んだ気がした。
「では前置きはここまでとして、実施事項のご案内に移りますね」
同行する監督官は、いずれも一定以上の経験を積んだ冒険者たちであるという。部屋の横に男女ふたりずつが立っている。彼等は各チームの代表者である、と前に立つ男性事務官が説明した。
……志望者は11人で、互いに初顔合わせのひとが多いようだけれど、監督官となるチームは四組、ということなのかしら?
疑問が浮かんだエルレアは、男性事務官の次の言葉に戦慄した。
「それでは皆様。監督官を割り当てるにあたって、三、四人を目安にクエストに共同で当たるグループを組んでいただけますでしょうか」
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