無明世界

 威志の後ろ姿を見つける。酷くか細いその背中に、サナの不安は増した。

 サナの気配に気づいたのか、威志が振り向きほのかな笑みを浮かべた。


「良かった。出たはいいものの、君がいないと世界を移動出来ないからね」

「あんたねえ」


 サナは呆れたが、同時に安心もした。ちゃんと話せる。目も、あんな深淵のような空虚さはない。

 威志は、どこか眩しそうに目を細めサナを見つめていた。


「君の世界、第四世界『宝玉世界』だっけ?」

「そうよ」

「僕の世界は、何て呼ばれてるの?」

「あんたの世界は、第九世界。名無しの『無名世界』よ。寄る辺となる力のない世界と言われているわ」

「なるほど。たしかに君たちみたいな力なんて、漫画か映画とかでしか見たことがない」


 だけど、と威志は続ける。


「もし僕みたいなのが魔王だというなら、僕らの世界は」


 威志はわらった。


「『無名世界』ではなく『無明世界』と呼ぶべきかもね」


 死衣の瞳を連想させる、底のない穴のような昏い笑みで、威志はつぶやいた。


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九柱の魔女に僕は殺される 青村司 @mytad

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