不発弾

 篠村孝太郎は全てを自供した。

「南洲一族の縄墨に従い、不道には死を以て償わせなければならない。南洲守弘、いや、古城守弘を我々の手で葬るのだ――と言い張ったのは隆也さんでした。ですが、全てを計画し、裏で糸を引いていたのは健文さんだったと思います。

 隆也さんは南洲一族の縄墨を盾に、一族の結束を訴え、守弘さんの殺害を強要しました。私は・・・私は嫌だったのです。だって、守弘さんは私の義理の弟です。家内が悲しむ顔は見たくなかった。ですが、この誘いを断れば、私が一族の裏切り者となってしまいます。

 正直、隆也さんを恨みました。守弘さんが則天さんを事故に見せかけて殺したなど、信じられませんでした。守弘さんは、とてもそんなことが出来るような人ではなかったからです。ですが、ですが・・・私には選択の余地などありませんでした」

 取調室で篠村はがっくりと首を折ると、そう言って崩れ落ちた。篠村の自供が始まった。

「健文さんは『守弘さんに関する情報を全て教えて欲しい。彼に関して知っていることは、漏らさず教えてください。大丈夫。心配には及びません。私が絶対にバレない計画を練り上げてみせます』と自信満々に言いました。

 そこで、守弘さんに関して、私が知っている全てを教えました。ええ、斎藤淳史のこともです。彼が会社を辞めてからも、私だけは連絡を取り合っていることを伝えました。私が彼と守弘さんを繋ぐ最後に残されたパイプだったのです。

 健文さんが会いたいと言うので、斎藤と連絡を取りました。二人は会って話をしたはずです。はい。私は同席していません」

 やはり、篠村が石川と斎藤の橋渡しを勤めたのだ。斎藤から話を聞き、防犯システムに仕掛けられたバックドアのことを知った石川は守弘殺害計画を練り上げた。

 石川は斎藤に報酬を支払うことを約束し、隠れ家を提供することも約束したようだ。隠れ家の手配は篠村に頼み、篠村の妻の浅子に知られることになる。

「決行の日は則天さんの四十九日に決まりました。もともと家内はあまり法事に出たがっていませんでした。それでも義理の妹です。四十九日となれば、出席すると言い出しかねません。家内がいるとまずい。何と言って法事に出させないか、悩みました。

 守弘さんを殺害するのは、全てが終わった後、土曜日の夜だと決まっていましたので、最悪、家内だけでも先に帰らせようと思っていました。前日になって、娘が熱を出してくれたので、家内は法事に出ないことになりました。助かりました」

 篠村にとっては、守弘殺害より頭の痛い出来事だったようだ。

 そして、事件当夜、法事を終え、参列者が帰宅の途につき、一族の人間は、リビングに集まった。リビングにいたのは、石川健文、南洲隆也、篠村孝太郎、渡会益男、渡会和美の五人だった。

「ああ~疲れたと守弘さんがソファーに腰を掛け、和美さんがコーヒーでも煎れましょうと立ち上がりました。隆也さんは、『わしはビールの方が良い』と声をかけ、和美さんがリビングを出て行きました。そして、守弘さんが油断した隙をついて、背後に回った健文さんと隆也さんの二人が守弘さんに襲い掛かりました。二人は守弘さんの首にロープを二重、三重に巻き付けると、左右に分かれて、思いっきりロープを引っ張りました。驚いたのは益男さんの行動でした。彼は一族の人間でもないのに、この殺人計画に乗り気だったようで、暴れる守弘さんの体を押さえ付けていました。

 血は繋がっていないとは言え、守弘さんは私の義理の弟です。守弘さんを殺すのに手を貸すことなんてできませんでした。私は部屋の隅で震えながら、一部始終を見守っていただけです。

 健文さんと隆也さんが左右からロープを引っ張ります。益男さんが守弘さんの体を押さえ付けます。随分、長く感じましたが、数分のことだったと思います。電池の切れたロボットの玩具のように、守弘さんは急にぱったりと動かなくなりました。

 全てが終わってから、守弘さんの死体を健文さんの車のトランクに運びました。大丈夫。全ては明日だ。明日、全て片付く――健文さんはそう言いました。

 私が知っているのは、それだけです。後は月曜日の朝、普段通り出社し、社長室で冷たくなった守弘さんの死体を発見するのが私の役目でした。正直、もう二度と、守弘さんの死体は見たくありませんでした。月曜日の朝が来るのが嫌で、嫌で、日曜日はため息ばかりついていました」

 篠村の供述の後、渡会益男、和美夫妻からの取り調べが始まっていた。

 益男は「守弘さんの体を押さえ付けたのは、篠村さんです。僕は一族の人間ではありませんから。部屋の隅で震えていました」と篠村の証言を否定している。

 首を絞めたのは石川と隆也だと、殺害の状況は概ね篠村の供述通りだった。

 篠村も渡会夫婦も、南洲一族の縄墨――を殺害の動機だと答えているが、時代錯誤な掟が殺人の動機であったとは考えにくい。

 犯行が成功し、石川健文が無事、南洲家の当主となった暁には、それ相応の報酬を支払うことを約束していた形跡があった。

――その為には、隆也さんに生きていてもらっては困る。

 と石川が考えていたであろうことは間違いない。

 則天亡き後、南洲隆也は南洲家第九代目当主になることに前向きだった。

「わし以外、他に誰がいる⁉」と隆也は法事の席で言い放った。それを石川は苦笑いを浮かべながら聞いていた。

 隆也を縁側に呼び出し、篠村は「若い健文さんに当主の座を継いでもらってはどうでしょうか?」と説得を試みた。すると、隆也は「健文?あいつはダメだ」と答えた。

「何故です? 健文さんだと若すぎるからですか? でも、則天さんだって若かった。それに、健文さんなら南洲本家と元石川の両方の血を引いています。南洲家当主として相応しいのではありませんか?」

 篠村が言うと、隆也は吐き捨てるように言った。「南洲本家と元石川の両方の血を引いている――⁉ お前は何も知らんのだ! あいつの体には、南洲家の血なんぞ一滴も流れておらん‼」

「えっ! どういう意味です? 健文さんは一族の人間ではないと言うことですか?」

「そうだ。あいつは不義の子じゃ!」

 石川健文の母親、亜理紗が浮気をして出来た子が健文だと言うのだ。健文の父、博文は都内に働きに出て、社内結婚をした。亜理紗は一族の人間ではない。その亜理紗が何処の誰とも分からない男の子供を妊娠し、生まれたのが健文だと隆也は言うのだ。

「そ、そんな!」篠村は驚いた。

「ふん。この事実を知っておるのも、もう、わしだけになってしまった。丁度、良い機会だから、お前に話しておく。とにかく、わしの眼が黒い内は、健文なんぞを南洲家の当主になんか、させるか!」隆也が息巻いた。

「健文さんは、そのことを知っているのでしょうか?」

「あいつが知っているかどうかまでは知らん!」隆也は吐き捨てた。

 結局、篠村は石川に出生の秘密を確認することができなかった。だが、石川は知っていたのではないかと篠村は言う。だから、南洲家の当主になる為に、ことを急いでいたように思う――篠村はそう言った。

 石川山が宝の山であったことも知らなかった。「えっ! あの山が宝の山⁉ インジウム? レアメタルの一種なのですか? へえ~そりゃあ、凄い。あの山は則天さんが所有する山でしたから、当然、法的には夫であった守弘君のものと言うことになりますよね? 守弘君が亡くなった今、たった一人の肉親である浅子のものになったと言うことですよね? 刑事さん、違いますか?」

 篠村は興奮した。石川は石川山にレアメタルが眠っていることを、一族の人間には教えていなかった。南洲家の当主となって、鉱山を独占するつもりだったのだ。だから、気前よく、一族の人間に守弘殺害の報酬を支払うことを約束していたのだ。


 二人は一旦、青梅署に戻り、日が暮れてから、青梅署の刑事の車で石川村の途中まで送ってもらった。青梅街道から川沿いの道に入り、石川村へ向かう分かれ道で車を降りた。そこからは徒歩だ。二、三キロ、あるだろう。

「ダメだ。灯りは点けるな」と祓川が言うので、月明かりを頼りに田舎道をとぼとぼと歩いた。暗くて足元がよく見えない。宮川は一度、足を踏み外して田圃の中にひっくり返った。幸い、刈り入れの終わった田圃だ。肘を擦りむいただけだった。

 二人が向かっているのは、石川の実家だった。

「動くとしたら今晩だ。やつの尻尾を捕まえるぞ!」

 祓川は石川が実家に隠した南洲隆也の遺体を、今晩中に移動させると見ていた。その決定的瞬間を押さえるつもりだった。

 その為には見張られていることを悟られてはならない。実家の近くに見慣れる車が停まっていれば、疑うに決まっている。だからこうして、灯りも持たずに夜道を歩いているのだ。

 暗闇の中、祓川はすたすたと歩いて行く。(この人はフクロウか――⁉)と思わずにはいられなかった。

 石川の実家は石川村の外れといえる場所にある。村で最も奥まった場所だ。山際が押し寄せて来ている為、僅かに開けた門前に猫の額程度の畑があるだけだ。三方を山に囲まれた不毛の地といえた。石川家の村での地位の低さを表しているようだ。

 灯りも無しに闇夜を歩くのだ。どうしても歩みが遅くなる。一時間近く歩き続けたはずだ。薄く汗をかき始めた頃、「見えたぞ」と祓川が言った。だが、宮川には暗闇しか見えなかった。

「あそこだ」と指差すのだが、祓川が何処を指差してさしているのか分からなかった。

「灯りがついているようだ」と言うので、やっと石川家の場所が分かった。周囲に板塀が張り巡らされている。板塀の隙間から微かに灯りが漏れていた。

 誰かいる。祓川の感が的中した。石川が実家に戻って来ている。

 二人は足音を忍ばせながら石川家に近づいた。

 庭木の枝に懐中電灯を吊るして、石川はスコップで地面を掘っていた。身だしなみの良い石川がシャツ一枚になって、大粒の汗を浮かべながらスコップを振るっていた。足元には既に黒々とした穴が広がっていた。結構な時間、ここで作業をしていたことを物語っていた。

 祓川と宮川が近づいて来ていることに、まるで気がついていなかった。

 どうやら南洲隆也の遺体は庭に埋められているようだ。遺体を掘り起し、今晩中にどこか別の場所に移動させようとしているのだ。

 決定的な瞬間といえた。

 自分の実家なら、誰かが勝手に掘り起こすことなどない。誰も住んでいなくても、勝手に売り払ったりできない。遺体を埋めるのに最適な場所だった。だが、家宅捜索が行われると、庭に埋めた遺体を見つけられてしまうかもしれない。

 遺体を移動させるなら、今晩中だ。

 石川は焦っていた。遺体を埋めた場所をはっきりと覚えていない様子だった。カンとスコップが鳴った。何か固いものに当たった。土に埋もれていてよく分からないが、金属のようだ。

 何だろうと思ったのか、石川はスコップの先で、カンカンと二、三度、強く叩いた。

 と、次の瞬間、「どおおおおお―――ん!」と物凄い音がした。地面が震えた。目もくらむ閃光が、辺りを昼間のように照らした。

 石川の姿はあっという間に閃光に飲み込まれた。

 土砂を巻き上げながら、猛烈な風が吹きつけて来た。石川家に忍び寄っていた祓川と宮川は、強力な力で引っ張られるかのように、後ろ向きに吹っ飛んだ。そして、稲刈りの終わった田圃にゴロゴロと転がった。

(何だ――⁉ 何だ――⁉ 何がおきたんだ――⁉)宮川は意識を失った。


 まる一日、入院させられた。

 石川健文は実家の庭に埋めてあった南洲隆也の遺体を掘り起こそうとして、不発弾を掘り起こしてしまったようだった。

 運悪く、石川の振るったスコップが不発弾に命中した。不発弾は爆発し、石川は粉微塵になって吹き飛んだ。爆死だ。肉片となった石川の遺体に混じって、爆心地の地中から、別人のものと思われる遺体の一部が発見された。

 地中に埋まっていたことにより、遺体の一部は爆発の影響を免れていた。

 検死の結果、遺体のDNAが南洲隆也のものと一致した。遺体の損傷が激しかった為、死因の特定は困難であったが、庭に埋められていた以上、他殺と考えられた。

 石川健文に殺害されたのだ。

 石川家の近くまで忍び寄っていた祓川と宮川の二人は爆風に巻き込まれたが、擦り傷と打撲を負っただけだった。

 それでも、大事を取って一日、入院させられた。

 退院後は、斎藤、篠村、渡会夫婦の取り調べを抱える武蔵野署は人出が足りなくなり、宮川は祓川の相棒の任を解かれた。

 今は武蔵野署で斎藤の取り調べの書記を勤めている。

 石川健文が不発弾で爆死し、しかも、実家の庭から南洲隆也の遺体の一部が見つかったことは、篠村や渡会夫婦にとって、かなりショッキングな出来事だったようだ。

「隆也さんは生きていて、何処かに身を隠しているのだと思っていました。実際、健文さんがそんなことを言っていましたし・・・」と言って、篠村は顔をしかめた。

 どうだろう。篠村は南洲隆也が死んでいたことが分かっていたのではないだろうか。

「石川山にレアメタルが眠っているなんて、健文さんは一言も言わなかった」

 渡会和美はそのことの方がショックだったようで、「騙された。あの人に騙されていた。私たちは、あの人に利用されていただけなのです。何も知らなかったのです」と無罪を出張した。

 和美はともかく、夫の益男が南洲守弘の殺害に手を貸したことは間違いないようだ。篠村も渡会夫婦も、石川からかなりの金銭を受け取る約束になっていた。石川はサラリーマンを辞めたばかりだった。その金の出元がどこなのか、考えなかったのだろうか。

 一週間後、鈴木から「青梅署に行って祓川さんに会ってこい。こちらの捜査状況を伝えて、南洲聡美さんの転落事故について、何か進展がないか尋ねて来い」と言われた。

 祓川とは退院以来、顔を会わせていない。世話になった祓川に、きちんと礼を伝えてこいということだろう。

 宮川は青梅署に向かった。

 祓川は席にいた。「祓川さん!お久しぶりです」と満面の笑顔で挨拶すると、「何をしにきた?」とつれない返事だった。

「はい。こちらの捜査状況をお伝えして、南洲則天さんの転落事故について、進展があったかどうか尋ねて来いと指示されて来ました」

「南洲則天の転落事故については、則天、守弘、石川と関係者が全員、死亡している。状況から見て、則天が守弘を殺害する為に別荘に誘ったようだが、犯行に及ぶ寸前、守弘に悟られ、逆にベランダから突き落とされたと見て間違いないだろう。だが、証拠はない」

「そうですよね~」宮川が祓川に会う為の口実に過ぎない。事故に進展がないことは分かっていた。

「まあ、そこに座れ」と宮川を隣の開いた席に座らせると、「そちらの捜査状況を聞こうか」と祓川が言う。宮川は、斎藤、篠村、渡会夫婦から聴取した内容を残らず話した。

 祓川は最後まで黙って宮川の報告を聞いていた。

 そして、「分かった。うん。上出来だ」と満足そうに頷いた。短い間だったが、祓川は若い宮川を一人前の刑事に育てようと、教育していたのかもしれない。

「祓川さん。ひとつ良いですか?」

「何だ?」

「祓川さんは、最初から石川健文のことを疑っていましたよね? 何故です? 石川が、南洲守弘さんが社長室で絞殺されたことを知っていたからですか? でも、それは遺体の第一発見者だった篠村と知り合いだったことが分かった時点で、石川を疑う理由にはならなかったと思います」

 それに答えて祓川が言う。「確かに、警察が公表していないのに、石川は南洲守弘が社長室で絞殺されたことを知っていた。犯人でなければ知り得ないことだ。怪しいと思った。その後、遺体の第一発見者の篠村と知り合いだということが分かり、その疑いは晴れたように思った。だがな、もうひとつ、変だと思ったことがあった。あいつが言ったことではなく、動作だ。

 南洲守弘が絞め殺されたと言った時、一瞬だがやつは妙な動作をした。あいつ、両手でロープを引っ張る動作をしたのだ。普通、人を絞め殺す動作を演じて見せる際、お前ならどうする?」

 祓川の質問に、「そうですねえ~」と考えた後、宮川は両手のひらを上に向け拳を握って、左右に広げる動作をしてみせた。

「そうだ。普通はそうだ。今、お前がやった動作でなければ、両手のひらを下に向けて、左右に広げる動作になるだろう。

 まあ、両手を交差させる奴もいるかもしれないが、大体、そんな動作だ。だが、石川は違った。あいつ、綱引きのように左右の手のひらを上と下に向けて拳をつくり、引っ張る動作をしたのだ。

 そんな動作をするやつがいるか――⁉ 変だ。やつは南洲守弘がどうやって殺害されたのか、正確に知っていた。だから、無意識にそれが出てしまったのだ。だからこそ、石川の仕業だと確信することが出来た」

 一瞬の動作だった。宮川は一緒にいたが、石川の動作に気がついていなかった。事情聴取の間、祓川は石川の一挙手一投足を観察していたのだ。

「ロープの長さを覚えているか?」

「はい。長いロープでしたね」

「そうだ!」と祓川が大声を上げたので、宮川はびくりと体を震わせた。「やつの動作を見ていたので、あのロープを見た時、南洲氏がどうやって殺害されたのか分かった。やつらは南洲氏の首にロープを巻くと、運動会の綱引きの要領で左右から引っ張って殺害したのだ。中国にはそういう処刑法があると聞く。中国かぶれのあいつらだ。その処刑法を知っていたのだろう。だから、うっかり、あんな動作をしてしまったのだ」

「ははあ~」と感心するしかない。

「ああ、それに石川和正について調べてみた。南洲家は石川和正の次男、康勝の子孫だと言っていたが、康勝は大坂夏の陣で死亡している。そのことは石川健文も言っていたが、康勝に子供がいたという記録はない。石川家は信州の安曇に領地を持っていて、徳川幕府に改易されてから、康勝は長兄の康長と共に豊後の佐伯にいた。仮に子供がいたとしたら、信州が豊後にいたはずだ。康勝の子が奥多摩に流れて来て、定住したとは思えない。眉唾だな」

「石川和正の子孫ではなかった訳ですか」

 祓川はあらゆることを調べていた。

「石川という姓だったので、勝手に石川和正の子孫を詐称したのだろう。ああ、もうひとつ。鷲尾さんから連絡があった。石川山の調査が終わったそうだ。生憎、インジウムの埋蔵量は期待したほどではなかったそうだ」

「そうなのですか!」

「商業ベースには乗りそうもないという話だった。石川山は宝の山ではなかったと言うことだ。鷲尾教授も不思議がっていた。石川が持ち込んだ鉱石は間違いなく本物だった。何故、あの鉱石にだけ、あれだけ多量のインジウムが含まれていたのだろう?――とな」

「オカルティックな考えかもしれませんが、石川は隆也さんを自らの手で殺してしまった。隆也さんは南洲一族の人間です。宝の山の存在を隠していたりして、一族の人間に嘘をついてもいました。幾重にも『南洲家の縄墨』を犯していたことになります。

 一族の人間でもない石川が、一族の者を騙し、殺害した。石川は南洲家の縄墨にある『不道には死を以て償うべし』という掟に従って、南洲一族の先祖の霊により、不発弾で爆死させられてしまったのかもしれませんね。

 守弘さんもそうです。則天さんを事故に見せかけて殺してしまった。だから、インジウムの鉱石を石川に与えて、守弘さんを殺害させた。南洲一族の先祖の霊が、石川と守弘さんを操って、南洲一族の名誉を、縄墨を守った――そんな気がします」

「くだらん!」と一喝されるかと思ったが、祓川は何も言わなかった。

 祓川は腕組みしたままだった。宮川には祓川が微かに頷いたように見えた。


 数か月後、宮川は風の噂に、祓川が青梅署から異動になったことを聞いた。


                                   了

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南洲一族の縄墨 西季幽司 @yuji_nishiki

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