第10話 狙われた四神

 四神も公達も酔っ払い、収集がつかなくなりかけたところで、羽邏うらが彼らに向かい、両手をかざした。


「……」


 すっかり目の据わった、七人――。羽邏が首を傾げ、「麒麟きりんさんは、ちょっと……」と、うわばみの彼だけ酔っぱらい集団から外した。改めて、酔いどれの六人に向け、両手を翳す。


凰和おうわ!」


 羽邏は、あらゆる病や怪我を治す力に長けている。当然、酔っぱらいから酒を引かせることも可能で、瞬時に六人はシラフに戻った。


「あの、羽邏さん、どうしておれだけ……」


「あ、そうだ、皆さん。随分騒ぎ散らかしてしまいましたから、店主や他のお客さん達にちゃんと謝ってくださいね」


 麒麟の追及を素知らぬ顔でかわす、羽邏。


「うるせえなぁ。……まあ、公達よっぱらい共が騒いで悪かったなぁ」


「うなぎ、美味しかったわぁ! また食べに来るわねぇ!」


「そうじゃのぅ。次は我が主殿も連れて参ろうぞ」

 

 牙琥がくを先頭に、愛染あいぜん麗清れいしんが店を後にする。


「よもや四神と酒を酌み交わすことになるとはのう。まあ、れもれも、異世界間交流くろすおーばーサマサマよ」


 続いて満仲みつなかが店を出ていく。その後から、「っふ。貴殿ならば、この四神らも使役出来よう?」と水影みなかげが挑発する。


斯様かようにもうるさい四神など、まっぴら御免じゃ!」と満仲が嫌味宜しく声を張る。


「店主よ、ここに金子きんすを置いておくぞ。これで足りなければ、後日春日の屋敷に取りに参られよ」


 安孫あそんが麻袋一杯に入った金を置き、「愉しい時間であった。感謝する」と笑って店を出ていった。


 最後に残ったのは、羽邏と麒麟。


「……おれも一応、たらふく酒を飲んだんですが……」


 自分だけ「凰和」をかけてもらえなかったことに、麒麟は納得できなかった。


「いや、その必要はないかなって」


「な、なんでっ? おれだって酔ってるよ……?」


「麒麟さんは、そういう次元じゃないというか、もはや化物バケモノというか……」


「いやいや、化物って! 神に化物なんて言われたら、おれも地味に傷つくというか……! おれにも『凰和』してよ! おれも酔っ払ってるからさぁ……!」


「――ほぅら、うー君! 置いてくわよぉ〜?」


 店先から愛染の呼ぶ声がして、「はーい」と羽邏がピヨピヨと駆けていく。


 一人店内に残された、麒麟。パチパチパチと瞬きをした後――。


「……お、おれにも『凰和』してよぉ! うー君!!!」


 密かに摩訶不思議な術に憧れる麒麟。しかし、うわばみの彼にその術は必要ない――。そう四神による確かな判断により、今回はお預けを食らう羽目となった。


 

 ヘイアン公達による、都案内が続く中、不穏なやからの集団が四神の後を追う。


「……おい麗清」


「分かっておるぞよ。五人……いや、八人じゃな?」


「ふん。さっさと蹴散らせて、終わりにしてやろう……!」


 怒髪天を衝く勢いで、牙琥が掌で放電する。


「待つのじゃ、牙琥。ここは攞新らしんの世ではないゆえな、あまり事を大きくしては、あの者らの評判にも関わってくる。あくまで冷静に、のぅ」


「っち! わぁってるよぉ!」


 旨いメシと酒にありつけた恩もあり、牙琥が静観の姿勢を見せる。


 先頭を行く満仲と安孫もまた、同じく不穏な輩の存在に気が付いていた。


「見よ、安孫のすけ。わし合印あいいんじゃ。院の残党による『美麗狩り』じゃのう。未だにあのガキを崇拝する者共がおるなど、胸糞この上ないのう?」


「……狙いは四神の方々か」


「そうじゃろうのう。さて、如何いかにしてかたを付けようか」


 ニッと口角を上げた満仲に、太刀を握る安孫が言う。


それがし彼奴きゃつらを引きつけよう。御前おまえ方々かたがたを連れ、不動院の屋敷に向かえ」


「合点承知のすけじゃ。よし、参るぞ……!」


 その合図で、颯爽と安孫が後方へと駆け出した。


「え? なぁに? どうしたの、安孫ちゃん……!?」


「奴ならば案ずることはない! 皆の者、わしについて参れ!」


 満仲に急き立てられ、事情を察している水影と麒麟が四神を走らせる。


「ピュアアアア」


 先導する満仲に続く四神と、その後ろを走る麒麟。そして、安孫の加勢のために残る水影。


「あいつらだけで大丈夫なのかぁ? 不仲なんじゃねえのかよぉ?」


 走りながら牙琥が訊ねるも、数人の輩と対峙する二人の姿に、麒麟が笑みを浮かべて言う。


「大丈夫ですよ。なんたってあの御二人は、主上しゅじょう瑞獣ずいじゅうきっての強者つわものすぐれた知恵を持つ鳳凰と、武功名高き九尾の狐なんですから!」


「瑞獣だとぉ……?」


 その言葉に牙琥は立ち止まった。輩と一戦交える二人に向かい、きっと振り返った。














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