第5話 四神と愉快なヘイアン公達
「――くろすおーばー?」
聞き慣れない言葉に、
「ああ。何でもこの世には、似て非なる別の世が存在しておるようで、たまに
「コイツの言うことなんて真剣に聞いちゃダメよ、麒麟。それよりも、本当に神様だなんて、信じられないわ? えっと……」
「ああ。こちらも自己紹介せねばなるまいな。わらわこそ四神は東の守護者――青龍。名を
麗清に微笑まれ、麒麟はドキリとした。
「俺と同じ麒麟が
麒麟もまた頬を掻きながら笑った。その表情に、何故だか四人は心が絆されていく感覚がした。
「そうして隣におるのが……」
「ちぃ! 面倒臭ぇったらねえなぁ! 俺は四神は西方を守護する白虎の
「はぁい! 私は北方の守護者――玄武の
苛立つ牙琥の威勢を遮り、愛染が可愛くウィンクして見せた。
「同じく僕は南方の守護者――朱雀は
「ああん? 誰が人畜有害の神だコラァ!」
「そうよぉ、うー君。私まで有害神扱いするなんて酷いんだからぁ」
「羽邏よ、今回ばかりは
三神に凄まれ、「ピョアアアッ」と羽邏が震え上がる。ポンッと
「おおいコラァ! 逃げんじゃねえぞ、クソガキィ……!」
「ピ、ピエェェ……!」
南方位へと逃げて行く羽邏。「はああ」と麗清が溜息を吐いた。
「あいすまぬのぅ、陰陽師殿。羽邏はまだ子どもゆえ、非礼を許して欲しい」
「別に気にしてはおらぬが。されど、こちらが世の四神とそなたらが入れ替わったとあらば、そちらが世の情勢も乱れよう。……いや、
満仲は使役する四神が、攞新国でも上手く立ち回っているであろうことを信じて、笑った。
「まあ、折角の機会じゃ。存分にこちらが世――ヘイアンの都を愉しむが良い」
◇◇◇
「――ピェ……。どうしよう、勢いで逃げちゃったけど、戻ったら絶対牙琥さんに怒られるしなぁ……」
南方の森へと向かい、飛んでいた羽邏。神々しい鳥に向かい、一本の矢が放たれた。
「……え?」
一瞬の判断が遅れた羽邏――。
煌々と燃えるような、朱色と鈍く輝く金色の羽毛に覆われた体躯。壮美な鳥がドサッと地面に落ちてきたところに、一人の狩装束姿の公達が現れた。
「ううむ? これは鷹ではありませぬな」
「どうされたのです、
茂みの影から姿を現した、同じく狩装束姿の公達。
「おや? この姿、まさか鳳凰では?」
「
「はあ? 何を仰せか、安孫殿。私はこうして貴殿の目の前におるではありませぬか。その
「は、はあ。されど鷹狩で鳳凰を討ち取ってしまうとは、縁起が悪うございまするなぁ」
いやはやと、安孫が頬に冷や汗を流す。
「まぁ、呪われるとあらば、貴殿だけにございましょうが。……はあ。
「ははは。いやはや、参りましたなぁ。呪われては、春日家に災いが降りかかりまする。それよりも先に、まんちゅうに申して、この鳳凰殿を弔ってもらわねば」
二人の公達が話していたところに、バサバサと羽ばたき始めた大きな鳥――羽邏が飛び立とうとして、その場に倒れた。
「おおお? 鳳凰殿? 生きておいでか?」
慌てて問いかけた安孫の様子に、羽邏が少年の姿に戻った。
「こ、これは、人の御姿であったか、鳳凰殿……!」
「
水影の冷静な問いかけに、羽邏は矢で射られた腹部を押さえながら、言った。
「……僕は、
弱々しい声に、二人の公達は顔を見合わせた。水影は懐から手ぬぐいを取ると、それで羽邏の腹部を圧迫し、止血した。
「あの、僕なら大丈夫、ですよ。ちゃんと自分で治せますから……」
羽邏が「
「貴殿の申す通りならば、左様な事も出来よう。されど、
見目麗しい公達の微笑みに、羽邏は面食らった。
「――どうやら、矢は
「うむむ。別に呪い殺されることに恐れはないが……」
水影に
「ご無事で何よりにございまする、羽邏殿。
「あ、あたまを上げてください、春日さん! 僕なら大丈夫ですから!」
誠意を示す安孫に、羽邏がブンブンと首を振る。
ピ、ピエ……と可愛らしく鳴く少年に、二人の公達が優美に笑った。
「わわわ! 四神にも劣らない、見目麗しい方々ですね……」
その時、ぐうううう、と羽邏の腹の虫が鳴った。
「おやまぁ。腹が空いた音がした。お詫びに
「い、いえ、僕は……!」
「遠慮することはない。何をどれだけ食そうが、すべてこの日の本一の武人、春日安孫が払うでな」
「えっ? 水影殿はっ?」
「私もご馳走になりまする、安孫殿」
「ええ? 貴殿こそ名門三条家の公達では?」
「
「うむむ……」
どこまでも上から物を言う水影と、反論するに弱い安孫。
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