第4話 四神と異世界間交流

「――は? え? なんじゃ? そなたら一体、何処いずこから参った?」


 満仲みつなか狼狽ろうばいぶりに、四人の麗しき男女は、逆に冷静さを取り戻した。


「うるせえなぁ! てめえこそ何者なにもんだぁ?」


 白銀色の髪。麻で覆われた衣服を纏う、筋肉質の男が唸るような声で問う。


「質問をしておるのはこっちじゃぞ! ……ったく、まあ良い。どうせ良からぬことに違いないからのう。此処ここはわしから名乗ろう。わしはヘイアンの都を護る、最強の陰陽師・不動院満仲じゃ。隣におるのが、わしの第八妾だいはちめかけももじゃ」


「誰が第八妾よ! アンタの妾になった覚えなんてないわよ! ……って、ごめんなさい。たぶんきっと、コイツのせいでアンタ達はここにいると思うわ。ほんと、なんかごめんね」


 うちの自惚あほうれが……、と桃の心の声が何故か四人には伝わってきた。


「ふん! わしは何もしておらぬ! こやつらが勝手に出て参ったのじゃろう?」


 ぷいっと満仲がそっぽを向いた先では――。


「うふふ。可愛いわぁ? 桃ちゃん。ねぇ、今晩、私とイイコトしましょ?」


 妖艶にうねる長い黒髪の美女が、桃の細い腕をぎゅっと握る。


「え? 何言って……」


「これ愛染あいぜんや、娘が戸惑っておるではないかえ。のぅ、娘や。わらわも交ざるゆえ、三人でたのしもうではないか」


 愛染と呼ばれた美女の反対側で、紺碧色の髪を一つに高く結っている、中性的で美しい顔立ちの女性が桃の腕を取る。


「は? え? どういう状況?」


 混乱する桃に、三本ぞれぞれの長さでアホ毛が立つ少年が、哀れみの目を向けた。


「ああ、可哀想に、桃さん。あの御二方に気に入られては、もう逃げられませんね……」


「たくっ、麗清れいしんまで一緒になって、なぁにやってやがるんだ」


「あれ? 牙琥がくさん、ちょっと楽しんでません?」


「ああっ? なぁに言ってやがんだぁ! クソガキィ!」


「ピョアアアッ! 何でもないでちゅ!」


 四人の男女が好き勝手話すのを、やれやれと満仲が溜息を吐く。


「もう良いか? こちらに話を戻すぞ。あの縁側に立っておるのが、麒麟きりんじゃ」


「麒麟っ……だと!?」


 何故か四人が一斉に慌て始めた。それから麒麟の下へと駆け寄り、その姿形を仰々しく見回した。


「……え? なに? どういうこと?」


「か、かしらなのかぁ?」


「えぇ? なんか可愛らしいんだけどぉ? ねぇん、雷様らいさま、今晩……どぅ?」


「おおいっ変態女ぁ! かしら相手に何言ってやがるっ!」


「もぉ、がぁ君! 冗談じゃなぁい。それともなぁに? 嫉妬ぉ〜?」


 変態女と呼ばれた美女のにやけた表情に、バチバチと男から電気が放たれる。


「ええっ? 放電してる? どういうこと? 普通の人間じゃないのか?」


 麒麟が口に手を当て驚愕している隣で、愉快そうにもう一人の女性が言う。


「なぁに、ただの痴話喧嘩じゃ。放って置いて良いぞよ。それよりも……」


 ニマっとほころぶ口に薄桃色の紅を差す、勝色を軸とした胡服こふくを着る見目麗しい女性が、麒麟を見下ろす。


「お頭殿と同じ名を冠した男が、この世界にもおったとはのう」


「えっと、さっきから仰っているお頭殿とか雷様とかって、一体誰のことなんです? それに貴方がたは一体……」


 麒麟の疑問に、四人の男女が見目麗しく笑う。さぁっと秋風が吹いたところで、筋肉質の男が代表して口を開いた。


「俺らは、攞新らしん国の四神。代々の王を導き、国を守護する、神と呼ばれし者だぁ」


「神、さま? 四神っていうことはつまり……」


 麒麟が満仲に目を向ける。そこには一瞬、面食らったように目を見開いた男の姿があったが、すぐにいつものように不敵に笑うと、そっと呟いた。


「……成程。これが俗に言う、異世界間交流くろすおーばーか」

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