第12話 そうだ、攞新へ帰ろう
不動院家の屋敷へと帰ってきた四神。彼らを迎えたのは、縁側に座る、色白の男。
胡蝶と華を紡ぐ黒の狩衣で、老若男女を虜にする容姿を持つ男が、
「
「あぁん! ヘイアンで見る雷様も素敵ねぇん!」
「お頭様……。もしかして全部見ていらっしゃったんじゃ……?」
「当然よのぅ。お頭殿ならば、全てを把握されていようぞよ」
四神が男の下に集い、それぞれに言葉を発する。
「この者は誰じゃ? 桃」
「ん? ああ、何でも
いつの間にか雷煆と仲良くなっていた桃が、明るく男を紹介した。
「左様か……。この者が四神の頭目か」
その存在が神以上のものであると、
「して、わしの四神は
「ああ。
「そうか」
満仲が懐に手を寄せる。式神召喚の札から伝わってくるその鼓動に、そっと微笑みを浮かべた。
「満仲?」
桃に顔を覗かれ、「大事……あるのう」と大事なものが帰ってきたことを、他の瑞獣らに伝えた。
「あまり四神の不在が長くなると、我が主殿が心配されるでな。そろそろ帰るとするぞ」
雷煆に促され、「そうだなぁ」と
「いつの日かまた、共に酒を酌み交わしましょうぞ」
「おおう!」
安孫と牙琥が握手でもって、別れを偲ぶ。
「それじゃあね、水影ちゃん! またぎゅうってさせてねぇん!」
「嫌にございまする」
「がぁん! なぁんでよぉ! 酔っ払った水影ちゃんは、あぁんなに可愛かったっていうのにぃ!」
「
それだけ言って、水影は微笑みを浮かべた。
「水影ちゃん……!」
じんと感動する愛染が、堪らず水影に抱きついた。
「おおっと……! 仕方ない玄武殿にございまするな」
それでも愛染の髪を撫でる手は、優しいものであった。
「――達者でのぅ、満仲。長生きするのじゃぞ」
男前に笑う
「何があっても、諦めてはならぬぞよ」
先を見据えた発言に満仲はどきりとするも、強く笑って見せる。
「ふん! わしを誰だと思うておるのか! わしは天才陰陽師、不動院満仲ぞ! わしには未来の吉兆が見えておる。わしが進まんとする道こそ、安穏の道ぞ!」
「そうかえ、そうかえ。それならば、憂いることはないのぅ」
麗清がニマっと笑い、ヘイアンの友との別れに涙を見せることはなかった。
「――それじゃあね、うー君。また会えるといいな」
「大丈夫です。お頭様にお願いして、またヘイアンに遊びに来ますから」
約束です、と羽邏が麒麟に手をかざし、
「うー君……ありがとう。またみんなで鰻を食べよう! 今度は
明るく笑う麒麟の隣に、もう一人の麒麟と呼ばれる男が立った。
「
「え? あの、それはどういう……」
「お頭様は次代の王を決める御方です。そのお頭様が仰るのですから、貴方はきっと、そうなのでしょう」
「ん?」と首を傾げる麒麟に、「今は分からずとも、いずれ分かる日が訪れよう」と雷煆が笑った。
こうしてそれぞれに別れを済ませた、四神と四人の瑞獣。
「まあ会おう、ヘイアンの」
雷煆が広げた異空間の渦が、四神の背中に広がる。
「次は帝と女王殿も交えましょうぞ」
雷煆を先頭に、四神は攞新へと続く道に歩みを進めていく。そうしてパチンと渦が消えると、二つの世界は再び、それぞれに物語を紡いでいくこととなった。
公達らが屋敷へと戻ると、満仲は満天の星空を見上げた。
この夜空は攞新にも広がっているだろうか?
柄にもなく、そんなことに思いを馳せる。隣に桃が立ち、「あの神様達も今頃、この夜空を見上げているかしらね?」と笑った。同じことを考えていたことに、ふっと満仲が笑う。
「さてな。それよりもそなた、あの雷煆とかいう男と楽しげにしておったのう? 何じゃ、あのような男が好みか?」
「そうね。めちゃくちゃ色男だったもの、雷煆は。それにどっかの誰かさんと違って、優しくて気遣いのできる殿方だったわ?」
わざとらしく、桃が満仲の心を揺さぶる。
「そうか……」
「まったく、わしの第八妾は尻軽じゃのう、でしょう? アンタの言いそうなことなんて百も承知なんだから」
桃が満仲の台詞を先取りし、笑った。すかさず、満仲が桃を抱き寄せ、その端正な顔を近づけた。思わず桃の頬が紅潮し、さっと視線を逸らす。
「……桃よ、わしを見よ」
「な、なによ! アンタなんかに惚れる私じゃないわ――」
「クシュン! ああ〜ったく、頭がぼうっとするのう! 何なのじゃ、まったく!」
「……アンタ、やっぱり風邪引いてるんじゃない。ほら、熱もあるわよ」
満仲のダサいくしゃみにより、冷静になった桃が、その額に手を寄せ、高熱であることを伝えた。
「まったく、早く治しなさいよね。じゃなきゃ、また愉快な奴らを引き寄せるわよ?」
「くくく。そうじゃのう」
これがフラグとなっているのかは分からないが、桃の腕の中に顔を寄せる満仲は、この上なく安穏の表情で笑ってみせた。
了
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