「まやかし」とは何を示すのか

教主の妻になった珠希は姉の死を境に何かが起こるようになる。
雰囲気に呑まれるようにして読み進める程に、背中にじわり、と恐怖が滲む。
「まやかし」という言葉の如く、何を信じたらいいか分からない恐怖がこの物語には満ちている。
誰の言葉が本当であるのか分からない。常に影の気配がそこかしこにある。
美しいと称される有慈の存在が、言葉が、この物語に怪しさと妖しさを落としていると言っても良いかもしれない。
この物語の妙は信じるままに読み進めた時、今まで見ていたものが「まやかし」だったと気付く瞬間の、自分の見ていたものはなんだったのか、と感じる恐怖だ。
同時に人間の怖さを突き付けられる。
だから「まやかしの贄」なのか、と思った時、贄と引き換えに何を得たのかと振り返る。
是非、幾重にも積み重なった「まやかし」に触れて翻弄されて欲しい。
読み終えた後に改めて題名を見て欲しい物語です。

その他のおすすめレビュー

白原 糸さんの他のおすすめレビュー341