概要
彼岸にいるはずの亡霊が視える晴季(はれき)は、毎日のように現代文の授業の時間には女生徒の亡霊が視えていた。そんな折、同居人である吉彰(よしあき)が家庭教師先の教え子から奇妙な話を聞く。
日下(くさか)一志(かずし)という少年は、「自分は人を殺した」と吉彰に告げたのだ。
それは折しも花菖蒲公園の池の中から、日下一志と同級生で三年前に行方不明となった沢野(さわの)宇月(うづき)の白骨遺体が見つかった頃のことであった。
鳴らぬ鼓は何故鳴った――天の鼓の、謎を解け。
※約20万字、完結済
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!硬派な文体で綴られる、謎が深まるミステリー
しっかりした落ち着いた文章を読みながら、深まる謎に絡みとられていく。
そんな経験は読書を魅力的にするものです。
惹かれるでしょう? ここにあります。
謎の死を遂げた少女。その死に関して不可解な発言をする少年。
答えを探そうと苦悩する大学生。
そして、不思議な姿が見えてしまう主人公——
タイトルとなっている「天鼓」は、日本の伝統芸能からですが、どうにもこの謎に絡んでいるようでありながら、端々に語られるそのお話への解釈は、謎と切り離して人の行いを考えさせる内容でもあります。
硬派な文体ではありますが、とても読みやすく、さらに登場人物一人一人も性格描写がしっかりとしていて生きた人間のようです…続きを読む - ★★★ Excellent!!!鳴らぬ鼓の正体とは……
せんせい。ぼくは――ひとを、ころしました。
この始まりの一文。一体どんな先があるのかと、これだけでも物語に没入してしまうようなインパクトがある。
突然、このような言葉を耳にしたとして、その言葉の先があるのか、どう言った意味があるのかと考えてしまうのではないだろうか。
本作は、そこから始まるミステリー。
亡霊が見える晴季と、同居人の吉彰。異能ミステリーとある通り、幽霊の存在が一つ一つの点となり、それを結ぶ為に二人は様々な観点から事件を見る。
また、筆者様は能楽に精通しており、タイトルにある天鼓の物語もまた事件と重なる部分がある。
その謎解きもまた、楽しみの一つと言える。
オススメです。 - ★★★ Excellent!!!人を丁寧に描いたミステリー
この物語は、能の演目である「天鼓」がキーとなります。
「天鼓」はどんな存在で、なぜ鳴ったのか
それを追求していくことで、謎が少しずつ明らかになっていきます。
そして、この物語は「人」と「社会(立場)」も考えさせられる作品でもあります。
人は社会とは切り離せない生き物で、
誰かから見られているゆえに
良いとか悪いとか、
普通とか異常とか、
理想とか現実が存在するんだと思います。
けれど、そのどれもがただの一面に過ぎません。
人が人としてどう生きていくのかは、まわりを気にして誰かに決めつけられるものでもなく、自分自身で見つけていくものかもしれません。
人間味を感じる深いミステリー作品…続きを読む - ★★★ Excellent!!!幾重にも連なる鼓の謎は最後に誰が鳴らすのか
この物語はとある子から衝撃の告白を受けた吉彰が、亡霊が見える晴季と、そして二人の保護者である誠一郎と絶妙な距離感で「天鼓」の謎を解き明かしていく。
キャッチコピー「せんせい。ぼくは――ひとを、ころしました。」から始まる冒頭によって物語の中に一気に惹き込まれる。
彼の発した言葉が何を意図しているのか、知りたいと思う。
能の演目「天鼓」を題材に進む物語は切実な思いと願いを少しずつ、浮かび上がらせていく。同時にこれはある出来事から始まった一続きの物語であることを伝えていくのだ。
「天鼓」はある種、残酷な演目であるとも言える。今の時代においては「理解が出来ない」ものとして作中でも言及される「天鼓」を…続きを読む - ★★★ Excellent!!!その子どもは本当に殺したのか。亡霊の存在が真相を浮き上がらせる
せんせい。ぼくは――ひとを、ころしました。
冒頭の一節でもあり、本作のキャッチコピーでもあるこちらの一文。衝撃的な一言であるとともに、ひらがなで表された巧みな息づかいからでしょうか。これは読まねばと引き寄せられました。
そしてその期待は一切裏切られることなく読み終え、気がつけばほぼ20万字の大作。日々連載を追っていたとはいえ、その容量をまったく感じさせずに読み耽ってしまえる作品です。
窓から教室をのぞき込む、首の折れた女子高生。
透けた体で楽しそうに踊っている、小学生の女の子。
そんな亡霊が視えてしまう晴季(はれき)と、共に暮らす親戚の吉彰(よしあき)。彼の家庭教師先の生徒か…続きを読む - ★★★ Excellent!!!決して鳴らない天の鼓を鳴らしたのは誰?
楽器とは、奏者がいて音が鳴るもの。
この天の鼓もまた、そうなのです。
点、点、点、と様々な出来事が起きます。
現代文の時間だけ見える亡霊。
白骨化した死体。
そして、中学生の男子による「せんせい。ぼくは――ひとを、ころしました。」という言葉。
これだけを見れば、ただの点。けれど、一つ一つ紐解いていけば、それらはひとつなぎでした。
ここで、天の鼓です。
「天鼓」という能の演目だと、作中で学びました。どういうお話かは作中で詳しく書かれているので、ぜひご覧ください。
そもそも、どうして「天鼓」なのか。その理由が丁寧に組み込まれていて、読み終えたときには「天鼓」に少し触れることができたような、そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!鳴らぬ鼓を誰が鳴らすか
『天鼓』という能の演目をご存知だろうか。
タイトルにも入っている通り、この話は『天鼓』を一つの主要なテーマとしている。
残念ながら私はこの作品を読むまで、まったく存じ上げなかった。
だが、私と同じように知らなくとも問題はない。それは作中で何度も取り上げられ、読者の脳みそに無意識に刷り込まれていくのだから。能だけに。
よって、読み終わった頃には、舞台を見たことがない人でも、『天鼓』を少し語れるくらいにはなっているはずなのだ。
話が逸れたが、この『天鼓』という演目、見ようによっては天鼓、つまり鼓が主人公ともとれる。もしかしたら作中にそう書いてあったのを、私がそのまま口に出しているだけ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!鼓の沈黙、天河の隔て、届けたかった「好き」を抱いて。
ご存知亡霊シリーズ、此度の主たる題材は「天鼓」。
最後まで読んで泣けてしまって泣けてしまって、まだ少々放心状態ではあるのですが。
頭部にボールがぶつかった影響で亡霊が見えてしまう体質となった晴季。
晴季の母の弟であり、現状保護者という立場ではあるもののイマイチ頼りがいの見えづらい誠一郎。
そんな彼らにおいしい食事を提供してくれる(だけではないけれども)吉彰。
そんな一つ屋根の下親戚トリオの元に舞い込んできた今回の事件。
端緒となったのは他でもない、吉彰の家庭教師先の生徒である中学生男子が告白した「せんせい。ぼくは――ひとを、ころしました」という言葉だった。
この一言。
冒頭の一文。
…続きを読む