教主の妻になった珠希は姉の死を境に何かが起こるようになる。
雰囲気に呑まれるようにして読み進める程に、背中にじわり、と恐怖が滲む。
「まやかし」という言葉の如く、何を信じたらいいか分からない恐怖がこの物語には満ちている。
誰の言葉が本当であるのか分からない。常に影の気配がそこかしこにある。
美しいと称される有慈の存在が、言葉が、この物語に怪しさと妖しさを落としていると言っても良いかもしれない。
この物語の妙は信じるままに読み進めた時、今まで見ていたものが「まやかし」だったと気付く瞬間の、自分の見ていたものはなんだったのか、と感じる恐怖だ。
同時に人間の怖さを突き付けられる。
だから「まやかしの贄」なのか、と思った時、贄と引き換えに何を得たのかと振り返る。
是非、幾重にも積み重なった「まやかし」に触れて翻弄されて欲しい。
読み終えた後に改めて題名を見て欲しい物語です。
「新興宗教教主の妻」という、特殊な立場におかれた女性が主人公です。新興宗教と聞くと身構えてしまうところが少なからずありますが、こちらの団体はいたって健全。主人公も充実した日々を送っています。……今のところはね。ふふ。
絶縁した姉、瑞穂の訃報を受けたことから、主人公珠希の身辺で異様な事象が起こり始めます。姉との確執が何らかの怪異を引き寄せているのか?
一方で珠希の夫、新興宗教教主でもある有慈も、人格者ながらもそこはかとなく漂う怪しさを醸しているような……。でも信じたいんですよ。いい夫なんですもん。イケメンだし(?)。
なにはともあれ、有慈の優しさと怪しさのバランスが絶妙で、続きが気になって読む手が止まらなくなります。ご注意くださいね。
予想の裏の裏をあっさりかかれていく感じ、これがもうやみつき!人死に等もあるので好みの分かれる部分かと思いますが、そこはほらまあホラーですから。このジャンルに馴染みが無かったホラー初心者の私に、その面白さを突きつけてくれたイチ推しの作家さんでもあります。
最後の最後まで予想を覆され、全く気の抜けなかった高揚感とこの興奮。ぜひ多くの方に味わっていただきたいです。
姉が、死んだ。その瞬間から、彼女の運命は坂を下るようにして、転がっていく。
さて何が真実で、何が偽りであるのか。聞くべきことばは誰のものか。信じるべきは、取るべきは、どの手なのか。
読めば読むほどに疑心暗鬼に陥り、なるほどこれは確かにホラーである。
おそろしいものは、人間である。これはまさに人間によるホラーと言えよう。
読者すら、何を信じれば良いのか分からなくなる。そして最後に手で顔を覆うのだ――「ああ」と。この言葉しか出てこないのだ、本当に。
誰も彼もが身勝手で、優しい人ほど翻弄される。果たして何が「まやかし」であったのか。
その言葉は、その感情は、果たして。
ぜひ、ご一読ください。