県庁で働く祈の夫、吉継が怪しげな教えに傾倒したことで始まる、物語です。
始まる、と躊躇うのは拝読してこそ分かります。
この物語はとにかく主人公である祈が強いです。冷静で頭が切れ、何をするべきかの道筋を見極めることの出来る女性です。
ある時を境として事件が起き始めるのですが、これがまた巧妙です。私は拝読しながら騙されてしまいました。
次から次へと起きる出来事に翻弄されながら真実が明らかになった時、手が震えると共に大きく息を吐いておりました。
ああ、清き祈りだ……と息を吐くと共に、無知であることのおそろしさを改めて突きつけられる物語でした。
人間模様に翻弄され、とある人物の言動に苛々させられ、正体の分からない恐怖に息を呑みながらもどうなるのだろうと読み進める手が止まらない物語です。
清き祈りを知った時、ふと、見上げた先にあったならば、見るのが少し怖くなってしまうような、読後感です。
私は同時に安堵しつつ、すごい物語を読み終えたと放心しております。
人間模様に翻弄されながらも、是非、清き祈りを拝読してください。とてもおすすめです。
県職員の祈(いのり)と投資家の夫、吉継(よしつぐ)。結婚後間もなく吉継は自分探しに没頭し、整体師の寺本が編み出したBRPと呼ばれる怪しげな教えに心酔するようになってしまう。
夫とのすれ違いを感じる日々のなか、吉継と共にBRPを受けていたメンバーが変死を遂げ、祈にも幻覚が見えるようになる。知らずBRPのCDを聴かされていたこともあり洗脳を疑うが、寺本は祈が呪われていることが死を招いていると言い出した。
原因を突き止めるようとする祈が最後に辿り着く真実とは。
主人公の祈は夫に適度に寄り添いつつ、真当な道に戻すべく奮闘する、賢くとても強い女性です。
でも夫の中では私の優先順位が変わってしまった。もう無理かもしれないという感情と、簡単に見捨てられないという感情のせめぎ合いが絶妙なバランスで描かれます。
ジャンルはホラーですが、真実を突き止めるまでにはミステリや科学的要素も絡まり、ラストまで目が離せません。
もう一つのおすすめポイントが吉継の兄、明将と祈の少し物騒で軽妙な会話。要所で挟まれるこのやり取りがとても楽しいです。
祈ちゃん強い!カッコいい!家族のためとはいえ、立場の上の義兄にこんなおっかない啖呵切れないですよ。惚れるしかないでしょ!
彼女は私の中の推しヒロインの上位に見事にのし上がりました。推しがいる作品はひと際輝きますね。本当に大好き!
イライラ、モヤモヤ、ゾクゾク、スッキリ。ひと通りを存分に楽しめる一作です。お好きなテイストがきっと含まれているはず。じっくりとねっとりと。ぜひ味わってみてください。