「エッセイを書きましょう2024」つるるん賞 発表
*末尾に「惜しくも受賞しませんでしたが、これも迷った……!」という二作品に関しても言及させていただいています。つるは優柔不断なんです。
つるるん賞
『ルービックキューブはじめました』 島本 葉さま
https://kakuyomu.jp/works/16818093087181290949
まず題材の「ルービックキューブ」というのが、とにかもかくにも、昭和50年代生まれの私には懐かしかったですね。あれが流行した1980年に幼少期を送った私には、皆が皆、ルービックキューブを手にしてクルクル回していた光景は、大変リアルです。
とはいえ、特に思い出深いというわけではなく、今回のエッセイで思い出さなければ、それこそ一生思い出すこともないようなシーンでした。そういう、何もなければ忘れ去って、自分の記憶からなくなってしまったであろうものを、ヒョイと目の前に持ってきてくれたのは、自分ではなく他人によって書かれる「エッセイ」という文章ならではの「体験」だといえるでしょう。
自分の過去に確かにあった風景を、もう一度目の前に持ってきてくれる。それは、心の奥にしまい込んでいたモノクロの写真を、そっと取り出し、カラーに彩色して陽のひかりの元に翳す、そんな喜びがありました。
さらに、ただ懐かしいものを「懐かしいでしょう? これこれ!」と見せるだけではなく、作者がルービックキューブに挑み、楽しんでいる過程を詳しく書いて下さったことで、私の中にあるルービックキューブ観がはっきりと変わりました。ルービックキューブについて「昔流行った時代遅れのおもちゃ」としか私は思っていなかったわけです。
今をときめくYouTubeに動画が載せられていたり、Googleで調べれば攻略方がたくさん検索できることが示すように、まだまだ楽しんでいる人がたくさんいるおもちゃだと、私はこのエッセイを読むまで知ることができませんでした。つまりは、ルービックキューブが、それほどまでに人を魅了し、探究心を注がせる魅力的なアイテムだとは、思いもしなかったわけです。
つまりそれは「今まで自分が触れてきながら、忘れてしまった他のもの」についてもそうなのかもしれない。そんなことさえ思わせてくれる「新しい視線」を授けてくださった、ということなのです。
あと、この辺の文章もすごく好きです。
>息子の演奏するハーフテンポくらいの『アンパンマンのマーチ』を聞きながら、スマホの画面に示された手順の通りにカチャカチャと回す。
>ああ、件のプレイルームには先日リベンジを果たしました。置いてあった3つのキューブをすべてそろえてやりましたとも。他の子供達の羨望の眼差しはまだいただいていませんが、楽しみでなりません。
ご家族、とくに息子さんとの関わりや、こっそり会社の昼休みで練習したり、プレイルームの子どもたちにあわやドヤ顔してやろうかとほくそ笑むという、なんとも微笑ましいエピソードが盛り込まれてたのも素晴らしかったです。
というのも、ここがなくては単なるルービックキューブの「蘊蓄」を語るエッセイにしかならかったはずですから。
つまり、「その人ならではの切り出し方」ってやつです。今作はそれが、ルービックキューブという主題のバッググラウンド部分で、きちんと書かれていたと感じます。これもとても好感触でした。こういった描写が、作者のユーモラスな人柄と視線を醸し出し、エッセイの世界に入りやすくしてくれていました。
たとえドラマチックな題材でなくとも、 日常の一コマでも、「エッセイからは、こんなに新しい視点を得ることができるんだ!」という驚きをくださった作品として、こちらをつるよしの満場一致で「つるるん賞」を贈呈したいと思います。
島本さま、素晴らしいエッセイをありがとうございました!
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最後に、受賞には至りませんでしたが、たいへんに「わたし、これ好き!」と感じ入り、最後までつるよしのを紛糾させた作品として、こちらのふたつのエッセイについても言及させて頂きます。
『蛸地蔵伝説 〜戦国の救世主〜』四谷軒さま
https://kakuyomu.jp/works/16818093085164456777
エントリーが最終日に近かったのですが、正直読んだとき「終盤になってこりゃ、すごい手練れがいらしたな……」と思いました。偉そうですみません。ですが、本当にそう思いました。というのも、蛸の刺身から岸和田城の歴史、そして蛸地蔵に至るオチまで、ご自分の身の上にあった細やかな出来事と蘊蓄を、他人に「物語」として読ませる手管が半端なくお上手でした。
読後、口の中でコリコリ蛸の刺身を噛み締めているような「味わい」が残りました。
蛸の刺身、私も大好きです。ええ、大好きです。
『うさぎ暮らし』川中島ケイさま
https://kakuyomu.jp/works/16818093085573318803
こちらも最後まで迷いました。私が心打たれたのは、うさぎとの関わりを通じて、ご自身の「永遠」について考えて綴られた文です。ただうさぎとの物語を書くのではなく、ご自身の生にそれがどんな意味があったがちゃんと見えて「これぞエッセイを読む醍醐味」といった満足感を深く味えました。その方にしか書けないものがきちんと切り出されたエッセイだったと感じます。
やはり私は、その人の人生が透けて見える文が好きなんだなぁ、と思い知らされました。
いろんなエッセイを読むことができて、とても楽しかったです。
ありがとうございました。
私的エッセイのためのエッセイ つるよしの @tsuru_yoshino
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