大変面白かったです!10万字未満とは思えないほどに濃密な読書時間を過ごさせていただきました。
主人公のアネシュカは15歳。何よりも絵を描くことが好きな明るい女の子です。そんな彼女の才能を見初めたのが宮廷絵師のファニエル。彼に才能を見出されたアネシュカは彼の弟子として工房に入ることになるのですが、彼女の希望を打ち砕いたのが隣国から征服してきた将軍マジークでした。
人の心や背負わされたものは人からは簡単にはわからないもの。天才と謳われ、もてはやされた宮廷絵師であるファニエルは自らの才能に限界を感じ、アネシュカの才能に嫉妬心を抑えられません。
冷酷に祖国を蹂躙するマジークも、帝国の命令と自分の本心に板挟みになり、自分が葬ってきた者達の幻影に苦しめられます。
そんな彼らの光となるのが主人公のアネシュカ。絵を描くことが大好きで、絵は人を救うと信じて疑わない彼女は、ファニエルやマジークを救うために希望を捨てません。彼女の行動や言葉によって、少しずつ闇から光へ向かっていく彼らの心の動きに目が離せなくなりました。
この作品の素晴らしいところは、登場人物達の感情や息遣いをリアルに感じられるところです。兄弟国でありながら文化水準の違いによっていがみ合う二つの民族。神話がこの国の根幹にあり、芸術が彼らにとっていかに大切なものであるかということもスッと頭に入ってくるので、登場人物ひとりひとりの感情と自分の感情をリンクさせながら読むことができます。
臨場感と没入感を得られる舞台設定が秀逸な為、マジークやファニエルの葛藤をリアルに感じながら、アネシュカによって救われる心の動きを追体験することができるのがこの作品の素晴らしい点だと感じました。
何よりアネシュカの純粋な感情は、マジークやファニエルだけでなく読者も救われるよう。15歳ならではのひたむきで真っ直ぐな思いが、血なまぐさい戦争の中でまるで光のように輝きます。
絵は人を救うことができるのか、芸術とは何か。様々なテーマに思いを馳せながら読み進められるのもこの作品の醍醐味です。
この物語に生きる彼らに心を寄せ、共に泣いたり憤りを覚えながら読み進めてみてください。
ラストは彼らと共に心からの幸福を感じながら読書時間を終えることとなるでしょう。