第11話 特異点による紋章制御

 神秘的な場所、不思議なダンジョン自体が神秘のようなもので、そう考えてしまうとあまり気になりません。


 シルヴィの後に続くと中央付近に人工的な屋根付きの休憩場があったのです。


 遠目で見ても違和感を感じる形だが、周りに溶け込むように結晶化しているようでキラキラと光って見えます。


 ぴかぴか?の何あれ…


「なんだろ、不釣り合いな物があるような…」


 私がそう言うとシルヴィが目的の場所だと話し、近寄るとキラキラの椅子に座っていた父様が手を上げて立ち上がったのです。


「一応周囲に合うよう整えたのだが、まぁそう言わずにこちらへ来るといい。」


 父様は拾う必要がない私の言葉を丁寧に答え、ある意味で驚きしかありません。


 魔力の結晶化を利用した結晶付加の実験も兼ねているらしく、持ち込んだ物を放置しておくと濃い魔力による結晶化が行われるそうです。


「お待たせしました?」


「いや、準備に時間がかかったので、少し前に腰を下ろしたところだな、二人共疲れたろ?こちらにきて座ると良い。」


 父様の言うように、私とシルヴィは近寄り勧められた通り椅子に座りました。


 結晶化しているからかな?ひんやりするね。


 見た目も冷たそうな結晶物をペチペチ触りつつ継続するひんやりは中々良さそうです。


 シルヴィはその間、父様に報告をしています。


「予想通りに楽々辿り着いたようで何より、さて紋章制御について何を行えば取得できるのか話し始めてもいいか?」


「はい!もちろん大丈夫です!」


「ある程度話した通り紋章に宿る聖霊と意思疎通を図る事が目的となる。勝手に守ろうとする紋章は言ってしまえば主の事を信じていないと等しい、だからこそ互いに話し合って心を通わす必要があると言う事だ。」


 父様はそう対話を強調するように話し、自身の身体とも言える紋章と対話が出来るだろうかと、私は思ったがサラマンダーの姿を思い出し実体化するなら出来そうなのかもと思います。


 私が考えていた流れより簡単そうで、精霊本体に力を認めてもらうとか、聖霊との戦いがあるとか、ある種の冒険譚を考えていたからでしょう。


「思っていた事と少し違う?てっきり最下層に降りて本体に力を示すとか、あるかなと思ったのに…」


 最近注意はしていたが、私は考えていた言葉を声に出してしまったのです。


 父様は最もな意見だと失言ではなく適切に扱い、現在地点の特異性が役立つ事と、ここより下はそれこそ危険で魔生物すら聖霊本体の発する魔力に殺される事が多く、結果的に結晶化を促進させたり浅い階層で生成を促したりと、魔生物の危険性を考えても下層は簡単に通すわけにはいかない理由を教えてくれました。


 父様の言う危険性はある程度理解できるけど、シルヴィが簡単に倒し続けていたし、何というか魔生物が強いとか思えなくなってる…


 本当に危険なのかな?


 私は失言しないようにと口を閉じてそんな事を考えていたのだが、父様は仕草から読み取りシルヴィに目線で合図を送る。そのやり取りを何だろ?と見ているとシルヴィは軽くため息を吐き、理解していないのが不思議だと言わんばかりに話し始めました。


「私が倒した魔生物…魔物擬…面倒なので魔物としますが、アレらは力が殆どない所謂下位です。しかし、その下位ですら接近して倒されるまで感知できない時点で本来存在していた魔物に出会えば死にます。簡単に死なせてくれれば良いのですが、残酷な結果が待っていますので更なる研鑽を積まない限りは無理ですね。」


「え…って言っても他の魔物見たことないから反応に困る…どう言う事なの?」


「勉強不足ですね…ダンジョンは大地の魔力歪みが引き起こす特異点、ダンジョン内部は魔力で満ち自然環境までもが魔力で再現されます。一定周期で魔物や内部構造の生成、各種資源の補充を行う規則があるのは理由があるからで、ダンジョン内部の魔物が力を得るには魔力を取り込む事、それは閉鎖空間で魔物同士が戦ったり資源を取り込んだり時に自然環境ですら力に変え上位の存在に変わるのです。特に人の出入りが殆どないような特殊ダンジョンは魔物が強くなりやすく、それらが対処済みなので簡単に辿り着けたという事ですよ。」


 シルヴィは私に丁寧な話し方で、そう教えてくれたのです。


 事前に準備が必要と父様が言った本来の意味は魔力を蓄えて強くなった魔物の掃討、強い魔物が倒された事で弱い魔物が現れ始め、私とシルヴィに襲いかかってきたのが真相でしょう。


 一部の魔物は相手の力量を理解できるらしいが、それは出来る時点で強い魔物と等しく、弱い魔物は理解できないからこそ襲ってくる。魔力により生成された魔物は特殊だからこそ魔力を集める。だが、魔力量に上限があるらしく、現在地のような濃い魔力の密集地は猛毒でしかない為立ち入れない。それも魔物としての格が上がれば変わり、頂点に近づくと障壁を無視して外に溢れ出てしまう。


 そう、だからこそ、ダンジョンの発見が重視され適切に管理と時には破壊が必要となる。定期的な冒険者がダンジョンに向かう理由も珍しい道具や武具を得る目的より間引きの為です。


「そんな事本にも載ってないよ…」


 私は話を聞き勉強不足ではなく載っていない話だと抗議してみたが、載っている話だと一蹴され、少しショックを受けました。


「力を付ければ自ずと小さな敵意や魔力を認識しやすくなる。魔物関係やダンジョンはその基礎が出来てからだな、基礎を疎かにすると一瞬で取り返しのつかないことに繋がる。シルヴィアが何度も起訴を繰り返す理由がそれだな。」


 父様はしょんぼりしている私に、少しずつ強くなれば良いと無理して死の危険性を取るより確実に力をつけていけばいいと慰めてくれたのです。


 一連の話を聞きダンジョンの危険性を再認識したと同時に、私はまだまだ未熟だという事も改めて理解できました。


 ある意味でやる気に満ち溢れ、少し話が逸れてしまったが再び制御の話に戻るのです。


「事前準備自体は他にもあってだな、サラマンダーと共に結晶を砕き特殊な魔法陣を作っておいた。これを利用し魔力の揺さぶりにて無理やり紋章に宿る聖霊を叩き起こす。本来は別の方法があるのだが、今回は特殊な状況で封印されているに等しい、自然に解けるのを待つのは危険だからな。」


 父様は対話手段を用意してくれたようで、あの特殊な出来事で聖霊本体と影による影響を受けた私の紋章聖霊は、簡単に言うなら怯えている状態らしく、本来とは少し異なるようで、突然目を覚ますと状況によって無差別的な力の行使もあり得るので、体調が戻ったら間隔を空けずに行う予定だったと教えてくれました。


 私はその話を聞きある意味納得できたのです。


 怯えている話自体はサラマンダーから聞いていたが、ダンジョンに入った後もシルヴィの戦いを間近で感じても紋章の反応はなく、少し気がかりだったが、何も起きなかった理由は単純だったからです。


 そんな流れでやるべきことを確認した後、早速行うと意気込みを入れたのですが、時間が関係しているのか、後少し待って欲しいと父様に言われました。


 その意味はそれほど時間が経たずに理解出来たのです。


 ダンジョン内部は魔力にで自然環境が再現されるが、結晶化の階層はかなり特殊で、空を覆う光の結晶より太陽光ではない魔力の光が拡散されて周囲を照らす仕組み、それは時間と共に光が弱くなる反面、結晶がそれぞれ力を発し始める。


「すごい…何この幻想的な景色…」


 私は暗くなると周囲が個別に光始める光景に驚き美しいと思ったのです。


「細かく仕組みは解明できていないが、夜に変わると各々が蓄えた魔力を発し始め、サラマンダーと共に描いた魔法陣は周囲の魔力を中心に集める仕組みだ。通常時では空の魔力が拡散してしまいうまく集まらない為待っていたという事だ。」


 父様は分かりやすく、そう言ったのです。


 事前準備でサラマンダーが結晶を砕き描いた魔法陣、本来なら塵となり消えるはずが消えずに模様を描ける不思議な仕組み、周囲が暗くなればなるほど模様が光り、中心に力が流れていると可視化される濃い密度の魔力が溢れ出す。


 注意点として対話を望み力を求めない事と、父様は理解しにくい注意や体調が悪くなれば割って入ると、安心できる言葉を言うのです。


「父様ありがと、がんばるから!シルヴィも見ててね!私専用の太ったトカゲに会う為に!」


 私は意気込みを入れるようにそう言いつつ、グッと紋章の宿る右腕を曲げてやる気アピールをした後、言われた通りの魔法陣中央部に恐る恐る向かったのです。


 濃い魔力は体調不良を引き起こす、結晶化するほど濃ければ魔生物すら猛毒となり近寄らない階層で、周囲の魔力を一点に集め濃く可視化された魔力は安全とも保証できない為、不調をすぐに察する目的で、私は緩かに向かっています。


「凄く腰が引けて見えるな…クラウディア、冷静に常に平常心で己の内側を覗き見るような紋章に力を込めるのだ。あくまで一心同体と考え、従わせるのではなく共存を選ぶのだ。」


 父様はゆっくり進む私に聞こえるよう、そう言ったのです。


 直前にある程度話を聞いた対話方法、魔力制御のように紋章を集中的に意識する事で、周囲の魔力に反応した聖霊は主を守る目的で現れる。紋章の初回解放は勝手に起きる。ある意味そのときに聖霊としての存在が確立すると等しく、生まれたばかりとも言える聖霊に無差別的な反撃をしないように話し合う目的だ。


 本来なら、一度目が終わった後に紋章の光が強まり、一定量の魔力が集まれば呼び出せる為面倒な手段は必要ないのだが、今回は特殊な環境で怯え状態の聖霊相手、なるべく早めに対応しなければ、タイミング不明で勝手な暴虐を行うこととなり、それは誰一人として望まない結果を生んでしまうのだ。


 私は指定された場所で立ち、父様から聞いたやるべき事を思い浮かべて強く頷いたのです。


 何かあれば父様もシルヴィも助けてくれる!私は全力でお話をして一緒に共存するだけ!そう、これは決してトカゲのぬくぬく感を欲する目的ではなく、皆に危険が迫らないよう危機管理的な必要性がある!!


 誰に言い訳をしているのか不明な私は目を閉じ深呼吸を行う。そして、身体に纏わりつく魔力はより濃く、より強く、寒気のようなゾワゾワ感を全身の鳥肌で理解したのです。


 ゾクッ!!


 呼吸が止まる圧迫感、あの特殊な食堂と同じような押し潰される気配、それが右腕の紋章から溢れ出し、止める隙すらない一瞬で、私の全身は強い圧迫感に覆い尽くされ、呼吸が一瞬止まると辺りに満ちていた濃い魔力は元々存在しなかったように消えてなくなった。


「ちょ、ちょっと…何が起きてるのよ…」


 私は得体の知れない気持ち悪さに目を開け周囲を見回すが、幻想的で美しい景色は消えてなくなり、まるで荒廃した大地のような魔力が枯渇して死にゆく世界に立っていたのだった。

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