第12話 私の聖霊
まるで死んだ世界みたいな…
それは生命の鼓動が感じられない見渡す限りヒビ割れ細かな砂が舞うだけの大地だった。
「地面から何も感じない、空も同じで魔力が枯渇している感じなのかな?」
私は変化の差が大きい事で、冷静に周囲の変化を感じ取る事が出来たのです。
領地は大地に魔力が流れ豊かな実りを生み、空も魔力が満ちる事で天気が変わり、風や雨による大地に還元される仕組みとなる。
そう、それらが感じ取れず、魔力が消えた世界のような鼓動の消えた死の大地だ。
「さっきまでいた場所が変わったとは考えにくいと思う、それなら私が移動?直感だけど多分それも違いそう…聖霊の目線で見えている次元が違うのかも、あまり自信ないけどね。」
私は一人で悩み考え自問自答するように独り言を呟く、身体が移動していなければ魔法陣から動いていないはずで、見守っている父様やシルヴィに通じる可能性を考えての行動です。
少し気になる事もあります。それはシルヴィの時に食堂といういた場所は変わらず、他の人がいない聖霊の次元に迷い込みましたが、今回は見える風景がガラッと変わった事です。
考えても答えは不明、ならばと目的の事だけ考えて聖霊と対話をするべきでしょう。
「絶対関係している紋章を見てみよう!」
結晶で描かれた魔法陣に足を乗せた時から紋章が熱く、まるで鼓動のような脈動を感じていたので、考えも纏り確認する事にしました。
私は自問自答の結果を強く頷き自信に変え、右腕の袖をまくり紋章を顕にします。
特殊な食堂の時も少し光っていた紋章は一段と濃く光る疼くような熱を発していたのです。
お、おおお…私の身体とは思えない不思議な感覚だね。
私自身感心するようにそんな事を考え、恐る恐る左手の指で紋章をツンツン触る。
当たり前の触れる感覚と触れられる感覚、両方私の身体だから自然な反応でした。
何も反応ない?
父様のサラマンダーみたいに見えたりするかなと思ったけど…対話って、どうするのよ!
再び右腕の紋章に意識を集中させ、目を閉じ念じるように意思疎通を試みる。
見えている視点が変わった時点で何かしらの反応を感じ取れるとも思っていたので、その先に変化が無ければ対話は出来るはずがない。それどころか、帰れない恐怖を感じてしまう。
一瞬で身体が移動するとは信じ難い為、私は見える視点が変わっただけだと言い聞かせていたが、左右の感触も焦る気持ちも本物。対話ができなければ戻れない可能性も十分ありえるのです。
「ふぅ…こんな時こそ冷静に深呼吸、一つの考えにとらわれて思考停止して焦るのは論外、考えを止めるなと言われてるからね!」
深呼吸を何度か繰り返し一度冷静さを取り戻すと、父様の言う事が間違いとは思えないので、聖霊が煩いと感じるまで意識を強める。それでも無反応なら、食堂の時みたいに嫌な最終手段を使うしか無いよねと、私は少し嫌な痛みを思い出し表情を引き攣らせながら考えを纏めました。
おーい!
聞こえる?
ねぇ!
太ったトカゲさん!
聞こえるでしょ?
「意識を強めて声を送ってみたけど、これ本当に合ってる?声届いてるのかな…父様のサラマンダーは姿見えた後そのまま話せてたけど、食堂の影は頭に直接声が聞こえたけど、むむむ!何かしらの反応が欲しいよ…」
落胆と言うべきか、そもそもやり方が間違っている可能性もあるのだが、他の手段を聞いていない為言われた通りに紋章を強く意識した方法しかわからないのだ。
スッと腰の短剣に左手を移動する。
「よし!嫌だけどやるしかないよね!」
「待って待って!!力技で解決しようとするのさ!もう少し考えたりしなよ…注意深く見るとか、それ刺しても痛いだけだからね!」
おっ!?
突然声が聞こえたのです。
頭の中に直接ではなく、立体的な聴覚で認識する声、想像していたようなサラマンダーの声とは少し異なり幼いようにも聞こえますが、状況は大きく変わったと言えます。
「紋章の聖霊さん?私の聖霊さんだよね?」
「そうだけど、少し待ってよね。姿見えなければ理由あるって思わないのかな…とりあえず右腕の紋章をよくみて待つ事だね!」
「待つっていつまでよ…先にそう言ってくれれば早かったのに!もう!」
「また反応しなくなってるし…紋章をよくみてって…赤みが強く光り若干熱い感じは理解してるよ、他にも何かあるって事なのかな?」
「目を凝らすと…線が伸びてるような…触れそうだね、なら引っ張ってみよう!」
物を触れている感触はないのだが、何かを掴む感触はある不思議な感じ、だからこそ掴んだ後に引いてみました。
「ちょっ!ちょっと待ってって言ったでしょ!力で解決する以外に考えたりしなよ!本当に無理やりだなぁ…」
「何で私怒られてるのよ。」
「ちょうど終わったから少ししたら姿見えるようになるよ、君がぼくの視点を見る事ができても存在は違うの、だから合わせる必要があったって事、集中して行わないと君の精神が壊れちゃうから話す余裕もなく、大変だったの…それを無理やり短剣で刺そうとしたり、引っ張ろうとしたり、衝動的に動くのやめてよね。」
先程よりも声がはっきり聞こえる気がした。
嫌がらせや悪戯で意思疎通しなかったのではなく、互いに本来なら触れ合えない存在を最小限のリスクで噛み合わせるようにしていたのだ。
聖霊が言うには特殊な出来事で、怯えではない無理やり押さえ込まれていたらしく、それにより噛み合う歯車がズレようで調整するのが大変だったと部分的に理解が難しい言葉で教えてくれた。
その話を聞き終えたタイミングで、薄ら輪郭が浮かび上がり、程なく聖霊の姿が現れたのです。
「同調完了!改めて君の紋章に宿る聖霊だよ、互いに利がある運命を綴ろう、よろしくね!」
聖霊は姿が完全に見えた事を感じ取ったようで、力強く元気にそう言ったのです…
「…」
私はと言うと、姿が見えたと同時に目を丸く口をパクパク、言葉にならない驚きの表情で戸惑ってしまいました。
理由は単純でトカゲさんと思い込んでいた姿ではなく、現れたのは何とも形容し難い僅かに地面より浮かぶ変な聖霊だったからです。
「そんなに驚く事?ぼくの姿が見えたからって感極まるのは理解できるけど、これから長い付き合いなんだし、そろそろ現実逃避やめなよ。」
「あっ、うん…ごめん…」
「少し前とテンション違わなくないかい?」
「いや…えっと…ね、姿見えたのは嬉しいの、でもでも、私はトカゲさん想像してたの、それがよくわからない姿で、どんな反応していいのか分からなくなってた…」
「流石にその考えは予想を遥かに超えてるや、そのトカゲってサラマンダーの事だよね?」
「うん、サラマンダーって聖霊、貴方も同じサラマンダーなら姿一緒だと思ってたの…」
少し太った可愛らしいトカゲ、ぷにぷにで温かい触り心地が良い記憶、それを期待してイメージを膨らませた事で違う姿に落胆したのです。
青と言うより深紫の小さな体、同じ色で丸みの翼と尻尾、金色のツノと瞳が綺麗な聖霊だ。
「ちょちょちょっと!落ち込んだ状態から戻ってきてよ!テンションの落差が激しすぎる!それとサラマンダーの名誉を守るために教えておくと、トカゲではなく翼がない竜だからね!」
フワフワ浮かぶ聖霊は誇らしそうにサラマンダーの事をトカゲではないと、父様やサラマンダーからも語られていない事を説明したのだ。
「説明ありがと、実際は竜見たことないからイメージつかないけど、概ね理解できたかな?」
「理解できたならいいけどさ、首傾げて疑問混じりの自信ない返事はどうかと思うけどね。」
黄金の瞳は見続けていると吸い込まれそうな煌めきで、若干ジト目のふわふわ浮かびながら呆れた物言いで、私に対してそう言ったのです。
謎の空気感を払うべく、まだ名乗っていなかったと思い出し、今後共に生きていくならば初めが肝心と思ったので、名前を名乗る事にしました。
「まぁまあ…改めて、私はクラウディア、これから宜しく、私の紋章聖霊さん!」
私は笑顔で少しスカートの裾を持ちつつ、ふわふわ浮かぶ聖霊にそう言ったのです。
「名乗られなくても知ってたケド…ぼくも君に倣って名前を告げよう、ぼくは聖霊イフリート、直接話せる時を楽しみに待っていたよ!」
高らかに名乗りをあげ、火を操る力を両手両足?にメラメラと揺らぐ炎を発生させたのだ。
「あれ、私の聖霊ってサラマンダーじゃないの?血筋は領地を守る聖霊の一部を宿すと思ってたけど、違うんだね。」
私はサラマンダーと名乗らずイフリートと名乗る聖霊にわずかな疑問を感じ、それはトカゲと違う見た目だった理由に繋がる知らない聖霊だったのです。
父様がサラマンダーなので同じと思っていたが、如何やら勘違いのようで、そもそも聖霊に対しての情報は殆ど禁忌に近く伏せられている。私が紋章含めて知ったのもつい最近の話だった為、そう思い込んでしまいました。
「君のテンションが低かった理由なんとなくわかってきたよ、人が短い一生を生きるうえで紋章も聖霊も知る必要がないから詳しく伝わってないとは思ってたケド…この世界はどの時代も隠し事をしているんだね。」
「何を言ってるの?」
私は理解できない言葉を聞き、首を傾げて少ない知識を埋めるべく、そう確認したのです。
少ない知識で知った話、領地全域に力を送る聖霊本体はその場から動けない為、現れた外敵や魔力歪みを正す目的で領地の血筋に紋章として姿を変えた聖霊、それらは本体の一部に過ぎず、言い方を変えれば新しく生まれた存在とも等しい、それは紋章の力が初めて発動した時に意思を得る事が多く、生まれて間もない聖霊は時が過ぎて知識を高めるまで赤子と等しい。
それを聞いていたからこそ、僅かな間で自我が作られている事に、私は疑問を感じました。
「気になる理由は大体わかるケド、説明するの面倒なんだよね…ちょっと待っててね。」
イフリートはそう言うと姿が消え、数秒程度で再び現れた。
同時に黒い板が現れ、イフリートは物を掴みにくそうな手で白く短い棒を持ち、簡単に話す代わりに絵と文字を板に書くと言ったのです。
何処から板持ってきたんだろ…
不思議空間だからと言って自由自在に物を作れるはずがないと思ったが、聖霊自体がそもそも不思議な存在だからこそ、心の中で少し疑問を抱く程度だった。
「ではでは、簡単に世界の仕組みと聖霊のお話をしていくから、しっかり聞きつつ書かれた事を覚えるようにしてね!」
それほど長くない世界の話、本来語られるべきではない真実の一部で、世界は一度滅んでいたのだった。
マジッククロニクル•領主の娘?特別扱いは大嫌いな可愛いものが好きな女の子です。 @arumu2525
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