第6話 魔力歪みとシルヴィアの誓約
私は非日常の出来事から父様に助けてもらい、目を覚ました後にも驚くべき真実とトカゲこと聖霊サラマンダーに伏せられている真実を教えてもらった。
これまで知ってきた世界とは異なる聖霊の仕組み、私は頭に詰め込みすぎて知恵熱で再び気を失うような眠り方をしたのだった。
話の続きは三日後となり、それまで可能な限り体力を回復と知った事を頭の中で整理した。
紋章と呼ばれる各領地の血族が宿す力、領地を守る障壁に悪影響を与える魔力歪み、それを取り除く魔力とは違う力の印の事だ。
それは聖霊の姿が印と変わり、身体に宿す事で人が住む世界で力を行使する。その手段でもあり、宿主と相互関係を持つ。聖霊は単独で生きれず、特定の人を媒介として存在が認められる特別な関係なのだ。
魔力歪みを消滅できる力を持ち、人と同じ世界で存在できない縛り、細かくは教えてもらえなかったが、紋章に宿る聖霊は意思疎通できる本体から切り離された一部にすぎない事だ。
曖昧な存在だからこそ、人と共に活動する。人智を超えた力の結晶、ある意味で武器や道具とも考えられる。扱うには条件が様々あり、その一つとして聖霊に認められる事、それが紋章制御と呼ばれる初めの一歩だ。
紋章を制御できなければ、宿主に迫る危機を退ける自動反撃が発生する。
曖昧な意味の危機は一定魔力に反応したり、敵意以外に気迫も反応の一つ、一度目の発動後一定の強さを持つ存在は殺される。初発動も条件がある為、一定の決まり事を守れば防げるが、殆どの者は聖霊を知らず、巻き込まれる災厄、制御できなければ危険な力だ。
そう、私が死を間近に感じた原因、危険と感知した時点で誰彼構わず牙を向ける事だ。
思い返すだけでも身震いする僅かな時間…
シルヴィは紋章を持たないが聖霊の事を知る特殊な存在、それは知る事が許されているだけで言葉に出したり他者に伝えることは禁じられている。あの時平常心が維持できず、聖霊の話をしてしまった事だ。
それを許さず等しく裁く聖霊はシルヴィを自らの次元領域に連れ去り殺す予定だったが、近くにいた私の紋章が危機を感じ、強力な力の持ち主を倒すため聖霊の力と同調して、結果的に巻き込まれてしまった。
私の紋章は移動後に力の差で一時的な休眠と同じように力を封じられた為、見慣れた不気味な食堂に封じ込まれてしまった。
あの時食堂に誰一人として居なかった事や魔法で扉を壊しても駆け付けなかった理由は私とシルヴィ以外の人が居なかった為だ。
父様とサラマンダーによる一回目の話を簡単にまとめ直した結果が以上となる。
私は頭の中で軽く整理するつもりだったけど、思い返すだけで理解の外側に人が存在しているんだなという事は理解できるかな…
二回目の話は一回目で聞けなかった話しだ。
聖霊召喚されたサラマンダーが最初見えなかった理由、それは単純に私の紋章が怯えて聖霊を見る力が消えていた。その後に父様の要請でサラマンダーが防音効果のある結界を作り出し、一時的に聖霊の目線と部屋の中を変えた。
それが見えるようになった仕組みだった。
紋章を持たないシルヴィが聖霊を知る理由、サラマンダーより話された秘密は父様も言葉を重ねるように他言無用と、シルヴィの秘密を守り続ける約束をさせられた。
世界の真実よりも深い内容で、知っている領主関係者も少ない裏技とも言える話しだった。
聖霊は各領地に一体しか存在できず、聖霊本体は領地に魔力を送り続ける為、地下深くの次元領域に存在する。そこから移動できず、人の目線で力を使うために本体の一部を切り離し紋章として必要な知識を与える。
人の目線と聖霊の目線、存在する次元が違えば出会う事もない。それを捻じ曲げるのが魔力歪みだった。
紋章の力で対処する障壁の外側…外界の魔力歪みと、各領地の内側に発生する魔力歪みがある事を、私はその時初めて知った。
障壁を壊す可能性があり、魔生物を集め強くする外界の歪み、過去他領で大災害が起き、それ以降領主の最優先事案と定められた。
領地の内側に発生する魔力歪みは二つ、一つ目は魔力の濃い自然豊かな場所で起こる魔生物生成、起きる数も生成数も多くないが安全な領地内部で魔生物が現れてしまう事だ。
二つ目は地下深くに存在する聖霊による膨大な力が原因となり、場所含めて不特定の条件で魔力歪みによるダンジョンが現れてしまう。
入り口となる印もバラバラ、扉の時も洞穴の時も突然現れる違和感に気がつく必要がある。ダンジョンは地下に地上や空があったり、森や川、理解できない現象は広さや深さ意外にもあり、内部はランダム変化と魔生物の生成が発生し続ける魔窟とされる。
常日頃から付近を詳しく知る者が違和感を感じ取る必要がある為、中央領地による冒険者が集まる組合の設立と各領地に支部を作り、表向きには領地内部の魔生物討伐とダンジョンの発見及び危険を退ける目的を定めた。
ダンジョンは放置されたままだと魔力歪みが強くなり、何かのきっかけで地上に魔生物が溢れ始める。これを防ぐ目的と、ダンジョン内部は不思議な作りで、本来領地の外側となる外界でしか手に入らない貴重な資源を入手できたり、魔力歪みの生成は魔生物だけではなく、各種道具や魔法を宿した魔法具、武器防具など、仕組みは解明されていないが巨万の富を得られるチャンスもある。
魔生物から得られる素材も特殊な物が多く、それらを求めてダンジョンを冒険するのが冒険者組合の目的になっている。
そう、各領地で暮らしている者達は聖霊や魔力歪みと知らないまま、手数の足りない領主の血筋に代わり領内の魔力歪みを処理している。
ダンジョンは溢れ出ることを防げば一定の資源を得られる宝物庫とも言えるが、命を失う可能性が高く、歪みが大きく危険度が高いダンジョンは内部の何処かに存在する魔力歪みの核、ダンジョンコアを壊せばダンジョンの破壊が可能となる。勝手に壊せばダンジョン内部にいる他の冒険者が危なくなり、指示や判断は各支部が行う。ダンジョンは見つけ次第報告する義務もある冒険者の仕事だ。
父様とサラマンダーによるシルヴィの話をする前提…それが領内の魔力歪みとダンジョンの話で、唯一紋章を持たない者が聖霊本体と出会う手段でもある。そう、最後らへんは早足で語られたダンジョン深層より聖霊本体と会える他言無用の話だった。
その聖霊本体に繋がるダンジョンが領主邸にあり、紋章制御を会得する場所でもある事だ。
シルヴィは過去、ダンジョン深層で聖霊本体に力を求め、聖霊は条件付きの力を与えた。
それが世界に隠された真実、それを知ると同時に得た力は紋章の代わりとして身体を半聖霊化させる力だった。
シルヴィは人でもあり半分聖霊でもある。見える視点も複数の次元が重なり、人として生きる命を差し出し得た恩恵は莫大な身体能力だ。
力を求める理由はシルヴィと聖霊本体のみが知る誓約、聖霊本体は願いを叶える力を与え、シルヴィに紋章を宿す者を身体が朽ち果てるまで守り続ける誓約で呪った。
身体は半聖霊と変わって以降、姿が変わらなくなり歳を取らず老いることも無くなる。終わりなき紋章を守る守護者と変わった。
私はその話を聞き、目を丸く口を軽く開けて何も言えぬまま固まってしまったのだ。
約束を違えれば死ぬこととなる。半聖霊の死は生命に訪れる死と違う事、死んでも聖霊本体が許さない限り再び身体は蘇り、苦しむ事となる。身体の損傷で感じる痛みは軽減できず、苦しみ続けても解放されない隷属だった。
更に世界の話を知り力を得てもシルヴィに紋章が宿る事はなく、身体が半聖霊と変わっても世界そのものが定めた聖霊関係の秘匿は据え置きとなり、言葉に出したり書き記せばあの時のような苦しみを味わう事となる。
異常な苦しみ方、口から流れ出る大量の血は体内の内臓が次々と損傷破壊され、人なら激しい痛みで痛覚が麻痺する事も軽減されず死ぬまで拷問と等しい痛みを味わう。そして再び身体を戻し世界が赦すまで内臓の破壊が繰り返される。聖霊の誓約と世界の誓約がそれぞれ存在していると言う驚くべき事を知ってしまった。
一回目と同じように、二回目に聞いた情報量の多さは再度私の頭を発熱させ、倒れるように眠ってしまったのだった。
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