第5話 紋章の力、聖霊の秘密?

 夢なのか現実なのか理解できない状況は父様が助けに来てくれた事で助かったのだ。


 私は気が緩み意識を失い倒れてしまった。

 

 うぅ…ぁ…朝?


「ここは…私の部屋だよね、頭が痛くて重たい、身体怠いし、最悪な目覚めだよ…」


 朝の目覚め、いつもなら心地よく一日頑張るぞと言う気持ちが多かったが、今日の目覚めは全く違った。


 目を覚ますという事は同じだが、激しく体調が悪く、起きたく無いというのが本音だ。


 考えが鈍ってしまう頭の重さで原因を思い出し、記憶が途切れたやり取りを思い出し、私は勢いよく身体を起こしたのだ。


「シルヴィ!!」


 私がベッドで寝ていたのは父様が助けてくれた結果、シルヴィは血を沢山口から流していたので嫌な予感が強く跳ね起きたのだ。


 だが、身体は起こした瞬間に表現できない痛みを発生させ、私は耐えれず泣き叫んでしまった。


「痛!!!あああ!!全身が痛い!!」


 特定の箇所がではない全身の痛み、例えが見つからない痛みに頭はおかしくなりそうだった。


 再びベッドに身体を預け、僅かな範囲を転がり痛みが収まるのを待つしか無いのだ。


 耐える必要がない涙、溢れ出す汗、気にする余裕のない状態だったが、その間にメイドが治癒者を呼び一時的に鎮静化した。


 特別な薬を使用した鎮静化は意識が薄れて再び眠ってしまうのだ。


「あ…れ?似た起き方したような…」


 二度目の目覚め、幸いなことは一度目のような痛みは薄れていた事だった。


「目が覚めたようだな、クラウディア身体はどうだ?」


 私がベッドから身体を起こして良いか迷っていた所、入り口側より父様の声が聞こえたのだ。


「父様、身体ズキズキ痛いです。」


「無理もないだろう、話は次来た時にでも…」


「大丈夫です、先に助けてくれて嬉しかった、ありがとうございます…」


 あの絶望すら出来ない時に助けに来た父様はとてもカッコよく、同時に抗えないと感じた相手を退けた力が勇ましく、そして私とは違う卓越した力を感じたのだ。


「他人行儀な言い方だな、親子で遠慮は要らないぞ、無理はするな、大丈夫ならば少しだけ話すとしようか、寝たままで良いぞ。」


 父様は私の言葉に少し笑いながらそう言う。


「色々知りたい事も聞きたい事もあると思うが、まず先にシルヴィアが生きている事を伝えておこう、何よりも先に知りたかっただろ?」


「生きてる、よかった…父様ありがとう…」


「今は身体を休めている暫く会えないだろう。さて、この先を話す前に少し待ってくれ。」


 父様はシルヴィの無事を話し、身体を休ませる必要があると、それは同時にあの時見た血の量を思い出させ、何かの怪我を負っていたと思ってしまった。


 私が怪我の度合いを聞く前に、父様はやるべきことがあると言い、部屋の内に待機しているメイドを部屋の外に出したのだ。


「この部屋は防音室では無かったな?」


「う、うん、普通の部屋のはず?部屋の中から呼べばシルヴィいつも来てくれてたから普通?って私普通以外は知らないですよ。」


 父様が言う防音の意味は理解できる。理解できるので、私の部屋は普通だと答えた。


 シルヴィだけではなくメイドも呼べば入ってくる。それが普通だと思っていた。違う部屋など考えた事もなかったのだ。


「ああ、変な言い方をしてしまったな、内部の音が部屋の外に届かない一部の部屋があるのだ。領主邸となる前から存在した部屋だが、俺も全ての部屋を把握してないから時々忘れてしまう。とは言っても普通の生活には困らないからな、知らなくても困らないぞ!」


 父様は私が把握していない事を指摘すると感じたのか、軽く流すようにそう言ったのだ。


 以前より存在していた場所を改良増築したのが領主邸となる。昔は城として使われていたので所々が堅牢な作りとなる。住んでいた人の事や過去の情報は以前調べてみたが分からず、父様も詳しくわからないと言うほど不思議な所だ。


 不思議な城に存在していた防音室、内側の音が外に漏れない必要性、私は深く考えない方が良さそうだと思った。


「我が前に現れよ、紋章に宿る聖霊サラマンダー、紋章解放!!」


 父様は私の知らない紋章術を発動させた。


「部屋の中で危ないです!!」


 私は咄嗟にそう言う。


 理由は簡単で、私の場合は右腕、父様の場合は背中に宿る紋章は発動時に力が解放され耐性のない服は燃えてしまう。助けに来た時は騎士甲冑で防げた炎も通常の服では耐えれないはず、服もそうだが部屋が燃えたりするのでは?と思った。


 その心配は必要なく、背中に紋章が浮かぶ事もなく、何か起きたようには見えないのだ。


 私は辺りを見回すために身体の痛みを堪えて上半身を起こした。


「あれ?紋章でない、父様が失敗するはずもないし、何で?何でです?」


 父様の周囲、部屋を見回すが燃えるどころか光すら出ていない、私は頭にハテナを浮かべて首を傾げた。


「あの空間に閉じ込められたならば通常時も見えると思ったが、まぁ少し待ちなさい。サラマンダー、部屋全域を聖霊結界にて遮断せよ!」


 部屋の内側に何か力が広がる。


 私の身体も何かの力が通過するように一瞬だが、あの時感じた恐れを少し感じた。


「これで良し、外に声は聞こえないはずだ。」


「一体何をしたので…えっ!?部屋の中に少し大きくて太った赤いトカゲ!!」


 父様の隣に先程までは見えなかった真っ赤なトカゲが居たのだ。


「ははっ!太ったトカゲか、確かにそう見えなくも無いが、太ったトカゲ…はははっ!!」


 父様は私の例え方が笑いのツボに入ったようで、楽しそうに何度か声に出し笑い、笑いすぎて苦しいとまで言ったのだ。


 えええ…父様のイメージが崩れていくよ…


「あー!!この血筋はどれだけ無作法者が多いんだよ!全く俺様がどれだけ力使ったと思って…」


 父様の隣に現れたトカゲは両足と尻尾を器用に使って上半身を伸ばすように立ち上がり、トカゲとは思えない両腕を組み合わせ威張りつつそう言ったのだ。


「太ったトカゲが喋った!!」


 私は純粋に驚き言葉に出したが、父様は再び笑ってしまったのだ。


「すまんすまん、クラウディアに紹介しよう、俺の紋章に宿る聖霊サラマンダーの霊体だ。」


 父様は隣で不貞腐れたように頭を壁側へむけるトカゲに謝り、頭を撫でて機嫌をとりつつ、そう言ったのだ。


 な、なんて?私聞き間違えたかな…


 いや夢の中とも考えられるね!


「私もしかして夢見てます?」


「いや、現実だぞ、本当ならあの日の制御を教える際に紹介するつもりだったが、かなり特殊な状況になってしまったからな、予め伝えておくが、例外を除き紋章の事は本に載る以上の話は出来ない。その例外は紋章を持つ者のみだ。」


 父様は現実と答えた後に本と違う力を父様が何度か使った事を裏付けるような、本に載る力は一般的な表面程度の力だと言う。


「まてまて、その伝え方は少し間違っているだろ!紋章を宿すだけならタダの人、一度発動できないと知る条件を満たしてないぜ!」


 サラマンダーと紹介されたトカゲは父様の話が言葉足らずだと話し、そう補足したのだ。

 

「頭がおかしくなりそう、えっと紋章の事は一般に話せる力と話せない力があるって事で、それを話せるのは紋章を持つ人だけで、更に一度発動しないと知っちゃダメって事です?」


 私は上半身を起こしたまま情報が多く困惑する頭で軽くまとめ首を傾げつつ合っている?と言うように不安な顔でそう言ったのだ。


「その通りだ、正確には違うがシルヴィアが倒れた原因と思っても良い、要はそれだけ力が強い事にも繋がる。だからこそ、使える場面が限られると言う事だな。」


「ふん!そして俺様がその聖霊様だ!」


 父様の隣で威張るように体を伸ばし威厳溢れる仕草でトカゲはそう言ったのだ。


「あ、はい…頭おかしいのかな、そもそも聖霊が存在するって事もあの日までは考えた事無かったから現実味が感じないかも…」


 そう、実際にシルヴィから話を聞いた時も思ってしまったが冒険譚に出てくるだけで実際に存在しているとは思ってなかったのだ。


 紋章について記される本には魔力歪みを抑える力、限られた血筋に宿り各属性の力を引き出す魔法より卓越した力だと書いてあるだけだ。


 魔法は魔力を全ての生物が持つ為、細かく記され研究や使い方が日々改良されている。紋章は宿す人が限られる。書いてある事が限られる以上に詳しく知りたいと思う人も少ない、魔力歪みを正す力と思う程度だ。


「ふん!俺様の凄さを理解したようだな!崇めても良いぞ!特別に頭を撫でさせてやる!」


「まてまて、話が逸れるだろ…聖霊の姿を変えた証が紋章と呼ばれる。このサラマンダーは俺の紋章でもあると言う事だ。」


「紋章術使っても父様の背中に浮かばなかった事と服が燃えなかったのは聖霊として出現したからって事です?」


「よく理解できたな、その通りだ。本来は紋章発動時それぞれの象徴となる属性現象を宿す。服が燃えるのは紋章周辺に力が流れる為だ。この場にサラマンダーが存在する限り、俺の背中には紋章が存在しない状態だ。」


 父様は私の考えを正解だと言うように、紋章について教えてくれたのだ。


 紋章が浮かばないではなく存在しない?変な言い方に聞こえたけど、考えすぎだよね。


「クラウディアが紋章を発動させた時は、命の危険性が迫った時ではなかったか?」


「えっと、あの時はシルヴィとの模擬戦で疲れて死にそうな時だったかな、一瞬意識が消えて受け流すタイミングがずれたから脳天直撃コースだった。あっ!と思った時に右腕に紋章が浮かんで木製の剣を燃やして防げましたね。」


 私は紋章が発現した事を思い出し、父様にどんな状況だったのかを思い出し話したのだ。


「いや、まさか、本当にそんな状況とはな…」


 父様は私がシルヴィとの模擬戦をしている事を知っていたはずが、本気で倒れるまで毎回行っているとは思っていなかった。シルヴィと今後の事を話す必要があるなとも言ったのだ。


「模擬戦で命奪う攻撃って、俺様が言うのもだが、本当この領地狂ってるな、嬢ちゃんの話を聞く限り身体が危ないと感じたんだろう。」


 サラマンダーは若干引き気味で発動したきっかけに間違いないと言うのだ。


 何でだろ、聖霊の存在自体普通じゃ無いのに、普通じゃない聖霊が言うほど領地狂ってるの?

 

「こほん!この領地は狂ってなどいないぞ!話を戻すが、紋章が宿る身体は言い換えれば聖霊の身体にも近い、だからこそ、宿した者を守ろうとする。単体で俺達と同じ空間に存在できない、宿す者を通じてのみ存在できると言う事だ。」


「その通りだぜ、俺様達は世界そのもの、見ている世界が目線が違うからな!だからこそ、俺様を崇めても良いんだぜ!」


 サラマンダーは威厳溢れる聖霊とは感じない仕草で褒めて!褒めて!と言うように見える。


「いや、今ここに居るし見えてるし…」


 私はサラマンダーをジト目で見つめた。


「俺が呼び出したからな、聖霊召喚と言うのだが、意思疎通した上で互いに認め合わなければ呼び出せない、俺が出てきてほしいと頼んだ結果同じ空間に現れたと言う事だ。」


 父様は聖霊召喚が特殊だと、呼び出す側の意思だけでは満たせず聖霊側も応じる必要がある。その結果、同じ領域に現れ初めて姿を見る事ができると、見えない事が普通だと教えてくれたのだ。


「仕方なくだがな!嬢ちゃんの状況が特殊だから説明義務はあると思ってのありがたい行為、頭を撫でさせてやるぜ!」


 何なのよ、父様に触られてた姿は嬉しそうだったけど、このサラマンダーってトカゲ頭触られるの好きなの?ある意味面白可愛いかも…


 何かあるたびに上半身を伸ばし、褒めて欲しそうな言い方をするサラマンダーはあの時感じた恐怖や聖霊と聞き凄い存在に思っていたが、今では可愛らしいトカゲという認識だ。


「えっと…父様の話を纏めると、領主の血筋が持つ紋章はそれ自体が聖霊で、宿した者に危険が迫れば発動して守ってくれる。そして互いに認め合った場合は通常紋章とは異なる力が使えると…言う事ですよね?」


「概ね正解だ、本来聖霊が存在する空間は特殊だという事と、互いに共存関係でもある。俺達は聖霊の力無しで暮らせないからな…」


 父様はほぼ正解だと話し、複雑で細かい話になる為割愛されたが、私達の世界に聖霊は元々存在しているが認識できず触れる事も出来ないと、次元が違うらしい事を少し話してくれたのだが、それこそ意味不明、私はベッドの上で頭を抱えていた。


「あれれ、何の話してたっけ…うーあー紋章って何なのよ…頭痛くなってきたかも…」


「おい!嬢ちゃん頭抱えてるぞ、不要な話をすると混乱するんじゃねぇのか?」


「不要では無いと思うが…紋章制御を行うまでは危険と判断する度勝手に出てくる為、なるべく早く制御を教える予定だったのだ。」


「あれ?でも命の危機に現れるなら死にそうな時に守ってくれる嬉しい事に思えるけど違うのです?」


 私が体験したような自分が判断できない命の危険時に助けてくれる嬉しい力だと思った。


「危険という判断が違うのだ。クラウディアが言うように死が身近に迫る際、現れ守ってくれる。これだけなら凄く良いのだが、体験したような模擬戦でも発動する。誰かに剣を向けられたら現れ、害を無力化する。誰が味方で誰が敵と区別せずに危険という判断すら曖昧な無差別と等しい力だな。」


「えっ…てっきり木製の剣が燃やされたみたいになるだけだと思ったけど…人に影響なんて…あれ?でもでも、あの時シルヴィは無事だったよ?」


「シルヴィアは紋章を知っているからな、対処法がある。だが、普通は知るはずもない、模擬戦の相手がシルヴィア以外の時はあったか?」


「そう言えば、いつもシルヴィが相手だった。」


「制御ができないと相手を殺してしまう。だからこそ制御が絶対不可欠という事だ。」


 私は父様の言う意味を理解できた。


 守ると言う範囲が広すぎる為、制御できないと危険極まりない力と言う事だ。


「おい、今の話一部抜けてるぞ!俺様達が宿主を守る際に殺意や強い魔力も含まれている。これは宿主に向けられなくても無差別でやっちまう危ない範囲だぜ!」


「何それ…仮の話だけど私が街で該当する人と出会ったら無差別で殺すって事なの?」


「その通りだ。それで早く制御を覚えてもらう予定だった。一度目の発動以降の話で初めての発動には予兆がある。これまで街に出かけて何も無かったのは見極め許可したからだ。」


 父様が制御を早く教えようとした理由は納得できる。隣のサラマンダーが予兆とは心の揺れだと話し、宿主の心が乱れてしまうと現れやすい為、模擬戦の時は疲れていた事で曖昧な意識が原因だとも教えてくれたのだ。


 私はこれまで紋章の事を全く知らなかった。


 歪みを正す力で扱えるのは凄いと簡単な考えで、実際は強力な力に強い代償がある事、制御できなければ人を殺してしまう恐ろしい代償だ。


 毎朝シルヴィが体調を聞く理由も、所々の休憩時や街でもよく聞いた理由が理解できた。


 そう言う事だったんだ…


「そんな危ない力を知らないまま持ち歩いてたとか怖すぎます!もっと早くに分かってたら自分でも気をつけたりできそうだけど、あっ!それには発動しないと聖霊について知れないからって事なんだ…」


「嬢ちゃん飲み込みが早いな、その通りだぜ!聖霊が各領地を維持する仕組みに変わった事で守らないと大変な天罰を受けてしまう。身体の内側で次々と内臓が潰れていくとかな…」


 サラマンダーは私を褒めて、話の規模が大きい事を少し話し、シルヴィの身に何が起きたのか分かるように怖い話を続けて言ったのだ。


「内臓が…想像したくない…」


「無闇に話さなければ問題はない、基本は聖霊召喚した所で姿も見えず声も聞こえず、紋章の覚醒度合いで見えるようになる。クラウディアがサラマンダーを見えなかった理由だな。」


「私なら見えると思ってましたよね。実際は見えなかったですが、すぐに見えるようになって、ん??どんな仕組みですか?」


 私は父様がサラマンダーを召喚した際に見えると思っていたような言い方をしていたと思い出し、その後見えるようになった事も含めて気になり、そう確認したのだ。


 サラマンダーは誇らしげに話ができる事を嬉しいのか、聖霊と呼ぶより可愛いトカゲが偉そうに話しているとしか見えなかった。


「軽く話すつもりだったが、サラマンダーが話したがっているので御高説願うとしよう。」


「ようやく俺様の事を認める気になったようだな!よし、説明してやるからしっかり聞いてろよ、嬢ちゃんが巻き込まれたのは察しの通りあの娘が誓約を破った事が発端だ…」


 サラマンダーは誇らしげに話をしてくれるようで、シルヴィは聖霊を言葉に出す条件が特殊で、錯乱した結果口走り誓約を破った裁きを受ける事となる。しかし、聖霊は同じに見えるが同じではないズレた次元に存在するので干渉するには紋章宿主による発動もしくは、聖霊側の次元に引き摺り込むしかない。通常は誓約を破った者が突然姿を消し精霊側の次元で裁きを受け死ぬ事を淡々と話したのだ。


 私が人を呼び続けた食堂は聖霊の次元なのでメイドがいるはずもなく、叫ぼうが音を大きく立てようが誰一人として来なかった理由だ。


 サラマンダーは少し間を空けて、再び話を再開する。


 偶然あの場に居合わせた事で、シルヴィだけが連れ去られるはずが、私の紋章が身の危険を感じた結果、対処を試みようとする。しかし、対処すべき存在が違う次元にいる為、シルヴィの次元移動に巻き込まれる形で対処を試みた。


 誓約の主こと罰する存在は聖霊本体、紋章の聖霊は聖霊本体が身を分けて生み出す子供のような存在で、シルヴィについて行ったが子が親に敵うはずもなく、次元を移動した先で力を一時的に失ったようだ。


 私は父様が紋章の制御を早めに考えた理由がよく分かり、今回の状況は特殊で本来ならありえない、これまで知る限り起きなかったとサラマンダーは教えてくれたが、無差別の紋章発動はとてと危険だと理解できた。


「大体わかりました。それで叫んでも誰一人として来なかったと、巻き込まれたってそう言う事だったのね、確かに紋章が微かに光ってたけど、話聞かないと全く分からない状況だよ。」


「理解が早い奴は俺様も好きだぜ、とっておきの秘密も教えてやろう、一部の奴らは知ってる話だが、領地を守り恩恵を与える聖霊は呼び出す事が出来ねぇのさ、だから引き摺り込む必要があった。それは嬢ちゃんの紋章が反応してついて行った原因でもある。こちら側に本体は来れない、だから俺様達のように自身の力が及ぶ領地に紋章として本体の一部を宿させる。俺様も他の紋章の聖霊も個々の存在と思う反面、本体から切り離された一部に過ぎない事よ!」


「へっ?」


 途中までは理解していたつもりだったが、付け足された情報が予想を超えて膨大な為、私は頭がおかしくなりそうだった。


「待って待って!聖霊って沢山いるよね?」


 紋章が聖霊ならば紋章を宿した人がいる数だけ聖霊が存在する。


 父様やサラマンダーの話を聞きそう理解していた私は理解を超えた話に躓いたのだ。


「世界全てで見れば確かにそうだな、大陸の全領地で考えるなら五体しか聖霊は居ないぜ、各領地にそれぞれ本体が存在、その本体は遥か下の別次元に存在している。理由あって離れる事は出来ない、そこから領地に力を与え、領主の血筋に領地に迫る魔力歪みを処理できる力として、俺様のように本体の力を僅かに持つ存在を紋章に変えて宿しているのさ!」


「ええ、え…本体?は力の一部を切り離し紋章に変えて宿しているって事?でもそれ、それだと複数存在しているような…例えばこの場なら父様と私で紋章が二つ、聖霊二体いるって事にならないの?」


「ならねぇな、複雑で話せない事もあるが、俺様の本体はサラマンダー=イグニスって名前だ。俺様はその名前の一部と力の一部を紋章と変えた存在、つまり自我も意識もある程度あるが、個体認識はされないって事だ。嬢ちゃんの紋章が身の危険を感じ対処すべく巻き込まれたが何もできなかったのは対処する相手が自分自身だったって事だ。細かく話せば違うが、領地に宿る本体の一部が紋章と思えばいいぜ!」


 サラマンダーは困惑している私に話しにくそうな様子で可能な限り話をしてくれた。


 父様もサラマンダーの話が終わった後に深くは理解していないと、幻みたいな扱いにも等しく本体が目覚めれば紋章に変えた一部を戻す事もできる為、複雑だと教えてくれたのだ。


 私は複雑な話を掻い摘んで覚えようとしたが、話が壮大で頭がクラクラし始めてしまう。


 体調が万全ではなく、熱が出てしまった為、話はここまでにと身体を休める事になった。


 聖霊召喚を再び発動させると、サラマンダーは見えなくなり、私は見えるようになった理由や、あの特殊な次元で声を聞いたのが本体なのか、私の紋章にもサラマンダーが宿っているのかを聞きたかったが、私の身体は意識を手放し眠りについてしまったのだった。

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