第9話 地下深くの螺旋階段とダンジョンの入り口
私は紋章制御を会得する為待ち合わせの場所に移動中だ。
何処からダンジョンに移動するのか、ダンジョン自体が危険と知った事で簡単には入れないと思っていたが、予想外のよく目にする中庭に移動すると、資材置き場が入り口と言った。
複数の鍵があり、そこそこ広い資材置き場は窓が無い事や堅牢で重厚な扉、普通に考えると不釣り合いな場所で、複数の鍵を使い扉が開かれワクワクしながら中に入ったのだが、いつもと変わり映えがない内装に、私は頭の中でハテナを浮かべていた。
時間があれば手探りという選択もあるのだが、今回は既に父様が先に移動済みで、シルヴィアは慣れた手つきで四隅の柱を手際よく触れて回る。
一箇所触れる毎に何かの作動音を発し、四隅を触れ終わると部屋の中心に台座が現れ、鍵穴が顕になる。
私は初めて見る仕掛けに驚いていると、一連の仕掛け作動は終わり、少し大きく綺麗な宝石がついた鍵を台座に差し込んだ。
「これで終わりです。少し後ろにお下がり下さい、そこは危ないですよ。」
シルヴィは驚いていた私にそう声をかけ、えっ?えっ?と周囲を見ていた私だったが、床が僅かに振動し始め、言われた通りに壁際まで移動したのだ。
な、何よ…ってこんな入り口…ありえない…
って!床が動くから危ないと伝えてよ!
私は予想外の床が跳ね上がるとは思っていなかった為、心の中だけで抑えておこうと思った小言を声に出して指摘してしまう。
シルヴィは一から十まで言わないと動けないのかと受け取れるような手厳しい言葉を返し、私はむっとした表情で無理やり納得した。
「私が注意不足って事でいいや、それよりも入り口ってこんな感じなんだね、ダンジョンは様々な入り口があると教えてもらったけど、床が跳ね上がるのは予想外だったよ…」
「確かに扉の場合や落とし穴のような場合もありますね。現在確認できているのは発生の仕組み上地下に繋がるような現れ方で、扉の場合も地下室のような現れ方と聞いています。」
シルヴィは私の言葉にしっかり答え、やはり学んだ通りダンジョン毎にそれぞれ違う入り口があるとの事だった。
先頭を歩いてくれるようで、シルヴィはしっかりついてくるようにと、私に伝える。
広くは無いが下に降りれる階段、数段空けて私は後ろに続くよう降り始めた。
地下だからだろうか?
空気が変わるように肌寒く、鳥肌が立つような気持ち悪さを覚える。
「それにしても薄暗い、しっかり見て降りないと階段怖いかも…」
私は数段先が見える程度で、何処まで降りるのか先が見えない闇に足を進めている。
感覚では螺旋階段の作りと分かる降り方で、最小限に最大限の作り方と感じた。
薄暗いと少し怖いかも…
私は言うと何を言われるかわからない為、口をモゴモゴ動かす程度で気持ちを抑える。
「そろそろ入り口の床が閉じる頃合いでしょう、少し止まって下さい。」
「えっ?閉じる?えっ?」
私はシルヴィのいう意味が純粋に理解できず、聞き返すように意味を尋ねると、身をもって理解させるように僅かだが感じ取れた光がスッと無くなり、閉塞感と息苦しさを強く感じた。
「真っ暗!怖い!それに息苦しいかも…」
「慌てないで下さい、これは此処特有の仕掛けです。床が閉じただけです。光源を出しますので、その間深呼吸でもしていてくださいね。」
手厳しいよ!!
私はシルヴィの返しに心の中でそう言うと、言われた通りに深呼吸を繰り返した。
実際冷静に考えてみればわかる事、父様は先に移動していたが資材置き場もダンジョン入り口となる床も仕掛けが全て作動前だった。
つまり、一定時間で仕掛けは元の状態に戻ると注意深く考えれば、資材置き場に辿り着いた時点で理解できたのだ。
シルヴィは模擬戦の時も常に考え思考を止めるなと、よく言うのだが、その意味が身をもって理解できた。
私って注意散漫なのかも…気をつけないと!
ヨシ!と私は気合いを入れ直し、冷静になっても閉塞感は変わらず、暗闇は私の心を掻き乱すように人が誰しも持つ恐れを感じさせる。
ゾワゾワと耐えきれない何かが込み上がり悲鳴をあげそうな私だったが、正面から暖かく優しい赤熱の光を感じたのだ。
私はシルヴィが光源として取り出した道具を明るく照らされた事で視認できるようになり、ランタンの形状によく似ていると感じた。
「火のような暖かさ…ポカポカで心地いいかも、それはランタン?それ何処に持ってたのよ…普通のランタンとは違う感じだね。」
「ランタンをご存知でしたか、もちろん腰に下げて今回使う目的で持ち込んでいましたよ。敵味方問わず相手の姿を見て何を持っているのか、もっとよく観察するべきでしょう。」
シルヴィは私がランタンを知っていた事を褒めたと捉えて良いのか、違う意味なのか不明な言葉と、鋭い刃物のような手厳しい指摘を繋げてたのだ。
「光源に時間制限がある為、降りながらお話しいたします。先程よりも明るくはなりましたが、暫く階段を降り続けるので足元に十分注意をして後に続いて下さい。」
シルヴィは私を心配するように再び足元を気をつけて降りろと話し、進み始めた。
私は足元を見ながらシルヴィにランタンで良いのか違うのかを再度確認する。
シルヴィは本来のランタンと違うと言った意味を簡略的に教えてくれたのだ。
持ち歩いたり置いたりと一定の明かりを維持できる道具、燃える物を内部に入れて一定時間火を維持させる物が一般的なランタンのようで、今回使ったのは特殊なランタンだった。
明るく光を放つのは燃焼石と言う少し変わった特性の道具を専用の器具に入れると、一定時間周囲を照らす事ができるのだ。
物質を燃やしたりせず、石自体に込められた火の力を増幅して周囲を照らしている仕組みらしく、燃焼石はかなり脆い上に専用道具以外では使い道がないらしく、市場に出回る数は少ないと知った。
宝石のような石を想像していたが、薄ら赤く光る石で少しでも火の力が蓄えられた箇所が砕けると粉々になり力が失われてしまう脆さ、燃焼石という言葉から火を出したり投げれば武器の代わりになると考えたが全く違う物だった。
シルヴィは簡単に話をまとめてそう話し、単純な魔法具という事を、私は理解したのだ。
「大体理解できた、その魔法具に例えば純粋な火魔石を入れたら同じように照らされる?」
「試した事はありませんが、間違いなく魔法具が耐えきれずに燃えるでしょうね。簡単に専用道具とお話ししたのは言葉通りで、脆く簡単に力を失う石を一時的に失わせず維持させる道具なのです。つまり拡散して消滅する魔力を押さえ込む為、火魔石のような武器として使える魔法道具に耐え切れないでしょうね。」
私は純粋に気になったので確認した所、シルヴィはしっかりと、そう教えてくれたのだ。
属性魔石は高級な魔法道具、投げれば内側に蓄えた魔力を解き放ち周囲に効果を与える。消耗品だが高価で、一部武器や防具の加工に使われたりと求める声は多い反面、入手経路が限られている。ダンジョンの副産物や外界遠征で入手できる程度だからだ。
私は火魔石を例に出したが、シルヴィの返答次第では毎晩蓄えている魔力が籠る石を利用できるのかと考えた為だが、魔石のような魔法が宿る石では無いにせよ、ランタンの仕組みを聞く限りでは使う事が難しそうに感じた。
話しながらの螺旋階段を降り続けるのはなかなか集中が必要で、足元がとても怖いのだ。
ヒヤヒヤしつつ降り続けると、シルヴィは後少しで階段が終わる事を教えてくれた。
「そうでした、先にお伝えする事が…」
シルヴィは思い出したように伝える必要がある話しをし始める。
それは特異性の高いダンジョンの注意でもあり、全てのダンジョンが同じでは無い事を念頭にとても濃い魔力が充満するダンジョン内部はとても危険で、極力無闇に動かず焦らず冷静さを常に保つ事、何か得られる物を見つけたとしても拾わない事、常に警戒を怠らない事を、私に話したのだ。
私は言葉の意味自体理解できるのだが、わざわざ伝える必要があるのかと、疑問に感じながら気をつけると返事を返したのだ。
「ここで階段は終わりです。」
シルヴィが終わりを告げるので、私はホッと一安心した。
光源があるとはいえ閉塞感は強く息苦しさを感じていた螺旋階段、降り始めよりランタンを使い始めてからは視界が見やすかったが、それでも闇に向かって降り続ける事に変わりなく、自然に不安が募り続けていたからだ。
しかし、若干私が想像していた場所とは異なる階段よりは広いが閉塞感を感じさせる資材置き場より狭い四角の暗所だった。
シルヴィは腰に付けていたランタンを取り外すと、少し段差があり物を置く事ができる場所に自然な流れで置いた。
すると不思議な事に薄暗い暗所はパッと明るく照らされ、全体をよく見えるようになったが、驚く事に前後左右上下全てが土のような壁で覆われていたのだ。
「明るくなったけど、何ここ…狭くて息苦しい場所で何をするのよ…父様もいないし!」
私は声に出さない選択はない現状に、直感的な感想を込めてシルヴィに伝えたのだ。
「何か勘違いしていませんか?」
「勘違いって何をよ!」
「いえ、待ち合わせの場所はダンジョン内部ですので、ここは入り口ですよ?」
シルヴィは明らかに説明しなければわからない事を知っていて当然と言うように言った。
「説明不足すぎる!階段現れてダンジョンの入り口の話したら誰だって思い込むでしょ!」
うがーっ!!
と抗議を示すように両腕を上げて、私はシルヴィに分かるはずがない勘違いさせるような話をしたほうが悪いと伝えた。
「確かによくよく考えると…私の説明不足ですね、大変失礼いたしました。」
よくよく考えないと説明不足って感じないのね…いや、まぁ、そんな性格って知っていたけど、何というか説明してほしかったよ!!
ダンジョンは特殊な魔力溜まりが作り出した異次元に等しく、だからこそ地下に地上があったり、空があったりと不思議な場所だと言う。
言われてみると階段を降り続けるだけで特に景色が変わる事もなく魔生物が現れることもなく淡々と降り続けていただけだ。
そう、ここは領主邸の地下深くに作られた小部屋と等しい入り口という事だった。
地下深くだからこそ肌寒さも感じ、閉塞感は実際にその通りで、息苦しさも当たり前だと言われてしまった。
意味ありそうな仕掛けが閉じて光が消えた後に光源を取り出した事も深い意味はないらしく、私に仕掛けが自動で閉じると体験してもらう為光源の使用を遅らせたとも今更言うのだ。
「それだけこの先が特殊という事です。無闇に人が近寄らない為にも厳重な仕掛けを施し、事前に光源を持たなければ弊所ゆえの自死を選ぶ、どこまで降りれば良いのか不安を感じさせる螺旋階段もその為で、既にご存知かと思いますが、領地の根本に関わる深部、簡単には辿り着けないという事です。」
シルヴィは私が説明不足といった事が効いたようで、本来事前に話すべきことを言うのだ。
私もワクワクと不安で考えが疎かだったと理解できる。少し考えれば聖霊本体という領地全てに力を分け与える存在が簡単に会えるはずもなく、それどころか濃い魔力は普通の人なら猛毒で近寄るだけでも危険、そう考えれば地下深くに入り口があることも納得できるのだ。
何も無い壁にシルヴィは掌を向けると、右腕に薄ら宿る紋章と同じ模様が赤く浮かび上がり、強い熱量と共に燃える扉が現れたのだ。
「では、危険なダンジョンに入りましょう。」
シルヴィは現れた扉は正真正銘のダンジョンだと話し、少し笑みを浮かべ私に手の差し伸べ前に進む勇気を分けてくれたのだった。
うん!そうだよね!
臆している場合じゃ無い!
紋章制御を覚えて他の人に被害を…違う、違わないけど!もっと強い目的!あのトカゲを召喚したい!!
あの後父様に頼んでも呼び出してくれないサラマンダー、一つ一つの仕草が可愛いトカゲに再び会うために私は何としても制御を覚える必要があるのだ。
シルヴィが差し伸べる手を私は握り、一歩前に足を進ませ、自動で開く燃える扉に入って行ったのだった。
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