第2話 朝の鍛錬と美味しい朝食

 毎日繰り返し行う事は楽しくて好きです。少しだけ付け足すなら模擬戦のシルヴィが手加減してくれない事、少しずつ強くなりたい気持ちが私を常に歩ませる原動力だと思います。


 前回の酷くやられた日、身体がもう嫌だと軋む音を出し、流れる汗と共に意識を失い、後で知った話ではシルヴィが相当狼狽えて私が倒れた事を謝り続けていたようです。


 そのおかげでというのも変ですが、あの時出された問題は忘れる事なく覚えることに成功したので身に染みた結果という事でしょう。


 いつもと同じ時間に目を覚まし、窓を開ければ爽やかな風と鳥の囀りに心地が良い。


 領地の特徴が朝の気候は過ごしやすく、昼になる頃熱くなり、夕方以降は寒くなる。


 特に夜は窓を開けてしまうと、爽やかさは消えてなくなり凍えるほど寒さに窓を閉じる。


 寒さとは別に夜の庭は幻想的で、朝の爽やかさ、昼間の暖かさ、夕方の冷たさとも別で見上げれば夜空に現れる星を目にし、庭を見れば感覚的に設置される魔法具が周囲を照らす。真っ暗までは行かなくても少し先が見えにくくなる。費用面を考えれば松明で明かりをつけるべきかもしれないが、庭は花や木があるので燃えないようにと再利用可能な魔法具が使われている。領主邸の中も設置され、部屋にもある。魔力が満たされた燃焼石を媒介として周囲を照らす仕組みは便利な反面安くもない、あくまで念には念を入れてと知る限り昔から行っている。


 私は目が覚めた後両腕を伸ばしストレッチを行う。


 コンコン!


 扉がノックされ、シルヴィが入ってきた。


「クラウディアお嬢様、おはようございます。」


「シルヴィおはよ!」


 丁寧に朝の挨拶をするシルヴィと違う軽い私の挨拶、気の許す仲ならもっと砕けても良いと以前より言っている。それでも前は姫様と意味不明な事を言っていた時よりだいぶ良くなったと私は思っている。


 毎朝の挨拶を終えると、恒例となる朝食前の鍛錬、これは剣技の確認が主で剣技を使えるようになれば終わりとはならず、繰り返し使う事で鋭さを増し卓越した剣士は一振りが必殺級と鍛錬を重ねる事で変化する。


 初めは嘘だと思った事だが、シルヴィが木の的を木製の剣で綺麗に切断した時は理解できず驚いた事を今でも覚えている。


 汗をかく兼ね合い動きやすい服に寝巻きから着替えをする。正確には着替えさせてもらうが正しく、一人でできるのだが、メイドに着替えさせてもらうのが普通らしく意味は不明でも受け入れているのだ。


「いつもの服装でよろしいですか?」


「うん、動きやすいからね、あっ!髪も少し高めで髪留め付けてくれるかな?」


「お任せください。」


 シルヴィの声が少し甲高く、これは気分が良い時の返事で、表情に出にくい分声に現れやすく、最近は相手の様子を見定めるという行為を一人内緒で行っているのだ。


 うーん、でも皆が思ってるほど無表情でもないし、どちらかというなら揶揄うタイプだよね。皆ももっとシルヴィと話せば良いのに!


 私はそんな事をムフムフと口を動かし考えていると、シルヴィが「よからぬ事を考えている表情ですね。」と意味不明な事を言う。


 シルヴィ曰く、動きやすさを追求した結果寝巻きに近い薄手だと、もしもの時を考えるならいつもの服で行うべきかもしれないけど、スカートだけでもヒラヒラが沢山あり上着もフリフリがついている時点で想定外となる。


 何度か行ってみたが、通気性の関係か汗がすごくなり、内側が蒸れてしまう為面倒でも着替えをしているのが理由なのだ。


 そんなこんなで準備を終えると、長い廊下を歩き階段を降りて鍛錬用に作られた中庭に向かう。周囲に香りが良い花があり、端には様々な防具や木製の武器、刃引きされた鉄武器、弓と矢のように一式が揃っている。他領に比べて交戦的な領地らしく、騎士や兵士の練度も高いと聞くが、私は正直よくわからないのだ。


 テーブルの上に果実水が置かれ、水分補給をしている間に準備が進む。


 複数の木の的が離して設置される。


 私の得意とするのは片手剣、父様は特大剣で姉様は特殊大剣、私は身長や力の兼ね合い真似する必要がないと師匠にも言われ、結果的に片手剣を使い空いた片手で魔法を放つスタイルを鍛えている。


『ほう、片手剣ならまぁまぁ使えるな、喜ぶと良い丁度使えそうな戦い方を思いついたぞ!』


 師匠の声が脳内で再生される。


 豪胆な変わり者と呼ぶべきか、旅を繰り返す兼ね合い争いごとに巻き込まれることもある。だからこそ、魔法だけ極めるなら死ぬとまで言われた。


 いろいろ話を聞き分かったのは普通の魔法使いとはどんな感じなのかだった。


 杖や触媒を持ち詠唱して魔法を使う。魔力が切れれば戦えず、知能に能力の大半を割いた結果体力もない。つまり魔力切れは死ぬことと同じという事を学び、その対処法も教わった。


 一つ目は近づかせない密度の魔法で制圧する。二つ目は超火力で魔力切れになる前に焦土と変える。三つ目は超遠距離より離れて魔法を使う。四つ目は魔力が切れたら剣で戦う。


 と言ったように出鱈目で無茶苦茶な事を言う人なのだ。


 その無茶苦茶をやってしまうのが師匠で、魔法使いの中でも稀代と言われる所以らしい、実際近くの森が跡形もなく消し飛んで今では何故だか池に変わっている。


 魔法を制限しても騎士より強く、本人は『人より少しコツをしっているからな。』とその意味が強さの意味に繋がるとは思えない事を平気で言う人だ。


 時々まるで心を見透かすように悩みを当てたり、変わった杖を持ち歩いても魔法使う際は手にもたなかったり、父様や姉様が扱う領主に伝わる魔法剣を見様見真似で使ってみせたり、年齢的にはシルヴィと同じぐらいのはずが、父様よりも歳をとっているような昔の話をしたり、とにかく人を揶揄うのも好きなお茶目師匠、長い帽子は身長を高く見せる為とか言うほどだ。


 数ヶ月しか教えてもらえなかったが、その間に教わった事を今も続けている。寝る直前には魔力を空にする事も一つだ。


 身体が痛み軋むまでは動かし、軋んだら休む。裏技と言って教えてくれたのは武器を振るう時意識を振るう武器に込めれば魔力を宿せるという裏技、後で知ったのは無詠唱で無属性のエンチャント魔法を使っている仕組みだった。


 そんな驚きが多く私も成長を強く知る師匠の教えは常に行う事と決めているのだ。


 的の準備が終わり、シルヴィから木製の片手剣を受け取ると台に向かう。


 父様やシルヴィから聞いた剣技、中には剣技の名前を言葉に出す人もいるようで、カッコいいと思うらしい。私もと言ったら怒られた。


『今からこの攻撃しますと宣言する人は大抵早く死にますよ。そもそも声出す余裕があれば力を振り絞るべきです。』


 と、シルヴィに指摘され若干凹んだ記憶だ。


 私は教わったことを思い出すと、片足を踏み込み体重を乗せつつ移動、力だけで振るうのではなく体重を利用した斬撃だ。


 戦いの基本攻撃を止めず流れるように!


 一撃で終わらず二撃三撃と剣が抜けた先から返すように動かし、相手が言葉を話せるなら負けを認めるか気を失うまで手を止めない。


 攻撃の終わりは隙を生みやすく、相手からすると攻撃を受け止めた後に反撃を行う。だからこそ反撃の隙を与えるなという理論だ。


 初めは踏み込み一撃でも腕が痛くなったが、今では言われた通りの体重を加えて攻撃しても一撃程度では痛みはなく、何度も繰り返した動きと模擬戦で受けた反撃が身体を動かす。


 頭で考えるより身体が動き、足を動かし角度を変えた攻撃、ステップで離れた的を連続攻撃を行う事も、切り上げから切り下げを素早く一つの動作にまとめる事も、何十回に一回程度だが、感覚が鋭くなり一振りが的を斬り裂く感覚に変わる事もある。


 そんな忙しない攻撃をし続け、時折シルヴィが小さな木材を投げてくる為撃ち落とす。


 攻撃に集中しすぎず視野を広げ続ける。を不意打ち含めて身体で教えてくるのだ。


 間隔をずらした二つや三つも時々飛んでくるので、攻撃するだけに意識を集中させない鍛錬だと思っている。


 朝はこの様な繰り返しを毎日一時間ほど行い。果実水を飲み汗をかく身体をタオルで拭く、この時のタオルがお湯で濡らされ心地が良く、昔は汗をかくのが嫌いだったけど、今では一種の楽しみでもある。


 少し前までは汗を拭いてもらったが、最近どうしても恥ずかしくなり汗を拭くのは自分で行う事にした。


 運動直後の疲労と心地よい気持ちを感じながら、朝の涼しい風を身体に受ける。鍛錬場は他にもあるが、中庭は病気療養で離れている母様の大好きな花があり、風と共に運ばれる癒しの香りがある為だ。


 その後一度部屋に戻り服を着替える。


 この時にも軽く身体を拭く、普通の服に着替え終わると朝食を食べに食堂へと向かう。


 一階に作られている食堂、朝昼夜と以前は二食だったようだが、師匠が滞在中に三食でバランスよく食べるべきだと指摘を受け栄養を見直し三食と変わった。


  師匠の好きな食事が今も継続して出されるほど、父様も私も食べるご飯、お米が他領より仕入れる事で偶にしか食べれない贅沢な食事、基本は当日焼かれたパンが領主邸と繋がる街より配達される。


 大きな扉の横に立つ使用人が丁寧な動作で扉を開いた。


 今では考えにくい食事時を狙った襲撃、それを防ぐ目的で窓はなく、明かりは全て魔法組による贅沢な作り、長い豪華なテーブルに綺麗な布が引かれ、食堂内は床も滑りにくい作りの特注品となる。一度に沢山食べれるような広さと席の数、父様と私の二人だけで使う為少し寂しく感じる時もあるほどだ。


 私は食堂に入り、既に座る父様へ朝の挨拶を行う。席は決まっているのでその場へ向かうとシルヴィが軽く引き、私は腰を下ろした。


「今日は何が出る予定?」


「本日は先日より希望していたご飯とスープ、新鮮な卵と野菜を使用したサラダ、食後に果物の予定です。とお答えいたしましたが、癖がついてしまうと大変ですので、極力声に出さず耳打ちで聞いてください。」


 私は一汗かいたウキウキ気分で今日の朝食をシルヴィに少し振り返り聞いたのだが、何故か集中砲火をもらうように小言を言われた。


「ハハッ!!シルヴィアには敵わぬな!」


 そのやりとりを見ていた父様は豪胆に笑い右手を挙げると、端に立つ使用人が頭を下げて朝食を運び始める。


「むっ!」

 

 私は頬を膨らませ、父様とシルヴィに抗議をしてみたが、何も通じないどころかシルヴィに再指摘を受け項垂れるように抵抗せず頷いた。


 あくまで気が許せるからできるやり取り、私は歴史を学ぶのが正直嫌いなので、軽くしか見ていないけど、他領の過去には圧政を行ったり領主一族の言葉は絶対、反論したら処刑や禁じられている奴隷制度も採用されたり、今では正直信じられないと思ってしまった。


 食事の場で思い出したくない禁書に細かく書き記されている事だけど、ページを一枚読むだけで気分が悪くなる。強い吐き気や身体の震え、想像してはいけないと考えれば考えるほど追体験させられるような狂気の言葉、呪われた禁書指定を受けている本、領主を継ぐ者は必ず読み絶対に行ってはならないと魂に刻ませる目的の本だ。


 うー、変なこと思い出しちゃったや…折角の美味しい朝ごはんに私のバカバカ!頭を振って忘れることにしよう!そうしよう!


 私は若干引き攣りそうな表情で下手なことを言えば指摘されると理解するからこそ、心の中でそう言うと頭を振り清々しくリセットされた気持ちで食事を食べ始めたのだ。


 食事が始まる前に軽くお話し、食事中は必要最低限以外話を禁じ、食事を終えた後に今日の予定とか、雑談交えた話をする流れとなる。


 実際食べ始めると美味しいので何か話す余裕はなくなる。身分格差が表面上少なくなったようで、昔より細かく指摘をされるのは減ったと以前食事を終えた父様より聞いた。


 食器の使う準備、音を立てない食べ方、出された食事は食べ切らず残す事など、食べ始める前に毒味をする係もいたと聞く程だ。


 十数年の間に取り決めされた誓約で表面上の身分差を廃止、それでも領主は特別な扱いとして見られる為最低限の基本は覚えさせられる。


 そのタイミングで完全に撤廃できなかった奴隷制度の禁止、要は親であっても子供を売りに出すことを明確に禁じた。


 食事を食べ切らないというのも奴隷扱いの者に与える目的で、今では同じ部屋で食べないが皆が同じ食事を取る。父様は誓約が作られる前から既に行っていたので問題なかったが、奴隷を使って仕事させていた者達は大混乱した。


 皆が等しく美味しい食べ物を食べる喜び、それを糧に日々頑張るべきだと常日頃思う。


 決して美味しいものを食べたいとか、そういう理由ではないことを強く伝えておこう。


「クラウディアお嬢様、何か変な考えでも?」


「な、何言ってるのよ、今日も朝食美味しくて皆に感謝をしていただけだよ!もう、シルヴィも食事食べてきたら?」


「そう言うことにしておきましょう、ではお言葉に甘えさせていただき、少々お側を離れますので、何かあれば他の者をお呼び下さい。」


 シルヴィは私の心を見透かすように考えをしていると声をかけてくる。


 私はシルヴィが食堂から出て行ったのを見計らいため息混じりにそんな事を言ったのだ。


「クラウディアは考えている時に癖が出ているから分かりやすいぞ。」


「何それ初耳です!」


 父様が私のため息混じりの言葉を拾い、少し笑いながら癖があると言ったのだ。


 行儀が悪いのだが、ガタッと立ち上がり少し声を大きく教えて欲しいと、そもそも何故今まで教えてくれなかったのかと、私は言った。


「理由は様々ありそうだが、一つは仕草が可愛いとのことだな、もう一つは目で見てしっかり考えているとわかる為だろう。」


「うへぇ…可愛いって、それは姉様が言っていたのですか?シルヴィは流石に言わないでしょうし、父様が思ったのなら今後の距離感を考え直す必要がありますね。」


 私はそう言うと姉様なら常日頃から言葉に出し、更にはスキンシップ過多なぐらいで、特別遠征?とやらに行く事も私と離れてしまう理由から嫌がるほどだと心の中で頷いた。


「嫌がるのか嬉しいのか中途半端に混ぜた表情は流石にやめた方がいいな、誰がというのは答えを明かさぬが、父親が娘を可愛く思うのは当然の事だと思うのだ…その反応は傷つくぞ、傷つくとどうなるか分かるか?」


 父様は声のトーンが下がり悲しむように、そう言ったのだ。


「えっ、あっ、分かりません!」


 私はえっ!あれ?失敗した?と考え、言葉の始めに言った中途半端な表情を整えていた両手を必死に動かし恐る恐る内容を確認したのだ。


「執務室で涙を流し丸一日何も手がつかなくなる。その後数日間の食事の質が低下、デザートの果物やオヤツは消えてなくなる。」


 父様の言葉は想像を絶する宣告で、まさに死活問題、まぁ私の話と、仕事が手につかなくなるのは別問題に思える。だが、デザートが無くなりオヤツも消えるのは耐えられないのだ。


「ごめんなさい、冗談ですので、私は父様が大好きで嫌いになるわけがないです!!」


 私は必死に伝えた。


 そのやりとりを壁際に待機している数名のメイドと使用人が笑いを堪えるのに必死な様子と、父様も冗談だと楽しそうに笑い言うので「皆嫌い…」と私は声に出した。


 その後、父様は機嫌を取るように果物を追加する指示を出し、私の気持ちは収まった。


 上手く丸め込まれた気がする…癖のことも可愛いの発言者も、父様にあんなこと言われると聞きにくくなるし、計算しての発言だよね。流石に長年領主として多方面と話し合う分、経験の差を雑談でも強く感じるね。


 私は正直表情が結構変わるのは知っている。それを師匠に相談した所、変える必要はないと表情を細かく変えれるのは一種の才能、魔法とは違って簡単に覚えれるものではないと、そのままの私でいるべきだと勇気をもらった。


 だからこそ、このままの私で居続けると、決して面倒だからとか、疲れそうだからという意味で考えていない事を深く心に刻むのだ。


 一人うんうんと納得する私に、父様は「そうだったな、この話をしなければならなかったな、紋章の力が一段階現れたと聞いたが本当か?」と軽い言葉が次第に重く、真剣な声に変わり、私は「はい、先日シルヴィとの模擬戦で意識が途絶える寸前に意図せず発動しました。」と真剣に答えた。


 メリハリはしっかりつける。


 仲の良い雑談、家族の雑談、真剣な話は気持ちを入れ直し相手の目をてしっかり声に出す。


 記憶に新しいシルヴィのお仕置き模擬戦、そこまでやらなくてもと止めに入る者が出るほどだが、私の力量に合わせて行っていると認めてもらう以上は私も本気で応じる。


 最近は少なかった滅多撃ちで反応できず、意識が飛びそうに身体の力が抜けて視界がゆっくり暗く、スローモーションのような感覚の中、右腕が熱く感じ、私は意識を失わず立ち止まった事だ。


 領主の血筋が生まれと共に継承する紋章、身体のどこかに現れる証、私は右腕に紋章があり、常時薄らと光を出している。領地のマークと同じ火の紋章、魔力と異なる神から授かる魔力歪みを消滅させる力、その力の目覚めは人それぞれらしく、私は今まで発動しなかった。


 領主の血筋しか使えない絶対的な力は簡単に他者へ使わないなど決まり事がある。紋章の力に飲まれないように発現した後は制御する為の鍛錬を受ける流れだ。


 父様が忙しいと知っていたので、すぐには頼まず話だけシルヴィに伝えてもらっていた。


 燃えるような熱さで意識は保ったが、結局その後すぐに倒れてしまった。


 軽く知る限りの紋章は数段階あり、段階に応じて力も変わる。魔力で放ち特別な力はある意味上位互換の力で、火傷や怪我を負うことはなかったが、後で聞いた話では腕が燃えていたそうだ。


 凄い力だけど、正直怖くて、本音を言うなら父様の娘でいたい反面領主の娘は嫌になる。制御できなければどうなるのか、何をしてしまうのか、考えるだけで恐ろしいのだ。


「直接聞くまではと思っていたが…そうか…よし!ならば今日の昼過ぎに地下の特殊室で紋章制御を教える為そのつもりでいて欲しい。」


 父様は私が紋章の力を引き出せたことで感極まるのか、声が少し震えて聞こえた。


 悲しみと喜びが混ざるような複雑な声で、突然予定が追加され、発動後早いうちに制御できるようにならないと暴走するらしく、本日行うことが決まった。


「は、はい!よろしくお願いします!」


「他人行儀はやめてくれ、父親として娘に指導できるのは嬉しい気持ちだ。だからこそ、クラウディアも嬉しい気持ちでいて欲しい。」


「嬉しい気持ちに変わりはないです!すごく嬉しい!やったー!とか言えば良いですか?途中から嬉しい気持ちが薄れ始めました。」


 私を思っての言葉と理解しているからこそ、父様の言葉に乗って見せた。


 実際に嬉しい、それは騎士としての立ち振る舞いで常に戦いの先陣を切る父様、直接の手ほどきは私の身体が持たない。武器を使う使わない関係なく知る限り私の中で最強は父様だ。


 嬉しい反面少し怖いのは制御できるかという事と地下室はよくない噂をたくさん聞いているので怖いと思ったからだ。


 それでも領主を継ぐ継がない関係なく血筋として受け継いだ紋章を自在に扱い姉様のように名を知らしめ、父様に喜んでもらいたい気持ちは本物で、やる気に満ち溢れシルヴィが戻るまで鍛錬の話を父様と続けたのだった。

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