アンリの変化

 ティアが恋をしている。


 その相手が僕だと言う。


 僕は人間で、ティアはスライムだ。人間とスライムの間に恋心が芽生えたとして、それはどうなのだろう?

 確かに僕はミルクの事が好きだった。最終的には愛しいとさえ思っていた。それが恋なのではないかとも思えたわけだが、考えてみれば誰が聴いてもおかしな話だろう。


 その恋の先には子供も結婚もないのだ。愛し合うのは良いとして、それがどうなると言うこともない。


 それでも僕はティアのことが好きだ。恋だと断言しても恥じることはない。もう二度と失いたくない存在だ。なんなら片時も離れたくはないとさえ思るくらい。


 僕はティアが好きだ。


 それは間違いない。そして……。


 ティアも僕のことが好きだと言う。


 相思相愛なら誰に恥じることもないだろう。だがそれだけだ。他のどんな形にもならないかも知れない。ただ想い合い、慈しみ、共に歩む。僕たちはある意味永遠に結ばれる事はない。


 ティアが僕の事を心配して覗き込んでくる。乳白色の半透明……薄っすら色付いて見える女神様。僕の……女神様。


「アンリ? 顔がまっか!! だいじょぶ!?」

「え、いや、まあ……」


 ティアが僕の顔に触れて、顔を近づけて来る。近い。近いから!


「きゃっ!?」


 僕は咄嗟にティアの肩を持って距離を取ってしまった。何故か恥ずかしくって、ティアの距離感に耐えられなかった。


「……アンリ?」

「ティア、だ、大丈夫だから。そ、そろそろ帰ろうか?」

「ん、わかった!」


 ティアが両手を上げて待っている。……そうか。肩に乗せてたもんな。


 僕はティアのワキに手を……差し込むと、ティアの顔が少し赤くなって、僕はティアの身体に目が行く。そうだ。ティアは女神様と同じ一糸まとわぬお姿なのだ。それに気づくと途端に恥ずかしくなる。しかしここで離したらますます不審だ。僕は意を決してティアを持ち上げる。


 こんなにも温かかったっけ? そして女神像よりも人間らしさを帯び、とてもスライムだとは思えなくなっていた。かと言って同じ人間であるとも思えない。このどっちつかずのもどかしさよ。

 そもそもスライムには性別など無いのだ。僕が勝手にティアを女性として意識しているだけで、ティアに恋をするだなんて、僕の思い込みの可能性も捨て切れない。なのに意識してしまうのは、ティアが女性の身体に擬態しているからだろうか?


 そしてティアの香りが変わった。ずっと薬草の様な爽やかな香りだったのに、ほのかに甘い香りが混じっている。


 精霊さん? ティアに一体どんな魔法をかけたのさ!?


 明らかにさっきまでのティアとは様子が違って見える。ティアが変わってないのだとすれば、僕が変わったのだろうか?

 今回僕は泉の水は飲んでない。相変わらず精霊たちが僕をペタペタと触ってはいるが、特に何かイタズラをしている様子もない。


 やはり僕がティアに恋をしたということなのだろうか? 恋をしても、この先……。


 永遠に結ばれることはないかも知れない。


 だとするならば、僕らは永遠に恋をする。


 そう言うことだろう?












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小さな恋のおはなし かごのぼっち @dark-unknown

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