第11話
その後はこの辺りが雪に埋もれました。
それはもう寒い日々で、少ない薪を節約するのに日中はみんな執務室で過ごすことに。
私は防寒具を持ってきておりませんでしたので、買い物に隣街まで行くべきかと思っていたら、ロジェス侯爵家から贈り物と追加予算が送られてきました。
ロジェス家の方達はこちらの暮らしをご存知なくて、ロジェス卿の状態ももう少し良いと思っていたそうです。
お詫びの品物が綺麗なドレスとお飾りにフードマントと言った感じで、「夜会に出ませんが?」なチョイスでした。いつ着ろと?
でも薪と入浴剤はたっぷり届きましたので、お風呂は楽しみです。
ロジェス卿の部屋は薪を最低限にしているので、限界が来ると執務室や厨房で暖をとるそうで。臭いままなら厨房には出禁だとローラに追い出されているそうです。
何度か贈り物が届き、ジャムや砂糖菓子があったので嬉しかったですわ。
ロジェス卿は私をいない者としているので、気楽に暮らしています。
毎日家の中は嫌だと近隣の田畑を見る散歩をする許可をセバスチャンにもらいました。
雪が深くなって動けなくなるとたちまち退屈な日々です。
私は刺繍は嗜みますが編み物は苦手です。覚えようにも教えてくださる方も呼べません。
日がなぼんやりに飽きた私は天気の良い日に雪を踏みしめながら領民に会いに行きました。
冬の手仕事は籠編みと日持ちのする食糧を作ることだそうで、私も混ぜていただきました。
籠編みは手に傷を作るからと止められましたが、私に手指が綺麗でも誰も見ませんので気にせず参加しました。孤児院では洗濯も炊事もしておりましたのよ。
材料を分けていただいて屋敷でもすることにしました。
食糧は、芋を主として細かく刻んだ野菜や果物を混ぜて乾燥させるのだそう。
どうやって食べるものかと思えば、そのままか水に浸して戻すんだそうです。
乾燥前に味見をさせていただきました。素材の味というものでしょうか?甘味が少しと野菜の味がしましたわ。
私の相手をしてくださるのは村長のユベさん。長くてここにお住まいのお爺様ですわ。
貴族を警戒する人たちの中で、唯一お話をしてくれます。
「お貴族さまが食べるようなものじゃなかろうです。平民の冬の食事は保存食が頼みですんじゃ」
ハート領やアルサス領はここほど雪が降りませんでした。
地域差と言うものを知りましたわ。
「屋敷では今年の食糧はギリギリなのです。私も保存食を作らないと大変ですわ」
「そんなことぁありえせんでしょが」
ありえちゃうんですのよ。
あのロジェス卿はまずいと投げ捨てるし、お腹が空いたら貯蔵室を漁るようになってしまって。ローラが鼠取りを仕掛けて攻防戦しています。
「まだ果物が取れる場所あるかしら?」
「森の中には多少ありますが危ないですよ」
芋に果物だけと言うのが寂しいのでもう少し違った素材が欲しいです。
「セバスチャンさんを連れてじゃないと入っちゃいけんですよ」
「はーい」
雪が降り出す前に屋敷に戻りました。
「無茶をなさらないでください」
「ここは退屈虫が住んでるのですわ」
ローラのいる厨房に向かうと今日の食事を準備をしてくれています。
「ローラ、食糧は間に合いそう?」
「そうだね。バカボンが荒れ狂わなかれば春まで持つかな」
ロジェス家からの贈り物も雪のせいで届きませんので、本格的に節約に入ることに。
「領民に食糧の作り方を教わりましたの。でも食べやすさが欲しくて干した果物をもっと入れたいのですわ」
「そうですね。食べやすいのも大事です」
お砂糖たっぷり入れたらかなり日持ちがするから入れたいけど、代用品を見つけるしかない。みんなにそれなりに気力が上がる食料が出来れば嬉しいです。
甘芋を干すだけも十分甘い。カボチャだって良いと思いますわ。
色々覚えておけば、平民になった時に商売ができるかもです。
ロジェス卿は。こんな寒気なったのにお部屋から出てて来ません。
手伝わぬものには薪と保存食は最低限になります。
私はバッチリお手伝いしました上、殿上人の暮らしをいたしましょう。
セバスチャンもジョルジュもローラも協力して暖かく暮らす準備が整って来ました。
おおよそ一、二ヶ月御籠もりなので屋敷を寒冷仕様に変身させましょう。
雪が本格的に降って街道が埋まってしまう。商人馬車が来ない期間はほぼ誰にも会えない。
ロジェス卿とは歩み寄りなしのまま、二階から降りて来ないなら気は楽です。
私は三年後までに平民の暮らしを学んで次は完全に市井に出ようと思います。
たまにロジェス卿は窓のところからみんなを眺めている。部屋寒くなるから閉めた方はいいですのに。
さぁ、籠編みに挑戦しましょう。
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