第12話
雪のは季節は去って、春の芽吹きの気配が出てきた頃、先触れとほぼ大差なくお客様がいらっしゃいました。
煌びやかな馬車三台。この辺りには似つかわしくない豪華で華やかな作りで、立派なお馬さまです。
ただいまのロジェス家は執事、家令、料理番、通いの洗濯番に庭師と言った少数精鋭でございます。
先触れをいただいて、お部屋と食事とを準備致します時間が足りません。
てんやわんやですが、私は一応「奥様」ですので何もさせていただけません。
使用人が少ないのですから私もその一員で良いですのに。
ロジェス卿はジョルジュより一応事情は説明されているのですが出てくる気がないようです。
ちなみにお客様はロジェス卿に会いに来るわけではありません。何やら私に用があるそうです。
「おいでになりました」
セバスチャンが門を開けて、迎え入れたので、私とジョルジュは玄関で待ちます。
「やぁ、ロジェス夫人、初めまして」
「ハート公爵さま、ハート卿、このような辺鄙なところまでようこそおいでに下さいました」
ハート家の使用人が荷を運び入れます。
「あれらはささやかですが夫人にお土産です」
「まぁ、お気遣いに感謝いたしますわ」
玄関で話し込むわけにもいけませんので応接室に向かって頂きます。
ローラがお茶とお茶菓子を用意してくれてテーブルに並べた。
「どうぞおくつろぎください」
「ありがとう」
王都からランバート・フール公爵と三男のヒューズ・フール卿がわざわざこちらにいらした理由は、ロジェス卿の環境確認かしら。
「まどろっこしいのは苦手なのでな。単刀直入に聞くがこの婚姻は望んだものか?」
「全く望まないものです」
私がはっきり言ったことで公爵は頭を抱えた。
「聞いておられようが、我が長子が浮ついた遊びを好み、その結果が托卵騒動だ。誰が悪い?女か息子か?どちらもダメだろう。だがうちはあのような女に食い物にされるほど甘くない。ロジェスのは馬鹿だ。泥舟乗りやがって」
馬鹿ですよね。純愛を捧げても意味がなかったようですし。
「ロジェス侯爵家にも話を聞いてきたが、カイラスとやらはまだ引きこもっておるのか?」
「そうでございますね」
フール公爵は、ロジェス卿があの女性を庇ったことが気に入らなかったが、領地で蟄居なら良いと思って納得していたし、寡婦や離縁した経産婦を当てがうのも聞いていたそうです。
まさか白い結婚で離縁された若い女性を領地で蟄居に巻き込むとは思っていなかったそうで。
私は離縁された女性なので傷物扱いですけどね。
「君のもと夫はあのアルサス家のバカゾウだろう?あんなものは瑕疵ではないだろう。それなのにまたも女のことで社交界も出られないような男を押し付けられて気の毒ではないか。うちのバカだとて問題があった」
公爵家の嫡男にしては脇が甘いですわね。
公爵は情に厚いようですわ。
「それでだな。引き篭もったままの男の元に未来ある女性を留めるのがいかに残酷かとロジェス家と話し合った結果、婚姻無効としてはどうかと決まった」
「まぁ!」
またまた白い結婚のまま離縁です。
「君を巻き込んだこと、申し訳なく思っている」
「フール公爵さまのせいではありませんわ」
息子可愛さに適当な妻を当てがおうとしていたロジェス侯爵家が、ちょうど妹を売り込みにきた私の兄に乗っただけです。
「何か望みがあれば言って欲しい。賠償金も些少だがだそう」
公爵さまのせいではないので、困りました。
「お金は入りません。ただ私は実家に帰されるとまた売られますので、親と縁を切って他国で暮らしたいのです」
貴族の娘としての役割は、二度の輿入れで結納金が出てますし、前回は家にも慰謝料と賠償金が入ったはずですのでもうよろしいかしら?普通は一回分ですしね。
「売られる?」
「アルサス卿は訳ありの婚姻でしたので普通より多額の結納金や家業のための優遇が目当てだったと思います。アルサス卿との離縁後、実家から除籍して出たのに無理やり連れ戻されて、今回の婚姻です。よほど良い条件を引き出したと思います」
政略結婚は普通ですが、最初から愛人がいたり、軟禁状態の相手なんて普通は断ります。
「なるほど・・・いまだに婚姻です金儲けする家があるのだな」
下位貴族では普通ですけどね。私は一応侯爵家出身です。繋がり強化などの政略です。
「アルサス家の婚姻は酒の席での父同士の口約束でお金は後からついてきました。今回は兄の勘違いですわ」
初恋だとか言い出して。初恋なんて次の恋でもしてればただの思い出でしょうに。
しかも初恋でもないですしね。
「外国でないとダメか?我が領なら其方の実家も勝手な真似はできぬぞ」
外国の市民権は高いです。公爵領の市民権もう当然高いですが外国で取るよりは安いです。
「・・・確かに」
「うちなら仕事もあるし、なんならメイドでもいよ」
ランバート卿が明るくお誘いくださいます。
「あの、来てくれるかはわからないのですが友人も連れて行っても?」
「構わんよ」
公爵の権限であっさり離婚が決まりました。ロジェス家より署名も入ってます。
白い結婚であることもセバスチャンとジョルジュが保証してくれました。
「寂しくはありますがあの坊っちゃまにお付き合いさせて良い方ではないですから」
私は歩み寄る気は全くなかったので愚妻でしたが、私じゃないお方がお心を癒してくれるのを願いますわ。
とはいえほとんど持たぬ荷物でも準備が必要なので今すぐ出て行けません。
「明日迎えにこよう」
なんと領地まで送ってくださるそうです。
「よろしくお願いいたします」
そんなわけで近隣の皆さまにお別れの挨拶に出かけました。
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