第13話

「離縁になりましたのでご挨拶に伺いました」


 そうご挨拶すると、みなさま唖然とした後に「それは良い」「あんな引き篭もりには勿体無いと思っていた」と言ってくださいました。


 この村の方々はみなさまお優しくて離れ難いのですが、ロジェス卿とは何も未来が見えません。

 思いやりつつ仲良く過ごすならともかく、無視されたままで、友人も呼べず、ルーナとは離れたままではやりきれません。


 ここを良くしようにも予算もなく、陸の孤島のような場所なので飢えないように維持するのがお仕事のような場所です。

 私だけ離脱させて良いのでしょうかと思うのですが、先祖代々ここにいるので今更だとみなさまが笑います。


 私には何も権力は有りませんから、ここの住民を他の地に連れていくとも言えません。

 持参金で当座のお金はありますが全員を安心な暮らしに導くのは無理でしょう。


 ロジェス本家もこちらが生きていけないほど困るようなら流石に手を入れてくれると信じたいです。


 ご挨拶周りがすんで、私とジョルジュの腕には領民から果物やサシェ、薬膳茶などを餞別でくださいました。嬉しいお心遣いに目が潤んでしまいます。


 短い間でも私と言う存在がここにいた言う痕跡が残ったなら嬉しいです。


 屋敷に戻り、荷物は元よりさほど持ち込んでいないので、普段着や下着、筆記具、最低限の美容品、常備薬とザクザク詰めていきます。

 自分の荷物より、選別で頂いた物の方が多いことに驚きより喜びがあります。

 普通の貴族女性なら虚しいのでしょうか?

 

 この屋敷での最後の晩餐は、セバスチャンとジョルジュ、そして通いの料理番、洗濯番、庭師と数少ない使用人とともにいただきました。


 お世話になったからと言えば、泣いてしまうような純粋な方達です。ロジェス卿は現実を見て、自分を支えてくれている人間を大事にすべきですのにね。


「私はお役に立てませんでしたが皆様が平穏に暮らせることを願っていますわ」

「恐れ多いことです」


 お料理は、スープだけ私もお手伝いさせて頂いて、感謝の気持ちを込めました。


 フール公爵がお土産でくださったワインもみんなで頂きました。


 少しほろ酔いになってみんなが、主人のはずのロジェス卿に対して愚痴を溢してしまったのはご愛嬌でしょう。


 食堂が賑やかでもロジェス卿は興味を示さなかったようですが、用意されていた食事はお食べになったようです。


 セバスチャンが湯を用意してくれて、軽くお風呂に入ったあと、就寝です。


 

 目が覚めれば、爽やかな朝です。

 この領地は長閑で領民は気さくで優しく、私にとって嫌な場所ではなかったのですが、ロジェス卿と共倒れはしたくありません。


 お迎えが来るので持ってきた中で多少マシな衣装に着替え、軽く髪をまとめて、薄すぎない程度の化粧をしました。

 公爵家の方馬車に同乗するには少し見窄らしいですが、無い袖は振れません。


 フール領に向かう途中に出せるだろうと、ルーナや友人たちに送る手紙を書いて、小さめな鞄に入れました。


 トランクを運ぼうと扉を開けるとセバスチャンが待機していて、スッと持ってくれました。


「おはようございます」

「おはよう。セバスチャン」


 セバスチャンはほんのり哀愁を漂わせています。ロジェス卿の今後が心配なのでしょう。

 おそらく次は訳ありの女性か未亡人など、領地に封じられることを納得された(させられた)方がロジェス本家より送られるでしょう。

 その方がマリーの言うように、ロジェス卿と心を寄り添わせてくださる方だと良いですね。


 荷物を玄関ホールに置いてから、食事を頂きます。


 簡素なパンとサラダと野菜いっぱいのスープです。

 セバスチャンとジョルジュと何気ない話をしながら、食後のお茶を飲んでいましたら。


「おい!貴様!!出ていくとはどう言うことだ!!!」

 あら、今更ですの?

 ロジェス卿は食堂の扉をバァンと乱暴に開けてズカズカ近くに寄ってきました。


 またしばらく湯浴みも着替えも怠っていたようで髭も大変なことになっています。


「勝手にやってきて勝手に出ていくとは!嫁に来たと言いつつ何もしない穀潰しめが!!」

 あらあら。穀潰しとは、自己紹介でしょうか?


「嫁と仰いましてもお出迎えはおろか、婚姻届も婚姻誓約書も何も書いた覚えがないのです。ロジェス卿は挨拶も日常の会話もなさる気がなかったではありませんの」


 何も始まりようがなかったのです。


「貴様がしたことは俺からマリーを取り上げ、俺の生活を不便にしただけでなないか!!」

 あ、あまり近づかないでくださいませ。ホコリと臭いが舞ってきますので。


「そうでしたわね。では私は居なくなりますので元の状態に戻せとお母上にお願いなさってください。マリーはお母上が連れて行きましたので」

 お母上にと言えば、捨て犬のようになります。


「結局お前は俺を置いていくんだ!お前も俺を捨てるんだな!!!」

 何を言われているのか理解できないのは私の頭のせいですか?


 ロジェス卿は身振りを大袈裟に叫んできます。


「捨てるも何も、拾っていませんし、ロジェス卿も私に何もしていませんよね?」


 元彼女と重ねられても困りますよ。


「今のご自身を顧みて、彼女出会う以前のご自身を取り戻されれば、次に来られる方と仲良くなれるんではないですか?」


 昔のロジェス卿は好青年だったと誰かが言ってました。人と思い合い、協調出来ていたなら普通に暮らせるのではないかしら。


「お前は優しくない!人でなしのろくでなしだ!」


 ご病気とのことなのでスルーしますが本来なら往復ビンタしたいところです。


「フール公爵に縁が出来たと喜んでるんだろう。阿婆擦れ!!!あのフールは俺をここに押し込んだ!!!」

 押し込んだのは、ロジェス家の判断ですが、まぁ遠因ですね。


「おい!!良い加減にしろ」


 あら?


「ノッカー鳴らしても出て来ないから上がらせて貰った」

 フール公爵たちがお迎えに来てくれたようです。



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愛なんてどこにもないと知っている 紫楼 @sirouf

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