第4話

三話が抜けていましたので一話ずらしています



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 変な人が来た事で子供達が不安を感じてしまいました。

 私が連れて行かれると思って、泣いていた子もいます。

 大丈夫って何度言っても私から離れてくれません。何か気を紛らわせようと一緒にパンを作ることにしました。大きな子たちも手伝ってくれます。


 私はアルサス家が撃退出来たことで気が緩んでしまったのかもしれません。


 先の出来事から一月くらい経った頃、父にハート家に連れ戻されてしまったのです。

 もう籍は無いと言っても、家長が認めていないと離れに閉じ込められました。

 ルーナと離されてしまい、私はひとりぼっちです。ルーナは幸い教会に残っているので路頭に迷うことはないはずですが心配です。


 離れには常に侍女と私兵が見張りに立っていて、逃げ出すことはかないません。

 私はハンガーストライキをしました。

 せっかく得た自由を失ったのです。無気力になっても仕方ありません。

 

 母が「我儘はやめて」「白い結婚で離縁だなんて」「私の顔を潰さないで」と愚痴を言いに来ますがどうでもいいです。


 兄が何度も訪ねてきます。

「お前が心配なんだ」

「何も家を捨てなくても」

「父上は人をみる目がなかった」

 友人が馬鹿息子の扱いに困っているからと私を差し出したのはただ良い格好したかっただけでしょう。


「私は父上とは違う!お前のために良い縁談を持ってきてやったぞ!」


 兄は書簡を一つ投げ渡してきた。


「お前の初恋のカイラス・ロジェスとの縁談だ」

 出されたその名に驚きました。

「子供の頃の一瞬、あっという間に消え去って恋とも言えない記憶が初恋になるんですか?」 

 兄は私をキョトンと見つめます。

「お前はカイラスが来ると喜んでいたし、可愛らしく出迎えていたし、懐いていただろう!?」

 あまり覚えていませんが他の兄のご友人にも同じ態度だったと思います。

 みなさん、兄のように騒がしくも偉そうでも無いので、優しげに見えてこちらが兄だったらと、子供らしく無い物ねだりをしたのでしょう。


「とにかく決まったことだ。ハート家とロジェス家との契約だ。ロジェス侯爵夫妻も喜んでおられる!」

 私のためと言いながらコレです。


「食うにも暮らすにも贅沢に慣れた令嬢が平民として暮らして行けるわけがないのだ!カイラスは次男だがこの婚姻で領地と爵位をもらう。お前もあんな教会にいるより幸せになれる!」

 

 一人では暮らせなくても教会に身に寄せて、自分の立場を安定させるだけの寄付も出来る資金はあります。

 アルサス家で暮らしているよりよほど幸せでした。


「私の幸せを勝手に決めないで!」


 私も社交界の噂くらい知っています。ロジェス卿が幼馴染の男爵令嬢と駆け落ちしていたことを。

 そこまで思い合った方がいる人が家に連れ戻されて、再婚の私をあてがわれて喜ぶわけがないでしょう。


「とにかく大人しく受け入れろ!ハート家に恥をかかせたお前を父上は許さない。次は父上より年上をあてがわれるぞ!」


 年上でも私自身を見てくださるなら良いと思うのだけど、おそらく罰を含めたお相手を選ぶのでしょう。


 ロジェス卿が連れ戻された状況はわかりませんが、恋に浮かされた人が私をどう扱うか、アルサス卿とそう大差がないと予想します。


「ロジェス卿より年配の方の方が妻としては扱ってくださるのではないでしょうか?」


 俺の温情を無駄にするのか!友人を馬鹿にするな!とお怒りですが、勝手に決めて来ておいて「私のため」とは。


 ロジェス家が家に傷をつけた次男に土地も領地も与えて、嫁を与えて囲い込みたい理由は何でしょう?

 兄はロジェス家からかなり得になる契約や約束を取り付けたのでしょう。

 妹と親友を救う美談と自分への見返り、さぞかし良い気分になっているでしょうね。



 私は婚約期間もなくロジェス卿が貰う領地に送られる事になりました。

 ルーナを呼ぶのは諦めました。もし呼べてもあちらでの私の立場が良かった場合にしか呼びたくないです。


 母は「今度は白い結婚はダメよ!自分から行きなさい」とおかしな事を言いましたよ。

 私は二度目で向こうは駆け落ち失敗という恥晒しなので結婚式などは必要ないそうです。今回は私も面倒がなくてホッとしました。


 持参金は父に言って私の口座に入れさせました。

「こんな無理やりな婚姻であちらで私への費用が頂けるなかったらどうしますか?」

 家同士のお金のやり取りは別ですれば良いでしょう。

「そんなことはするわけがない」

 そうであれば持参金を私が持っていても文句を言われないでしょう。


 現金以外の嫁入り道具は拒否しました。必要なものがあれば向こうで買うかします。

 ドレスに装飾品も必要最低限まで手放していたので、母は「侯爵家の娘の持ち物がこれだけなんて」と唖然としました。

 母の趣味の派手な装飾品やお古のドレスを押し付けられそうになったので「売りますよ?」と言えば引っ込めました。


 友人たちやルーナに手紙を出したかったのですが、中を確認されそうなので後からにします。


 出発の日、父母と兄は「元気で」と心にも無い言葉で見送ってくれました。

 私に同情している侍女や庭師、料理人の人たちの方がよほど感情を持って送ってくれました。


 馬車は華美な四台、一台しか必要ないのに見栄があるのでロジェス卿へのお土産だと色々詰めたようです。

 馬車が増えれば、盗賊に狙われやすくなると言うのに、私の安全より見栄なのです。


 護衛がそれなりに付いていますがあちらの領地までは安全に不安がある街道があります。

 私は死ねるならそれも良いかと思いましたが、盗賊は手に入れた女をいたぶり娼家に売ると聞きます。そんなことになったなら死ぬより辛いことと思います。


 幸いにも途中の宿泊地はそれなりに快適で、道中は獣が出たりはしましたが無事にロジェス卿の元に辿り着きました。


 長距離の馬車旅は懲り懲りです。


 屋敷に着いて門番が通してくれましたが、活気のないお宅です。

 人の気配が少ないと言いましょうか。


 玄関のノッカーを護衛騎士が鳴らすと少しして、家令と執事が出迎えてくれました。


「遠いところはるばるようこそお参りくださいました。申し訳ありませんが人手が足りませんのでお荷物を護衛の方に運んでいただいても?」

 私は護衛騎士に確認して許可しました。


「皆様には大したおもてなしはできませんがお食事を用意させておりますので」


 侍女が出てこないほど人がいないらしい。

 家令が護衛騎士たちに荷物の運び先を指示して、執事は私を中に案内してくれました。

 執事はセバスチャン、家令はジョルジュ。覚えましたよ。


「主人は今日はお会いになれませんので、今日は客室にてお休み頂きますよう」

 今は昼を少し過ぎたところです。


 職をお持ちでないはずのロジェス卿なので、時間が取れない事はないはずなので、普通に拒否されてるのでしょう。


 私の隣にいる護衛騎士も僅かに眉を顰めました。

「お嬢様・・・」

「よろしいのよ。私この婚姻に期待して来たわけじゃないのですもの」

 貴族の婚姻は自分のためじゃないのだものね。


 執事がとても苦い汁を飲んだような顔をしていました。私の事情も主人の状況も考えれば、良い方向になりそうにないですよね。

 ロジェス侯爵家の意向を聞いてうまく行かせたいのでしょうが、相手が拒絶しているなら私もそれに倣います。


「ここまで無事に連れて来てくれてありがとう。休憩を取ってから無事にお戻りなさいね」

 もう会えないでしょうから今のうちにお礼を述べました。

「・・・どうかお幸せに」

「ありがとう」


 私は執事の案内で二階の客室に向かった。私の部屋は荷物を運んで埃が収まるのを待ってから案内されるそう。


「私、家具は持って来ていないの、備え付けのままで良いとお手紙を出したわね?」

「はい」

 何も持って来ないなんて有り得ないと思っていたのかしら?


「ごめんなさいね?二回目ですからもう家具なんて何でも良くなって」

 セバスチャンは根が良い方のようで隠し事が苦手そうです。

「ロジェス卿はこの婚姻を求めていないのですね」

「はい」 

「セバスチャン、私も求めていないの」


 セバスチャンは悲しげに目を伏せました。





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