16
朝焼けが鏡合わせになったような世界で、雪は目を覚ました。
呆然と呼吸を繰り返しながら、雪はゆっくりと立ち上がる。
「……どこ、ですか……ここ……」
そう呟きながら、薄紫色と桃色の混ざり合う情景を見つめた。
きっとここは、現実世界ではなかった。
だから、雪は思う。
――――ここは、死後の世界なのではないだろうかと。
雪は、安堵したように笑う。
よかった、と思った。
蝶よりも先に、死ぬことができたのだ。
「よかった…………!」
そう大声で言いながら、雪は朝焼けの地面にごろりと寝転がる。
朝焼けの空を、ぼんやりと眺め始めた。
「何が、よかったの?」
視界に映り込んだのは、悪食だった。
彼の口の周りは赤黒くなっていた。
その赤黒さには何故だか見覚えがある気がした。悪食はいつものように何かを食べているようで、何のお菓子だろうかと疑問に思って雪は彼の手が持っているものを見る。
悪食は、手を持っていた。
手首から先がない、綺麗な白い肌をした手だった。悪食はむしゃりと、人さし指と中指と薬指と小指を
「うーん、美味しいねえ」
「な……何で、手……」
「え? ……ああ、いけない、いけない。調整するの、忘れてた」
悪食はぱちんと、手を持っていない方の手で指を鳴らした。
――――食べかけの手は、食べかけのビスケットへと
彼の口の周りにあった見覚えのある赤黒さは、ビスケットの食べかすになっていた。
「あはは、教えてくれてありがとうね、雪」
悪食はそう言って、むしゃむしゃとビスケットを食べ進める。あっという間にビスケットはなくなってしまった。
雪はばっと上体を起こして、表情をなくしたまま問い掛ける。
「…………今……誰の手を、食べていたんですか」
「え? 僕はただ、ビスケットを食べていただけだよ?」
「ふざけるなよ」
冷え切った声を出しながら、雪は悪食を睨み付ける。
悪食はそんな蝶を愛おしそうに眺めながら、ふふっと笑った。
「――――君のお姉さんは、とても美味しかったよ」
ごちそうさま、と悪食はお腹をさすりながら雪へと告げる。
雪はその言葉を
立ち上がって悪食を殴ろうするもすぐにその気力をなくして、
地面にへたりこむと、
「…………あああああああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ…………!」
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――悪食はそうやって心底
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途方もなく愚かで、途方もなく美しい蝶 汐海有真(白木犀) @tea_olive
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