第15話創造神彩子の決断 - 崩壊と再生の狭間で
創造神となった彩子は、宇宙の中心に瞬く間に姿を現した。そこには光輝く神殿や大広間が広がり、星々が美しい光のパターンを描き出していた。宇宙の中心はエネルギーが交錯する場所であり、神々がその力を感じ取りながら議論を交わす空間だ。
女神たちや精霊王たちは、徐々に崩壊していく世界を黙って見つめていた。欠けていく世界。このまま何もせずにいたら、この世界の摂理の中で全てが無に帰ってしまうだろう。森羅万象は全て無にして新しく世界を誕生させる。創造神もまた、その終わりが新たな始まりを意味することを理解し見守っていた。
けれど、創造神となった彩子が願った再構築は、生きとし生けるものがすべて、新しい科学と魔法の世界に順応できる再構築である。
森羅万象を手に入れても彩子には、地球での記憶がある。喜びや悲しみ、楽しかった思い出も、全部覚えている。
創造神となり、神の在り方も理解出来る。しかし、彩子は無情にも無機質な存在にもなれなかった。これが人間が森羅万象を手に入れた弊害なのか?
彩子はそう思いながらもこれから、かなり難しい再構築を行わなければならない。創造神だけの力では無理だろう。他の神々や精霊王の力が必要だ。
「これまでの世界は循環し続けてきた。そして今、新しい世界を創り出す時が来た。」
創造神は目を閉じ、昔、地球で人として生きていた頃の、記憶を呼び覚ました。彩子の記憶が新たな科学と魔法が融合する世界を、作るための鍵だった。その記憶は神々全員に共有された。彼らもまた、その重みを理解した。
「科学と魔法は対立するものではなく、共存し、人々が互いに影響し合う未来を築くのだ。」
星の女神、アストライアーが一歩前に進み出る。
「私たちはあなたの力を受け、どんな世界を創るのか見守り、支えましょう。」
彩子は、かつての試練で出会った星の女神とは異なる存在感を今の星の女神から感じていた。試練の時とは違う姿に、過去の星の国での出来事を思い出すが、今の創造神としての彩子に重要なのは、星の女神が、新たに与えられた役割をどう果たすかということだけだった。実際、今の星の女神は別人だが、それは創造神にとって問題ではなかった。
アストライアーは夜空に無数の星を瞬かせ、闇に光を灯す。
「夜の静けさは私が守ります。」
彼女は天に舞い上がり、星座を描き始めた。
次に、月の女神、ルナが現れ、銀色の輝きで大地を包み込んだ。
「夜に安らぎを与えるのは私の役目。」
ルナは微笑み、創造神に恭しく頭を下げた。
最後に、太陽の女神、ソルが登場し、その光で全てを照らした。
「新しい世界を照らす光は私が与えるわ。」
創造神は彼女に頷き、集っている精霊王たちを見た。
火の精霊王が最初に動き出した。炎や溶岩を纏ったその姿は、破壊と再生の象徴であり、彼の熱意は周囲の空気さえも熱く染め上げた。
「私の力で世界を燃え立たせ、新たな秩序を創るか?」と、火の精霊王は創造神に尋ねた。太古の遥か昔、人間に火の使い方と危険性を教え、導いたのは火の精霊王だった。
次に、水の精霊王が静かに歩み出る。彼の足元から流れ出る水は、周囲を浄化し、澄み渡らせるようだった。
「癒しと再生の波を送り出そう。だが、それが女神の意図かどうかは分からぬ。」
水の精霊王もまた疑問を抱いていた。
風の精霊王が軽やかに姿を現すと、突然の突風が広間を駆け抜けた。
「変化をもたらす風が必要か?それとも、自由に任せた風の力を封じ込めるのか?」
彼もまた創造神に答えを求めた。
大地の精霊王が現れると、大広間の床がゆっくりと振動し始めた。彼は安定した力を持ち、周囲の自然と調和していた。
「大地の力で新たな基盤を築くべきか?」
彼は問うが、他の精霊王たち同様、明確な答えを持っていなかった。
光の精霊王は、まばゆい光と共に現れた。彼の姿は希望に満ち、広間を一瞬で輝かせた。
「闇に対抗し、光の力を解き放つべきか?」
彼もまた女神の意図を測りかねていた。
その闇の精霊王が、次に姿を見せる。彼の周囲には重苦しい影が漂い、広間の一角を覆った。
「闇の中には無数の可能性が潜んでいる。だが、それは秩序に反するのか?」
彼も問いを投げかけた。
最後に雷の精霊王が天から降り立った。その姿は雷鳴のごとく、強大な力を放っていた。
「天の怒りを振り下ろすべき時が来たのか?」
彼の瞳もまた迷いに満ちていた。
精霊王たちは女神の意志を実現しようと動き始めたが、彼らは自然と魔法の世界しか知らず、女神の本当の意図を理解できなかった。
一方、女神たちは創造神の思考を共有し、魔法と科学が共存する世界を創っていこうと考えていた。しかし、女神たちの願いを具現化するはずの精霊王たちには、その意図がうまく伝わらなかった。
そこに、創造神が静かに口を開く。
「リオを召喚しよう。かの世界を見、経験してきた彼なら、お前たちに新たな道を示してくれるはず。」
創造神の言葉に、精霊王たちは頷き、リオの到来を待つ準備を始めた。彼が現れたとき、精霊たちと共に新たな世界の創造が本格的に動き出すのだった。
エーテルの輝きを見ながらリオが懐かしい思い出に浸っていると、一筋の光がエーテルの中を走った。光の中から現れたのは、創造神と化した彩子の姿だった。彼女の瞳には、元の優しさが宿っているものの、今や神々しい威厳をも漂わせていた。リオはその姿を見て、創造神としての彩子が自分を必要としていることを理解した。
「リオ、おまえの力が必要だ。」創造神の声が、リオの心に直接響いてきた。
「どうなったのよぉ?」リオは思わず問いかけた。
「世界はゆっくりとだが、崩壊しつつある。ジグソーパズルのように細かくバラバラになり、このままでは無に帰してしまうだろう。新しく誕生した欠片と上手く入れ替えなければならない。でも、その再構築にはおまえの力が必要なのだ。私一人では、すべてのピースを繋ぎ直すことができない。」
リオはその言葉に深く頷いた。ここまで来るのに精霊として力を発揮してきた。今、新たな役割が与えられたことを感じ取った。そして、決意を胸に秘め、エーテルの輝きの中の創造神に向かって歩みを進めた。
「わたしにできることはすべてやるわ。手伝わせてちょうだい。」
創造神は頷き、リオに向かって手を上げると、空間が軽く渦を巻き、エーテルの紐が現れた。その紐をリオに渡すとエーテルの光が一気に輝きを増し、リオは一瞬で広間へと瞬間移動した。
広間の中心に立っている創造神の隣にリオが現れ、細かく羽を震わせた。「わたしのあの世界での経験と記憶が、新しい世界を誕生させる為の一歩なのね。彩子がいた地球の科学の記憶とわたし達の魔法の共存――それらが融合した世界を創るのね」
創造神はリオの言葉に頷いた。彼の言う通り、リオの記憶の中の知識と彩子の地球での生活の記憶、それにこの世界の魔法が結びついたとき、新たな世界が生まれる。そしてそれは遠い未来を経験したリオに一つ一つ確認をしながら女神たちや精霊王達の力を借り、進めて行く必要がある。
創造神が神々に言葉をかけようとした瞬間に、負のエネルギーが空間に押し寄せた。
創造神は両手を天に掲げ、魔力を解放した。空間に人々の生活が崩壊していく様子が映し出された。彼らの無力感や絶望が負のエネルギーとして、巨大な塊となり一気に押し寄せた。負のエネルギーは触れるものを腐敗させ生命あるものを狂わせる。
空が雷鳴のような轟音とともに裂け始めた。裂け目から漏れ出る黒い光が大地を覆い、人々の目に映る世界は徐々に歪んでいった。崩壊の足音は次第に大きくなり、逃げ惑う動物たちの鳴き声が響き渡る。
村の男は、崩れゆく家の前で立ち尽くしていた。かつて家族と共に過ごした温かな思い出が詰まったその場所が、今や目の前で瓦礫と化していく様子は、彼の心に深い痛みを刻んでいた。冷たい風が彼の頬を撫で、無力感が胸を締め付ける。「なぜこんなことが……」かすれた声が震え、彼は拳を握りしめるが、何もできない自分に苛立ちを覚える。周囲では人々の叫び声が響き渡り、混乱の中で逃げ惑う姿が目に入る。大地が崩れ、逃げ道は限られていた。一羽の鳥が必死に空を舞おうとするが、逆巻く風に翻弄され、力を失っていく。やがて、その鳥は地面に落ち、見慣れた世界が遠ざかっていく。
大樹の森では、巨木たちが静かに悲鳴を上げていた。根を張り巡らせた木々も崩壊に耐えられず、次々と倒れていく。「この森も、終わるのか……」もし木々に言葉があれば、そう嘆いていたに違いない。少女は震える手で自分を抱きしめ、庭が壊れていく様をただ見つめていた。「お花……どうしてこんなことに……」彼女の涙は地面に落ち、吸い込まれていく。彼女の心の中に広がる悲しみは、まるで庭の花々が散りゆくように、静かに消えていく。
老犬は崩れた道の上で立ち尽くし、長年の記憶が蘇るが、もう二度と戻らないことを理解していた。「ここで、終わるのか……」老犬は静かに目を閉じた。村全体が崩れ去り、思い出も共に消え去っていく。老犬の心の中に残るのは、かつての温もりと、今は失われたすべてのものだった。
その様子を見つめていた彩子は、崩壊していく現実と向き合う覚悟を固めた。この壊れゆく世界に立ち向かい、全てを再構築するための最終決断をしなくてはならない。彼女は再び精霊王たちに呼びかけた。
創造神の声が空間に響いた。「我々にはゆっくり、わずかに欠けて行く世界だが、人間や動物、植物には絶望さえも感じる崩壊なのだ。」
「私たちの力を一つにし、この世界に新たな秩序をすぐにでも創らねばならない。負のエネルギーを打ち破り、科学と魔法が共存する新しい未来を。」
精霊王たちと女神たちは一斉に頷き、各々の力を解き放ち始めた。彩子は両手を掲げ、空間に新たな世界の未来図を描き出す。今こそ、科学と魔法の融合によって、破壊の先にある再生の道が開かれようとしていた。
闇·····だけだった。
世界は崩壊し、その一片一片が無秩序に散らばっていく。
リオはこの光景を見て、負のエネルギーが現実世界にまで浸透し始めたことを確信した。リオは深く息を吸い込み、エーテルの周りをフヨフヨと飛んでいるすべての精霊たちに協力を求めた。負のエネルギーを抑えるためには、精霊たちの助けも不可欠だった。
「今こそみんな力を合わせ、負のエネルギーを浄化し、この崩壊を食い止める時よぉ〜わたしに、わたしに力を貸してぇ〜」
リオの悲鳴に近い声に応じて、火、水、風、大地、光、闇の精霊たちはそれぞれの精霊王に集い力を解放し、負のエネルギーに立ち向かう準備を整えた。
彼らは創造神の元に集結し、再構築のための第一歩を踏み出すのだった。彩子の地球の記憶とリオの遠い未来の記憶が交錯し、星々や大地が轟音と共に震えた。空間に浮かび上がったのは、科学と魔法が調和する新たな世界の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます