第11話仁獣麒麟の正義の試練
「リオ、行こうか。」彩子はそう言うと太陽の神殿を後にした。振り返らず進むその歩みに彩子の決意を感じた。突如、天から3人の女神の気配がし声が響いた。
「「「森の中に隠された知恵の家。星、月、太陽の力を得た者のみがその扉を開くことができる」」」
その言葉を残し気配は消え静けさが戻った。それは女神たちからの最後の手掛かりだった。
彩子は、その言葉を胸に深い森の中を進んでいた。彼女の隣には、リオが輝きを放ちながら浮かんでいる。二人は、古代の知恵が隠された秘密の場所を探していた。
「彩子ぉ、ここよ~」リオは少し興奮したかのように空中を飛びまわっている。
「ここがその場所ね…」彩子は静かに呟いた。
木々の間から差し込む光が、神秘的な雰囲気を醸し出している。彩子は、古代の碑文が刻まれた石板の前に立ち、古代の文字を一つ一つ指でなぞり読み解いていく。
「星、月、太陽の力を得た者、最後に麒麟の試練を受けよ。調和の道を見つける者のみ、森羅万象の扉を開くことができる…」
彩子は碑文の内容を読み上げ、深く考え込んだ。碑文には、麒麟の試練が行われる場所のヒントも隠されていた。「東の山の頂にある聖域」と記されている。
「東の山の頂…そこに行けば、全てが明らかになるのね。」
解読に成功し、彩子は達成感に包まれた。しかし、次の試練への緊張感も同時に感じていた。東の山は惑わしの山としても有名なのだが、隠れ家の神秘的な雰囲気や、古代の知恵に触れた感動や期待が彼女の心を揺さぶる。
「リオ、次の試練が待っているわ。」
「そうよぉ、行きましょうよぅ」まだ興奮が収まりきらないリオが彩子の腕を引っぱった。
リオもまた、自分が森羅万象の扉を開くために必要な存在であることを理解し、彩子と共に次の目的地へと向かう期待と喜びに溢れていた。不安が全くないわけではないが、彩子なら大丈夫とリオは思っていた。
東の山の頂き。聖域でありながら、霧がたちこめ、人を惑わすと言われる山だ。森羅万象の力を求める彩子にとって、それは避けて通れない道だった。霧が漂う中、リオと彩子は道なき道をひたすら歩き、山頂を目指した。どれだけ歩いただろうか。急に目の前の霧がなくなり視界がハッキリした。二人は遥か彼方に見える異様な光景に足を止めた。目の前には、巨大な裂け目が地面を引き裂くように広がっていた。それは大地そのものが裂けたかのような、深く暗い亀裂であり、その奥底からは不気味なエネルギーが漂っていた。
「この裂け目が、森羅万象の扉へと繋がる道…?」
彩子は不安と興奮を感じながらも、リオと共にその裂け目に足を踏み入れる決意を固めた。二人が裂け目に入ると、周囲の空間が揺らぎ始め、まるで次元そのものが歪んでいるかのようだった。裂け目の奥へ進むにつれて、周囲の景色が次第に異世界のような様相を帯び始めた。空は深い紫色に包まれ、地面には星のように輝く無数の光の粒が舞っていた。この空間は、過去と未来が交錯する異次元の領域であり、彩子にとっては見慣れた景色のはずだった。時を司る守護者である彼女は、どんな次元でも自在に行き来し、時の流れが交錯する空間を既に多くの経験で知り尽くしている。しかし彩子はその空間がいつも空間と違っている事に気づいた。時の流れが、永く続く過去や未来のうねりが、全てが違って見えた。
彩子は、ここが森羅万象の力を封じ込めた場所であることを直感した。しかし、その先へ進むには、最後の試練が待ち受けていた。突然、前方の空間が大きく揺れて、古代遺跡が現れた。
遺跡の入り口には、華やかな装飾が施された門が立ち、門の上には麒麟の姿が刻まれていた。麒麟の試練は、彩子とリオが古の神話に従って成し遂げなければならない最後の試練だった。
雷鳴が轟く中、遺跡の広場に突如として麒麟が現れた。
麒麟は優雅で堂々とした姿を持ち、その背丈は約5メートルにも達した。鹿のような細身の体には、五色に彩られた美しい毛が揺れ、全身は龍のような威厳ある顔と、牛のような力強い尾、そして馬の蹄を持っていた。
鱗に覆われた体は神秘的な輝きを放ち、見る者を圧倒する。額には一本の鋭い角が生えており、この角は攻撃のためではなく、裁決を下すための神聖な象徴だった。
麒麟は、試練の内容を語ることなく、ただ静かに二人を見つめていた。その時、リオが静かに口を開いた。
「彩子、麒麟という存在はただの聖獣じゃないのよ。麒麟は、古くから心の清らかさと仁を象徴する生き物とされ、審判の仁獣とも呼ばれているの。その姿を目にした者は、自らの心を見つめ直し、真の正義を試されると言われているわぁ。つまり、麒麟が現れたということは、私たちの心の清さと正義を試される試練に直面しているということよぉ。」
迷宮を進む中で、彩子はリオと共に自分たちの恐怖に立ち向かい、心の中に隠された不安や疑念を乗り越えなければならない。リオの前に現れたのは、自分が指輪として過ごした数々の時代の記憶。彼はただの無機質な道具ではなく、意思を持ち、使命を帯びた存在だった。指輪の姿でありながらも、彼は考え、学び、それぞれの時代で人々と交流しながら成長してきた。その姿は、今の彼にも変わらぬ誇りをもたらしていた。大魔女ミリディアの幻影はリオに囁きかける。
「指輪だったお前は、すでにその使命を果たしていたではないか。これ以上、精霊としての新たな道を歩む必要があるのか?」
その声には、彼の進化を試す意図が込められていた。だが、リオは揺るがなかった。彼は指輪としての時代を誇りに思っていたが、今の姿に対する自信も同様に持っていた。妖精となり、精霊へと進化することで、リオは新たな使命を見出し、さらに大きな力を手に入れたのだ。リオの心には、過去の自分と今の自分が共存していた。指輪として過ごした日々の経験は、今の彼の知識と智慧に深く根付いている。それらの経験は、今後の彼の歩みを支える大きな礎となることを彼は確信していた。大魔女ミリディアの幻影がどれほど語りかけようとも、リオの決意を揺るがすことはできなかった。彼は胸を張り、過去と未来を繋ぐ道をまっすぐに見据えていた。
リオの決意が固まったその瞬間、突然、彩子の前にも幻影が現れた。現れたのは、彼女が日本で過ごしていた頃の懐かしい風景だった。家族や友人たちとの楽しい日々、温かな笑顔、そして彼女がかつて抱いていた夢や希望が、鮮やかに彩子の心に蘇ってきた。幻影の中で、彼女は再び日本の街並みを歩き、自分が選んだ道をもう一度歩み直すことができるかのような錯覚を覚えた。
「あなたは元々、この世界の者ではない。地球での人生を全うしていたではないか。無理やり異世界に引き込まれたのなら、元の世界に戻る道を探すべきではないか?」
幻影の声が囁くように問いかける。その声には、かつて彩子が抱いていた疑問や不安がまざまざと反映されていた。彩子は一瞬、心が揺れた。ルビーナによって転生させられ、大魔女の力を受け継ぎ、時の守護者となったが、果たしてそれが本当に自分の道だったのか、と。日本での穏やかな生活に戻ることができるなら、どれほど心が休まるだろうか。
だが、その想いと共に、星の女神、月の女神、太陽の女神たちから授かった力と加護が、彩子の心に再び力を与えた。
「ここで立ち止まるわけにはいかない……」彩子は強く思った。彼女が背負った使命は、この異世界でしか果たせないものであり、その力をもって人々を守ることが、今や自分の天命であると理解していた。過去の温かい記憶は、決して手放すことのない宝物だが、それに縛られることなく、今の自分を信じて進むべきだと彩子は心を固めた。幻影が彩子の心に深く入り込もうとするが、彼女はその誘惑に負けることはなかった。目の前に広がる道は、女神たちの加護と共に、彼女を新たな未来へと導いていた。彩子は一歩、そしてもう一歩と、その道を踏み出していった。
迷宮の奥深くには、試練を終えた者だけが通ることができる道が開かれていた。迷宮を抜けると、麒麟が待つ広場に出た。
広場の中央には古代の祭壇があり、そこには輝く宝石が置かれていた。麒麟はその宝石を指し示し、彩子とリオに対して最後の試練を告げた。その宝石を持ち帰ることで、試練が完了するというものであった。
彩子とリオは宝石を手にし、麒麟の試練をクリアした。
試練を終えた後、麒麟は静かに頷き、彼らに対して祝福の言葉をかけた。麒麟の姿は光となり、遺跡の中に溶け込んでいった。
試練を終えた二人は、麒麟から得た知恵と勇気を胸に、次の目的地である森羅万象の扉へと向かうことになった。
遺跡を後にした瞬間、彩子とリオの周囲が静かに変化を始めた。空気はひんやりと澄み渡り、まるで時がゆっくりと流れているかのように風景が移り変わっていく。足元の大地は青白く輝き、遠くには光の粒が舞い踊る。やがて、霧のような靄の中から一枚の扉が静かに姿を現した。
扉は古びた木でできており、表面には複雑な紋様が彫られていた。扉の中央には七色に輝くエーテルの鍵穴があり、それが彼女のそばにいる、リオと共鳴して光を放っていた。
彩子は深呼吸をし、扉に向かって静かに手を伸ばした。全ての力と向き合い、真の理解と知恵を得るために彼女は心の準備を整えていた。
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