第4話銀髪の魔女光と闇の交錯

ローブの女性がゆっくりと彩子の方を向いた。その瞬間、ルビーナが叫んだ。


「逃げて、彩子!あの人は...」


ルビーナの叫び声に彩子は反射的に後ずさりした。しかし、好奇心が恐怖に打ち勝ち、彼女は足を踏みとどめた。ローブの女性はゆっくりとフードを下ろし、顔を露わにした。


「初めまして、彩子さん」その声は穏やかでありながらも、どこか冷たい響きを帯びていた。「私はミリディア。大魔女と呼ばれていたわ。そしてルビーナを作ったものよ」


彩子は驚きのあまり言葉を失った。


「久しぶりね、ルビーナ。だけど……ずいぶんあなたは変わったわね?でも、逃げてはないんじゃないの?」


ルビーナは何も言わず気配を探っているようだった。



ミリディアは微笑みながら続けた。「彩子さんが私の力を受け継いだことは知っているわ。その事と私がこの世に再び彷徨い出た理由は別にあるの」


「彷徨い出た...?それはどういう意味ですか?」彩子は戸惑いながら尋ねた。


ミリディアは深いため息をつき、「私が死んだ後も、私の魂はこの世界に留まり続けたの。ある強力な呪いによって、永遠にこの地にとらわれてしまったのよ。その呪いを解くために、あなたの助けが必要なの」


「呪い?」彩子は驚きと共に疑念を抱いた。「どうして私がその呪いを解くことができるのですか?」


「正確には、あなたの時を操る力。それが鍵だったのよ」ミリディアは静かに答えた。「ごめんなさいね。私の力を受け継けつぐと同時に呪いも解除してもらうつもりだったの。」


「本当は、もう少し時間をかけて、あなたにお願いする予定だったのよ?だけど……思いのほか、年月が経ってしまい、もう余裕がないの。お願いよ。時間を遡り、私が呪われた瞬間に、その呪いを解除して欲しいの」


ルビーナの声が緊張感を帯びて響いた。「あらあら彩子ったら、油断大敵よ。この人の腹の中、まだ読めてないんだから。用心に越したことないわよ、わかった?」


ルビーナの声には答えず、彩子はしばらくの間、ミリディアの目を見つめていた。そこには真実と絶望が混じり合った表情が浮かんでいた。


「分かりました。あなたの言う通り、試してみましょう」


「彩子!」ルビーナが叫んだ。


ミリディアは安堵の笑みを浮かべた。「ありがとう、彩子さん。あなたの助けがなければ、私は永遠にこの地に囚われたまま闇に堕ちるところだったわ。」


「大丈夫よ、ルビーナ」と言うと彩子は深呼吸をし、集中力を高めた。時間を遡るための魔法を発動する準備を整えた。


「行くわよ、ルビーナ」


ルビーナは答えなかったが指輪が光り出した。それを了解と受け取った彩子は魔力を高めた。二つの魔力が一体となり、時の流れが逆転し始めた。彩子の意識は過去へと飛び、ミリディアが呪われた瞬間へと向かっていった。


しかし、過去にたどり着いた瞬間、彩子は何か異様なものを感じた。そこには想像を絶する強力な魔力が渦巻いていた。彼女はその魔力の正体を見極めるため、さらに深く探ることにした。


突然、強烈な光が彩子を包み込んだ。彼女は目を閉じ、その光に耐えた。光が消えた時、彼女は見知らぬ場所にいた。そこにはミリディアが一人で立っており、何かを叫んでいた。


「これが...呪いの瞬間...?」彩子は息を飲んだ。


ミリディアは立っているというより何らかの力で身動きができないらしい。闇の中から何人かの影が現れた。その影はミリディアに向かって手を伸ばし、呪文を唱え始めた。


「これで終わりだ、ミリディア。お前の力は我々のものだ!」一人の大魔女が冷酷な声で言い放った。


ミリディアは抵抗しようと力を振り絞ったが、結界は彼女の力を完全に封じていた。「どうして!私はただ、皆を守りたかっただけなのに!」


「その力が強すぎるのよ。ミリディア、お前がいる限り、我々の地位は脅かされる。お前が闇に堕ちた後に光の力は我らのものとなる」2人目の大魔女が冷たく言い放った。


呪文がクライマックスに達した瞬間、ミリディアの体が闇の力に包まれた。彼女の目は闇に染まり、絶叫が森中に響き渡った。


「これでお前は終わりだ。永遠に闇の中で苦しむがいい!」3人目の大魔女が言い、大魔女たちは笑い声を上げながらその場から消え去った。


彩子はこの瞬間を目撃し、呪いの正体を理解した。(これが...全ての始まり...)彩子は決意を固めた。(この呪いを解かなければ...)


彩子は深呼吸をし、周囲に塩の円を描いた。ルビーナから受け取った魔法の杖を掲げ、月光に照らされる。彼女は目を閉じ、過去へと意識を飛ばす。時間の糸が彼女の周りで踊り、過去と現在が交錯する。


「時の流れよ、私に力を。過去の闇を照らし、呪いの根源を明かせ」


彩子の体が淡い光に包まれ、魔法陣が足元に現れる。魔法陣の中心に立つ彼女は、ゆっくりと両手を広げ、ミリディアの呪いが生まれた瞬間へと意識を集中させる。


「闇を光に、憎しみを愛に、呪いを祝福に」


彼女の言葉とともに、魔法陣が輝きを増す。時間の糸が彼女の周りで渦を巻き、過去と現在が一つになる瞬間、彩子は全ての力を解放した。


「解き放て!」


強烈な光が周囲を包み込み、呪いの鎖が砕け散る音が響いた...


彼女は力を込めて、呪いの解除に挑んだ。全ての力を振り絞り、時の流れを操作し、呪いの瞬間を変えようとした。


(お願い...成功して...!)彩子の心の叫びが響いた。


時の流れが一瞬止まり、全てが静寂に包まれた。次の瞬間、彩子は現代に戻り、ミリディアが目の前に立っていた。


「ありがとう、彩子さん」ミリディアの声は感謝に満ちていた。「あなたのおかげで、私は解放されたわ。」


彩子は微笑み、「これで、あなたは自由です」


ミリディアは深く礼をし、「これからも、その力を使って多くの人々を助けてね。力はまだまだ、全て解放されてはいないけど、その力は間違いなく彩子さん、あなたのものよ。」と言い残して消え去った。


彩子は深い満足感とともに、村の平和を守るためにさらに努力を続けることを誓った。


その夜、彩子は森の中で瞑想を終えると、ルビーナに話しかけた。


「ねえ、ルビーナ。あの時、ミリディアさんを見てどうして『逃げて』と言ったの?」


ルビーナは一瞬黙り込んだが、やがて重い口を開いた。「それはねぇ~私たちにとってミリディアの存在が、脅威になる可能性があったからよぉ」


「脅威って?」


「ミリディアはねぇ、かつて強力な大魔女だったわぁ。彼女の力は計り知れないほど強大で、多くの人々を救い、守ってきたのよ。でもぉ、その力が強すぎて、彼女は他の大魔女たちの嫉妬と恐れを招いてしまったのよぉ」


「他の大魔女たちはね、ミリディアの力が自分たちの地位を脅かすと感じて、彼女を排除しようと決意したのよね~。その結果、彼女たちは協力してミリディアを呪ったのよぉ」


「どうしてそんなことを…?」彩子は驚きと悲しみを隠せなかった。


「ミリディアが~持つ光の力を奪い、彼女を闇にぃ引きずり込むためだったわぁ。彼女たちはぁ、ミリディアの力を奪い~貶めるだけでなくぅ、彼女自身を破壊と混乱の象徴に変えようとしたのよね。そのために、彼女の中に闇の力を植え付ける呪いをかけたのぉ」


ルビーナの声が低く静かに「闇の儀式はね、凍てつくような残酷さを纏っているのよぉ。ミリディアは、その呪いの鎖に心も身体も縛られ、ギリギリと締め付けられてね、意思もなく自我もなく破壊と混沌の化身と化してしまうのよ。」


「彼女の内に潜む闇の力がぁ、紡ぎ出した呪いは、彼女の息の絶えぬ限り、周囲の魂をも蝕み破壊する運命にあったのよぉ」


「ミリディアはぁ、その呪いによって長い間苦しんだわ。自分の中に芽生えてしまった闇の力がそれ以上大きくならないように魔力を使って抑え続けたの。その為に早くに死んでしまったわ。本来なら大魔女であるミリディアの寿命は~まだまだ尽きる事は無かったはずなの。でも、彼女は希望を捨て無かった。自分の力を受け継いだ彩子に助けを求めたのよ」


「ミリディアがぁ私を造り力を託す時、闇の力は排除したのよぉ。だから、再び現れたミリディアは闇の力しか纏っていなかった。だから危険だと思ったのよぉ。でも~あなたが彼女を解放してくれた。彼女は本当に救われたのよ」


彩子はその話を聞いて涙を浮かべながら言った。「私は彼女を助けることができてよかった。ミリディアさんも解放されたし、私たちの力もさらに強くなったわ」


ルビーナも、「そうね~あなたの判断は正しかったわ。これからも一緒に頑張りましょう」と答えた。


その夜、彩子はルビーナとの絆を再確認し、さらなる成長を誓った。しかし、ミリディアを救った事で新たなる困難がこれから先に待っているとはこの時彩子は思いもしていなかった。ルビーナが漏らした小さなため息にも気が付かなかった。



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