第2話銀髪の魔女 ミリディア後継者としての試練

彩子は自身に宿る大魔女ミリディアの魔力と知識を実感し、本格的に魔法の修行をはじめた。とは言え村の魔法の授業は、彩子にはあまりにも易し過ぎた。既に、大魔女の後継者となった彩子は、簡単な火魔法ですら、大惨事になり得ない魔力が込められてしまうのだ。


村の魔法の教師ケイラは、かつて最強の魔法使いと恐れられた人物だった。しかし、ケイラは過去の戦いで深手を負い、魔力の8割を失った。残りの力でも一流の魔法使いと呼べるが、今は生徒の指導に力を注ぎ、特に優れた才能の彩子には全力で指導することを決めていた。けれど、彩子の力は桁違い過ぎた。とてもケイラがなんとかできるような力では無かった。


一方で、クラスメイトたちは彩子の影響を受け良い意味での競争心が芽生えた。特にクラスメイトのフリオは生まれつき微力な魔力しか持っておらず、魔法を覚えるのに並々ならぬ苦労を強いられていた。しかし、そんな中でも教師のケイラの指導で、魔法を諦めることなく、必死に努力を重ねていた。


彼らは、彩子の成長に大きく影響した。ルビーナの厳しくも愛情深い指導は、彩子に魔法の奥深さとその責任を教えた。フリオのひたむきな努力は、彩子に諦めない心と友情の価値を教えた。ケイラがフリオを真剣に指導する姿には、生徒に対する慈しみが溢れていた。彩子は、彼らとの交流を通じて、自分の力を他人のために使うことの必要性と力の制御の重要性を感じた。


そんな彩子にルビーナは「私なら、ミリディアの力の扱い方を指導できるわよ~」と言ってきた。「そもそも私しか教えられないのよ」とも付け加えた。確かに、そうだろう。なんと言ってもミリディアに作られ、力を宿した指輪なのだから。


暫く彩子は考えていたが、「お願いします。力の使い方を教えてください」とルビーナに真摯に頼んだ。


「わかったわ。私を信じてくれて嬉しいわ」ルビーナは喜んだ。「これから大魔女の魔法の真理や力の正しい使い方、制御方法を教えていくわ」


ルビーナは長年の経験から、ミリディアの魔法の理論と実践方法を熟知していた。彩子は既に魔女としての素質と力を持っていたが、魔法に否定的だったため、それらを十分に活用できていなかった。


ルビーナは基本から丁寧に教え始めた。魔力の呼吸法、精神統一、魔法陣の書き方など、魔法の基礎を徹底的に学ばせた。


「魔法とは~精神と肉体の完全な統合。自然の理を理解し、調和を保つことが肝心なのよぉ」とルビーナは説いた。


また、魔法には多くの原理と規則があり、安全に扱うための禁忌や決まりごとを教えた。大魔女の魔法は強力で、軽々しく扱えば災いが起こりかねない。


彩子は熱心に理論を学び、実践を重ねた。最初は簡単な魔法から始め、徐々にレベルアップしていった。間違えれば痛い目に合うこともあったが、彩子は諦めずに挑戦を続けた。


やがて彩子は、水と光の魔法を自在に操れるようになった。大きな水の渦を作ったり、眩い光の束を放ったりできるようになった。ルビーナは大喜びで「見事ね!大魔女にふさわしいわぁ」と賞賛した。


しかし、これはほんの入り口に過ぎなかった。ルビーナは「まだ大魔女の力の一部しか扱えていないわょぉ」と、更なる修練を促した。空間移動、時間操作、精神干渉といった高度な魔法の指導に入っていった。


ある日、ルビーナから時間操作の実践練習を課された。時間を止めたり、過去に遡ったりする魔法は、大魔女の権能のひとつだった。時間操作の原理を学んだ彩子だが、時間を操ることは想像以上に難しかった。僅かな集中力の乱れでも、時空を歪めてしまう危険があったからである。


ようやく、自身の能力を操れるようになってきたと思った矢先、軽く試すつもりの時間操作魔法で予期せぬ事態が起こった。


最初の試みは酷い失敗に終わった。彩子は自分の力を上手く制御できなく、村の一角を時間の歪んだ領域に閉じ込めてしまった。幸い一時的なものだったが、村人たちはパニックに陥った。彩子は自分の未熟さと軽率さを悔やみルビーナにひたすらお願いして、やっとその領域を解除できたのだった。


落胆した彩子に、ルビーナは「時間操作は最も高度で危険な魔法のひとつよ。力を誤って解き放てば、時空を永遠に歪めてしまうかもしれないのよ」と厳しく諭した。「だからこそ、絶対的な精神統一と自己コントロールが重要なの。少しの迷いも許されないわ」


彩子は深く反省し、ルビーナの言葉を肝に銘じた。以来、空想の修練に余念がなかった。瞑想と精神修行に明け暮れ、心を絶対的に統一する訓練に専念した。精神が完全に統一され、自己がすべてを捨て去った時、はじめて本当の魔力が発揮できるのだ。


修行は極限の連続だった。朝早くから夜遅くまで、ルビーナから課された厳しい特訓に耐えねばならなかった。時の流れを自在に操るためには、常に高度な集中力が求められる。


ある日、彩子は立って歩くだけの簡単な時間操作ですら上手くいかず、何度もルビーナに注意されていた。『いつまでこんな修行を続けるのか...』そう思うと、途方に暮れそうな気持ちになってきた。こんなにがんばっているのに上達する気配がまったくない。自分は本当に時間操作の力があるのだろうか。そもそも、魔力が無かった自分が、大魔女の後継者でよいのだろうか。そう疑いはじめていた。


数ヶ月の厳しい修行を経て、やっとルビーナから次のステップへ進むことを許された。時間操作は大魔女の重要な権能であり、それ以上の指導はルビーナでさえ難しかった。しかし、ミリディア自身が残した理論書が、そのヒントを残していたのだ。


ルビーナは理論書を示し、その解読と実践をさせた。内容は並々ならぬ難解さがあったが、彩子は意を決して挑んだ。時間を自在に操るためには、まず自分自身の存在を無に近づけ、時間の本質そのものと一体化することが肝心だと書かれていた。理論上はそのようなことが可能とされていたが、実際にそこまでできる者がいるかどうかは分からなかった


しかし、彩子なら大魔女ミリディアの後継者として、理論を実践に移すことができるはずだった。彩子はひたすらに理論を学び、試行錯誤を繰り返した。失敗を重ね、時には命を落としかねない危険な目にも幾度となく遭遇した。しかし、それでも彩子は諦めることなく挑戦を続けた。


そして、ついに奇跡が起きた。彩子は自己を無に帰し、時の本質と一体化することに成功したのだ。「時が尽きることなく流れ続けていることを、私はようやく悟ったのです。過去も未来も、たんに途切れることなくつながっているだけなのでした。時間を区切り、それぞれに名前を付けて認識していた自分がおろかだったと気づきました。


全ては一つの大きな流れの中に在り、私自身もその流れの中を行き来しているにすぎません。時を操るなどということは、ただの錯覚に過ぎなかったのです。時の本質とは、絶え間なく存在し続けること、ただそれだけなのでした。


その気づきが私を自由にしてくれました。一瞬の出来事にとらわれず、広い視野で全体を見渡せるようになったのです。過去に執着したり、未来を不安に思ったりする必要はなくなりました。ただ今この瞬間に没入し、時が永遠に流れ続けることを感じ取ればよいのです。そうすれば、一切の煩わしさから解放されるのです。


その瞬間、過去と未来の時間が彩子の前で展開された。彩子は自在に時を操り、望む場所と時間へと移動することができるようになった。ルビーナは声を震わせて喜んだ。「素晴らしい!大魔女ミリディアの指輪として誇らしいわ!」


これにより、彩子は時の支配者となり、前人未到の大魔女の領域へと足を踏み入れた。しかし、彩子自身がはっきりと自覚していた。自分の力は、未だ大魔女の力の一部に過ぎない。これからも、まだ多くの修行が必要なのだった。魔法の領域は果てしなく深く、彩子の修行はこれからが本番となる。しかし彩子は、自分の中に宿る大魔女の魔力と知識を確信し、一歩一歩着実に力をつけていった。






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